表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/23

第7話 冒険者の始め方

 登録はあっさり終わった。


 書類に名前を書いて説明をいくつか受けると、最後に一枚の金属プレートを渡された。手のひらサイズのずっしりした板で、表面に文字が刻まれているが当然読めない。


「これが冒険者証です。身分証にもなりますので、なくさないように」


 受付嬢のミレイさんが丁寧に教えてくれた。


「冒険者には等級があります。一番下が銅級。そこから銀、金、白金と上がっていきます。ソラ様は今日登録したばかりなので、もちろん銅級スタートです」


「銅級! 一番下からか! いいね、伸びしろしかないじゃん!」


「……変わった方ですね」


 ミレイさんが少し面食らったように笑った。でも本当にそう思ったのだ。一番下からのスタート、大いに結構。上がる以外に行き場がないってことじゃないか。


「依頼はあの掲示板に貼ってあります。銅級が受けられるのは印が付いているものだけ。最初は無理せず、簡単なものからどうぞ」


「了解! ありがとうございます!」


 元気に礼を言って掲示板へ向かう。


 依頼! ついに冒険者の依頼ってやつ……!


 わくわくしながら掲示板の前に立った。紙がびっしり貼られている。が。


「読めねえ」


 全部、あの読めない文字だった。


 そうだった。この世界の文字、一個も分からないんだった。喋るのは通じるのに、書いてあるのはさっぱりだ。掲示板を端から端まで眺めても、ミミズがのたくった模様にしか見えない。


 いや待て、これ詰みじゃね? 依頼の内容、一文字も分かんないんだけど!


 しばらく掲示板の前で固まっていると、後ろから声がかかった。


「兄ちゃん、新人か?」


 振り返ると強面の男が立っていた。革鎧を着た、いかにも歴戦の冒険者という風貌。腕に大きな傷跡がある。


「お、分かる? 今日登録したばっかなんだよね」


「だろうな。その辺で突っ立ってる新人は大体そうだ」男はにっと笑った。「で、依頼が読めなくて固まってる、と」


「なんで分かったの!?」


「顔に書いてある」


 うっ。そんなに分かりやすかったか。


「字が読めねえ新人も珍しかねえよ。読んでやろうか?」


「マジで!? 助かる、ありがとう!」


「困った時はお互い様だ。新人が背伸びして死なれちゃ寝覚めが悪いからな」


 なんていい人なんだ。この世界、いい人多すぎないか?


 馬車のおじさんといいこの人といい、異世界に来てから人の優しさにばっか触れている。スライムには負けたけど、人には恵まれているらしい。


 ガドと名乗ったその男は、掲示板の依頼をいくつか読んでくれた。


「まず、これだな。『街の外で薬草採取、一束で銅貨五枚』。安いが危険はほぼねえ。新人がまず受けるやつだ」


「薬草採取……地味!」


「地味で結構。地味な依頼で死ぬ奴はいねえからな」ガドが笑う。「派手な依頼に手ぇ出して死ぬ新人を、おれは何人も見てきた」


 ぐっと言葉に詰まった。確かにその通りだ。スライム一匹に負ける俺が派手な依頼なんて受けたら、十秒で死ぬ自信がある。


「他には『下水掃除、銅貨八枚』『迷い猫の捜索、銅貨三枚』『酒場の荷運び、銅貨四枚』。このへんが新人向けだ」


「冒険者ってもっとこう、魔獣と戦ったりするもんじゃないの?」


「最初からそんなもん受けられるか。死にてえのか?」


「もちろん死にたくはねぇな!」


「だろ。地道にやれ。銅貨貯めて、装備揃えて、ちょっとずつ強い依頼受けて等級上げる。それが冒険者ってもんだ」


 うわー、リアル! 夢がないけど、リアル!


 思い描いてた華やかな冒険者ライフとはだいぶ違う。けど考えてみりゃ当然だ。いきなりドラゴン退治できるわけがない。地道にコツコツ。世知辛いが、それが現実ってやつらしい。


「ありがとな、ガド! めっちゃ助かった!」


「おう。死ぬなよ、新人」


 ガドは軽く手を上げて酒場へ去っていった。


 よし。とりあえず薬草採取だ。地味でも第一歩は第一歩。


 そう自分に言い聞かせて依頼票を剥がそうとして、ふと、わりと致命的な問題に気づいた。


「あれ。薬草って、どれが薬草なんだ?」


 俺、この世界の植物、一個も知らないぞ。どれが薬草でどれがただの雑草なのか、見分けがつくわけがない。


 まあ、四つ葉のクローバー探すよりはマシ……いや、マシか? あれは少なくともクローバーだってのは分かってる分、まだ親切な気がしてきた。こっちは草の時点で全部初対面だ。


「これ、地味に難易度高くない?」


 冒険者の道は、踏み出す前から前途多難だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ