125話:調理魔法使いを引き入れよう!
なんか楽しそう。調理魔法を学んでいる生徒の一人であるコレットは、そんなことを思いながらヒートンたちを見ていた。
コレットは庶民の出だ、魔法学園ヤマダに来てから数日は色々な魔法を見て回ったが、一番ピンときたのが調理魔法だった。
他の魔法を覚えても戦闘で身を立てていくイメージが一切湧かなかったというのも理由だが、何よりも調理魔法によって生み出される料理の数々に魅了されたというのもある。
……ちなみにだが調理魔法はオーラ式魔力運用法を基本としている。鍋を振るうパワー、厨房を素早く動き回る速度や器用さ……調理場は戦場だ、を言葉通りにする為の魔法が揃っている。そしてコレットは、調理魔法にそれなり以上の才能があった。だから当然部活も調理部にしようかと考えていたのだけれども、なんとなく所属もしていなかった。その理由は……自分でもちょっと説明できない。けど、もしかすると自分の世界をもう少し広げたいからであるかもしれなかった。
「おーい、コレット。ちょっとこっち来てくれるか?」
「あ、はい。こっちネギは全部切り終わったからお願い出来る?」
近くにいた男子に頼むと、コレットはパタパタとヒートンへ駆け寄っていく。
コレットにとってヒートンは尊敬できる先輩だ。態度も行動も軽いが、その裏には深い情があることが誰にでも分かる。大人の余裕的なものも頼れる雰囲気を醸し出していて、調理部に所属するのは女子の比率が結構多い。もしかすると、そういうのと一緒にされたくないと思ったのもあるかもしれない、けど。
「お待たせしました、ヒートン先輩!」
そんなコレットの茶色の髪は短めに切り揃えつつも、可愛らしさのあるボブカットだ。
前髪が邪魔にならないようにつけた赤いカチューシャもコレットのサッパリとした性格をよく表わしていて、くりっとした茶色の目はそんなコレットの活動的な性格にもよく合っている。
調理魔法使いの初期装備である真っ白なコックコートとズボンは、まさに「らしい」し似合っているのだ。
「この子ならさっきの話にピッタリなんじゃないか? コレットっていうんだけどな」
「えっと、よく分かりませんけどコレットです。こんにちは」
「ああ、こんにちは。私はアウタール。こっちはケルシーだ」
「……よろしく。ごめんね、さっきは騒いじゃって」
「気にしてませんよ。限度はありますけど食堂は騒がしいのが基本ですから」
「ハハッ、コレットはほんと優秀だなあ」
ヒートンが笑えばコレットもつられて微笑むが、少なくとも調理魔法を学ぶ生徒の中でヒートンに褒められて喜ばない者はいない。そんなヒートンが声をかけてくれたということで、コレットはよく分からないままニコニコしている、のだけれども。
「なんかさ、魔法生活部とかいう部活作るらしくてさ、調理魔法使いが必要らしいぜ。コレット、お前どうだ?」
「どうだってヒートン先輩。その説明じゃ何も分からないんですけど……」
「ああ、そこは私が説明すべきところだね」
アウタールが立ち上がり演説を始めると、コレットは真面目にそれを一通り聞いて「んー」と難しそうな表情になる。
「その部活、成り立つんですか? 此処に居るのは皆魔法使いですし、一般市民が喜ぶような研究と実践が出来るかというと、ちょっと疑問なような……」
「成り立つさ。どんな法も施策も、まずは検討から始まるものだからね。形になるには時間がかかるものだし、正直私は先を考えれば実践の場は出てくると考えているよ」
「あ、そうなの?」
「聞かせて貰えます?」
ケルシーは意外に考えているのねという目をしているし、コレットはちょっと疑うような目だ。アウタールは自分の信用の無さがちょっと悲しいが……とにかく、本当に考えはあるのだ。
「キリアン先輩やクリス先輩が外に出ていたことは知ってるだろう?」
「あっ」
「はい」
「聞いた話だと、他にも外に出てる先輩がいるらしい。つまり、外の世界での何かしらの活動は今後私たちもしていくということだ」
確かにその通りだ、とケルシーもコレットも思う。魔法学園ヤマダは常に空を移動しているから外部に出られないと思っていたが、そんな中でもキリアンたちは移動していたのだ。つまり、何らかの行き来する手段が魔法学園にあるという証明に他ならない。それはそれで、恐ろしい程に凄いのだけれども。
「たとえば全体での実習だってあるかもしれないし、そうした際に役立つモノの開発を試していくのもいいんじゃないか?」
「……それって魔法道具研究部の領域じゃ」
「問題ないさ。あちらは主にダンジョンで役立つものを研究しているからね! 私たちはそういうものには目を向けないってわけさ」
まあ、それなら確かに大丈夫かもしれない。問題は、この初めて会う2人の部活に入る理由……それはヒートンに紹介された縁、ということでもいいかもしれない。のだけれども。
「……あたし、お二人がイチャイチャしてるところに挟まりたくないんですけど」
「「してないから」」
「そもそも付き合っていないからね?」
「酷い誤解よそれは」
ヒートンに答えを求めコレットが視線を向ければヒートンは肩をすくめて。
いつの間にやら居た白猫が、幸せそうな顔で尻尾を振っていた。




