13話:いっぱい集まったらしい
魔法学園ヤマダからの招待状。
王族貴族庶民問わず、様々な人が欲しがり……手に入らないならばと、同行者の座を奪い合った。
同行者は一つの招待状につき二人まで。これを多いと見るか少ないと見るかは人によるだろうが、様々な事情や経緯を経て同行者たちが決まり、そして今……一人の少女が、大陸の端の海岸で同じく招待状を持っているか、その同行者か……あるいは持っていないが万が一のチャンスを待っているのか。そんな人々と共に周囲を見回していた。
彼女の近くに居るのは同年代に見えるキラキラしい金髪の少年と、こちらは青髪をオールバックに纏めたキツい目元が印象的な少年だ。
金髪のほうは少女の地元の第一王子であり、青髪のほうは侯爵家の息子……当然のように王命で同行者として連れてきたのだが……何がそんなに嫌なのかイライラした様子を見せる青髪と比べ、王子のほうは楽しげに視線を巡らせている。
「面白いと思わないかい?」
「へ? な、何がでしょうか?」
「この場だよ。ほら、あそこにはこの国の騎士団がいる。あっちにいるのは……赤魔塔の魔法使いたちだね。茶魔塔もいる。ふふ、魔法学園を制圧しようとでもいうのかな?」
「制圧⁉ そ、そんな……」
確かに今王子が言った3つの勢力はどれも殺気立っているように見える。
赤魔塔も茶魔塔も、5人も魔法使いを動員してきている。1人派遣するだけでも大騒ぎなのに、それが合計で10人もいる。これだけいれば街1つ落とすくらいなら簡単だろう。
それに、よく見たら……あちこちにそれぞれの魔塔の所属を示す色のローブを着ている人物たちがいるような……。
「今や誰も魔法学園の存在を無視できない。黒の魔法剣士も白の聖女も、その力を示し過ぎたんだ」
「キリアン先輩……」
「ああ、君は直接会ったんだったね。フフ……君から見て彼はどうだった?」
「えっと、キリアン先輩は」
「アウタール様!」
と、そこで青髪が大声をあげ言葉を遮る。少女は脅えるように、アウタール王子も少しだけ眉をひそめて。
「なんだいイグリット。さっきから態度が悪くないかい?」
「悪くもなります! 何故貴方はそこの庶民にそんな気安い回答を許されるのですか⁉ 貴方の前で顔をあげることすら許されない身分の者が……! 貴様も貴様だ! 王族に直答など許される身分だと思っているのか⁉」
掴みかかろうとするイグリットをアウタール王子が「おい!」と手を伸ばし押さえようとして。
貴族に反抗するなどという考えすら浮かばない少女がギュッと目を閉じる。
だが……いつまでたっても少女には何も起こらなくて。
「……えっ」
忘れるにはあまりにも印象的すぎる少年が少女の前に立ち、イグリットの腕を捻り上げていた。
「ぐ、あ……!」
「困ったもんだな。入学前から騒ぎを起こすなんて」
「キリアン先輩!」
「キ、キリアンだと⁉ 黒の魔法剣士……いだだ……離せ! 貴様が何処の家の出か知らないが僕を誰だと」
「何処の誰だろうと関係ないんだよ」
キリアンはイグリットを地面に投げると、つまらないものを見る視線を向ける。
「魔法学園ヤマダでは外での立場なんて意味はない。そういうことをする奴がいたら容赦なく罰則をくらうと思え」
「……っ! だとしても! 身分から逃れられるものではない! 学園とはそうした振る舞いも学ぶ場所だろう! 庶民が調子に乗った行く末など知れているぞ!」
「そういうのは余所の学園でやれって話なんだよ。魔法以外の全ては魔法学園では些事なんだ。お前みたいに無駄に偉ぶる奴はトラブルメーカーだからな……これからもその調子なら、即座に退学になるぞ?」
キリアンの視線と言葉は、物わかりの悪い奴に向けるソレで。
「イグリット、そこまでだ」
「しかしアウタール様! こいつは常識というものを無視して……!」
「そこまでだと言ったよ、イグリット。これ以上私の評価を下げる気なら帰ってもらおう」
最後通告。それをイグリットは敏感に感じ取る。これ以上何かを言えばアウタールは本当に自分を帰路につかせるだろうと、そうイグリットは気付いていた。
これ以上は反論してはいけない。そう感じたイグリットは「申し訳ありません」と……可能な限り感情を殺した声を絞り出す。
「すまないね。彼も忠誠心はあるんだが……」
「い、いえ……」
「そうかい! 彼については私も今後注意しておこう!」
これで終わりだとアウタールは手を叩き、にこやかな表情でキリアンへと振り向く。
「ああ、こんな形になってしまったが初めまして。私はアレス王国の第一王子アウタール・アレスだ。君はキリアンだったね。いや、これからはキリアン先輩と呼ぶべきかな?」
「そうだな、先輩を先輩と呼ぶのは大切なことだ」
だがキリアンから返ってきたのは、そんな面白がるような言葉だ。
「そこのソレにもよく教えてやっておいてくれ。このままじゃ初の退学者になりそうだからな?」
「そうするよ」
悔しそうな……本当に悔しそうな顔のイグリットをそのままにキリアンは少女へ手を差し出す。
それはアウタールにもしなかった「挨拶」で。少女は驚きながらもその手を握り返す。
「よく来たな。とはいえ、お前なら来ると思っていたよ。改めて自己紹介しようか……俺はキリアン・エルネイスだ」
「わ、私はリリカです! 庶民なので、姓はないです……!」
「そうか、よろしくなリリカ。期待してるぜ」
「はい! 私……全力で頑張ります!」
「良い返事だ」
顔を真っ赤にしているリリカだが……その背後からアウタールが遠慮がちに声をかける。
「あー、すまないキリアン先輩。集合場所はここだと聞いていたんだが……船でも来るのかい?」
「ん? ああ、言ってなかったな。すぐに分かるさ」
キリアンの言葉の意味をアウタールが理解する、その前に。
「よくぞ集まってくれた!」
人間では出せるとは思えない大音量の声が海岸へと響いたのだ。




