124話:その名は魔法生活部
さて、部活動には幾つかのルールがある。
1:新規の部活動は基本的には部長となる者、副部長となる者を含め3人以上の名簿を教師に提出し承認を受けたものが活動開始できるものとする。
2:既存の部活動と内容が被る場合は承認されない場合がある。
3:部活動の理念は同じ目的に進むための交流の場であるということを理解すること。
4:既存の部活に加入する場合は部長、あるいは副部長の承認を受けること。
この中で部長はアウタール、副部長はケルシーでいい。けれどもう一人必要だ。必要だが、誰でもいいというわけでもない。
アウタールは医療魔法、ケルシーは錬金魔法と生活魔法を学んでいる。
出来れば鍛冶魔法……しかし鍛冶魔法を学んでいるイヴァンは魔法道具研究部だ。
正直に言って、アウタールが欲しいような人材はすでにそちらに行っている。
いるが……道具の研究開発だけが主目的ではない。それだけだとルール2に抵触するからだ。
アウタールの作りたい部活の目的は「魔法の成果を一般市民に享受させるための研究」だ、魔法道具はその一環でしかない……という屁理屈、もとい理屈であるわけだ。
「つまり、私たちの部活……魔法生活部を押し通すためには道具方面以外での部員がもう一人欲しい」
「……それって誰?」
「具体的に誰というのはないんだが、そうだな……占術魔法とか、精霊魔法もいいと思う。人を豊かに出来る可能性があるからね」
なるほど、占術魔法の魔導祭での人気っぷりはケルシーも見ていた。
あれは確かに凄い。凄いが……ちょっと首を傾げてしまう。
「一般市民が享受するには占いも精霊もちょっと敷居が高いんじゃない? もっと庶民目線が必要よ」
「うっ」
庶民目線。それはアウタールには確かに欠けているものだ。学園生活で多少は身に着けたつもりだが、まだ足りないのは事実だろう。
「そうかもしれないな。ならケルシー、君の考えを聞かせてくれないか」
「答えは此処にあるでしょ」
言いながらケルシーはコツンと机を叩く。二人の前にあるのはサンドイッチで、新鮮なレタスにトマト、チーズの挟まったシンプルで健康的で、美味しさにも疑いはない。セットのアイスティーだって何の文句もないと、アウタールですら思わせてくれる。
そう、此処は食堂だ。まだお昼には少し早いこの時間、調理魔法教師のカヤが厨房で、調理魔法を学ぶ生徒や雑用をしている生徒たちに素早く的確に指示を出しているのが見える。
その光景をアウタールは見て「あっ」と声をあげる。見落としていた、と。そう気付いたのだ。
「そうか……調理魔法! まさに生活に根差したものだ……!」
「むしろ最初に思いつくものじゃない?」
「いや、まさに君の言う通りだケルシー君!」
立ち上がり自分の手を握ってくるアウタールにケルシーは「は!?」と驚きの声をあげるが、アウタールは感動でケルシーしか見えてはいない……まさに反射的な行動というやつだ。
「私は本当に何も見えていなかったんだな。君を誘って本当によかった! ありがとう!」
「い、いいから離してくれる!?」
「おっと、これはすまない!」
アウタールはパッとケルシーの手を離すが、ケルシーは突然のことに心臓がバクバクと鳴ってしまっている。落ち着くには少しばかりの時間がかかりそうだ。
(ほんっと迷惑な人……! まあ、部活に本気なのは分かるけど……)
ふう、とケルシーは息を吐いて。そんなケルシーに「終わったかい?」と声がかけられる。
「きゃああああああああ!」
「うおおっ⁉」
「うわああああああ!?」
落ち着いたところに声をかけられて悲鳴を上げたケルシーに、まさに声をかけた本人であるヒートンと、真正面に居たアウタールがつられて大声をあげてしまう。
「うるさいよヒートン! 後輩脅かしてんじゃないよボケナスが!」
「え? これ俺のせい? 俺のせいか。あー……脅かしてごめんな? 大丈夫か?」
心臓がバクバクしすぎて辛いところにヒートンの色気のある顔が近づいてきて、ケルシーはすでに限界が近い。もうなんて言っていいのかも分からないパンク状態だ。そしてそんなケルシーの様子を悟ってヒートンは「あー……」と察した笑みを浮かべて少し離れて、収納魔法で綺麗なコップを取り出し魔法で水を注いでいく。
「此処に水置いとくな。落ち着いたら飲んで」
コップを置いた瞬間。奪い取るような勢いでケルシーは水を一気に飲み干して、親の仇を見るかのような目でヒートンを睨む。
「おっと」
「お代わり、ください!」
「はいよ、仰せのままに」
改めて注がれた水をまた一気に飲み干すと、ケルシーは「その顔は罪です!」と叫んで。
「おお……そうかい、ごめんな?」
「プハッ」
多少遅れて状況を察したアウタールが視線を逸らし口元を押さえて、それでも笑い声が漏れてしまう。
この辺はヒートンよりアウタールが多少気が利かないと言えるのかもしれないけど。当のケルシーの顔は一気に真っ赤になってしまう。
「あ、いやごめん。今のは私の失態だ」
「退部するわ」
「いや待って! まだ出来ても居ないから! ごめん、本当に謝るから!」
「俺も謝るよ。ごめんな? 頼むからいったん座って話をしよう。な?」
この後、カヤがアウタールとヒートンを平手でひっぱたいてケルシーの感情を驚きで鎮静化させることで、状況を無理矢理収めたのだが……まあ、なんだって理屈で解決することではないということだろうか。




