15話:憧れと妄想は紙一重。正直、その人次第だよね。
本日三話目です。
まだ読んでいない方は13話からどうぞ!
「……すごい」
中庭のベンチで、リリカは渡された学園案内を捲りながら思わずそう呟いていた。
見たこともないほど上質な紙を鈍器か何かのような分厚さになるまで重ねた学園案内には履修のための手引きだけでなく教師の紹介に学内施設の案内、寮の申請方法……魔法学園内で必要なこと全てが書いてある。
しかもその全てがフルカラーであり、多少時間はかかっても学園案内を見れば解決するようになっている。
こんなものを人数分配るなんて、信じられない技術力と財力だ。
「学園内には固定の授業はなく、習いたい魔法の教師に師事する、か……」
たとえばキリアンのように魔法剣士になりたいのであれば武術教師であるエダム・マッソと属性魔法教師のアベル・オータムランドに師事すればいい……のかもしれない。
けれど、リリカはキリアンの剣が普通の剣ではないことにも気付いている。
剣に魔法を纏わせる魔法剣。その辺の安物の剣……それでも滅茶苦茶高いが……とにかく、そんな普通の剣では出来ないだろう。何か特別な剣のはずだ。
(魔法鍛冶……ううん、片手間で習って出来るものじゃないよね。お金を稼げる仕事とか紹介してくれないかな……?)
索引を見れば「お仕事を探してる貴方へ」と書いてあってリリカはギョッとしてしまう。
まさかそんなものまであるとは思わなかったが、見れば「教師の手伝い」や「売店の手伝い」など学園の雑用をこなすことで学園内で通用する独自通貨を稼げるようだ。
(ダンジョンモンスターとの戦闘実習でも稼げる……え、ダンジョンあるの⁉ 学内に⁉)
リリカは今素手で使える魔法もない。そんなことを出来るはずもない。
せめて何か魔法を使えないといけないが……武器がなければ武術も何もあったものではない。
けれど、魔法を使うのに必須とされている杖もない。
「うう、お金がない……! 素手で戦えないかな……!?」
「お?何やら面白い悩み方をしてるじゃないか!」
「ひえっ!」
突然ぬっと現れた巨体の男にリリカはベンチからずり落ちそうになるが、すぐに学園案内に載っていた写真を思い出す。
「エ、エダム先生……?」
「ほう! 俺の名前を知っているとは……さては受講希望者か! キリアンに憧れたって感じか⁉」
「えっと。はい……」
「ハハハ、青春だな!」
「ニャー」
頷くように鳴いた白猫に……いつからいたのかリリカには分からなかったが……ひとまず視線をエダムに戻して、リリカはすぐにその表情を暗くなる。
「あ、でもごめんなさい。まだ剣がなくて……」
「なんだ、そんなことか」
「そ、そんなことって」
「基本の武具なら学園で貸し出しているぞ? 無論、拳で戦うとしてもナックルガードを貸し出している。俺としては、そちらも戦闘の自由度が高くてお勧めするが」
「貸出……え、そんなものが? いいんですか⁉ 壊しちゃうかもしれないのに!」
「道具も無しに学べなんて鬼畜なことは言わんよ。もっとも、基本の武具だ……もっと良いのが欲しければ売店に行きなさい」
なんと夢のある話だろう。此処で使えるのは学園内通貨なのだから、リリカでも頑張れば買えるかもしれない。
「あの、拳がお勧めって……」
「おお、ただの武術じゃないぞ……魔法格闘術……言ってみれば魔法拳だ! どうだ、習ってみるか?」
「はい! あの、でも。いいんですか?」
「いいって何がだ?」
「習いたい人、たくさんいるんじゃ……」
「あー……」
リリカが聞けば、エダムはなんとも複雑そうな表情になる。
「ほら、今外の世界は魔塔の影響が強いだろう?」
「はい。やっぱり魔法と言えば魔塔……あ、いえ! ごめんなさい!」
「構わんよ。その辺の影響で、やっぱりアベル先生が人気でな……イケメンだし」
「あ、あはは……」
確かに写真のアベルは群を抜いて美形だったが……それに加えて属性魔法教師ともなれば、人気になるのも当然といったところだろうか?
「それにほれ、剣を元々習ってる連中は属性魔法さえ出来れば魔法剣も出来ると思っとるからな」
そう簡単な話ではないのだがまあ、いずれ分かるだろうとはエダムは思っている。いるが、それまで暇なのは困るので良い生徒を見つけに来たのだ。
「仕事もどんどん紹介してやろう。不人気教師はいいぞー、その辺堂々と優遇してやれるからな。何事も分母が小さいほうが平等なのに得できるもんだ」
「なんか悪いことしてる気分です……」
「こういうのライフハックとかいうらしいぞ」
さておき、魔法拳というのは良い響きだとリリカは思うのだ。
魔法剣を覚えてキリアンの隣で戦うというのも夢があるが、ちょっと違う戦い方というのもこう……浪漫があって妄想が実にはかどる。
「え、えへへ……」
(うーん……)
(何を考えてるか丸分かりだな……)
エダムと白猫はリリカを生暖かい目で見て。
ニャーとひと鳴きすると、白猫はその場から去っていく。
ブックマークや評価は今後の執筆の励みになります。
まだ入れていないという方も、今回のお話を機にぜひ入れていただけましたら、とても嬉しいです。☆☆☆☆☆をポチっと押すことで★★★★★になり評価されます!




