表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/22

第6話 お約束の鑑定結果はっぴょーう!

手をかざして、しばらく待つ。


 鑑定石が、淡く光り始めた。


 お、おお……! 光った……! なんか光ってるぞ……!


 じわじわと、石の輝きが強くなっていく。空の心臓も、それに合わせてどきどきと高鳴った。


 来る……! 何か来るぞ……! 頼む、すごいやつ……!


 その時だった。


 石の光が、ぐにゃりと歪んだ。


「……あれ?」


 受付嬢が、小さく声を漏らした。


 石の中に、何かが浮かび上がってくる。文字のような、模様のような——でも、それが読めなかった。見たこともない、奇妙な記号。くねくねとした線が絡み合った、文字とも言えない何か。


 しかも、それが——二つ、あった。


「……え?」


 受付嬢の顔から、笑みが消えた。眉をひそめて、石をのぞき込む。


「なに、これ……」


 空にも、雰囲気で分かった。何かがおかしい。受付嬢の反応が、明らかに「いつもと違う」やつだった。


「あの、これって……?」


「……少々、お待ちください」


 受付嬢は、石をぽんぽんと叩いた。それから、布で拭いたり、角度を変えてのぞき込んだりした。でも、石の中の二つの記号は、消えない。


「おかしいですね……こんな表示、見たことが……」


 彼女は困惑しきった様子で、何度も首をかしげていた。


 ど、どうしよう。なんか、やばい感じか……? 俺、なんか変なことになってる……?


 不安がこみ上げてくる。さっきまでの浮き足立った気持ちが、すーっと引いていった。


「それ、何かまずいやつなのか……?」


「いえ、その……」受付嬢が言葉を選ぶように言う。「鑑定石に、こんな表示が出るのは、初めてで……。普通は、ちゃんと異能の名前が出るんです。一般異能ノーマルなら『料理』とか『健脚』とか。でも、これは……文字ですら、ない」


 文字ですら、ない。


 もう一度、石をのぞき込んだ。確かに、何が書いてあるのかさっぱり分からない。くねくねした線が絡まっているだけ。読めるとか読めない以前に、文字に見えなかった。


「これ……二つあるのも、変なんですよね……。異能は一人に一つが基本なので。二つあるなんて、英雄レオン様くらいで……」


 受付嬢が、ぶつぶつと呟く。それから、はっとした顔をして、空を見た。


 その目に、一瞬、期待のような光が宿る。


「まさか、固有異能ユニーク……? それも、二つ……?」


「えっ!? ま、まじか!?」


 空のテンションが、再びぶわっと跳ね上がった。


 固有異能ユニーク!? しかも二つ!? それ、英雄レオンと同じやつじゃん……!


 やった。やったぞ。やっぱり俺、選ばれし者だったんだ——


「……いえ」


 受付嬢が、すぐに首を横に振った。


「すみません、それはないですね。固有異能ユニークなら、ちゃんと異能名が表示されます。こんな、読めない記号なんかじゃなくて。これは……たぶん、石の不具合です」


「……ふぐあい」


「ええ。鑑定石も、古くなると稀に誤作動を起こすんです。たぶん、それですね」


 受付嬢が、申し訳なさそうに言った。


 空の中で、ぶわっと膨らんだ期待が、しゅるしゅるとしぼんでいった。


「えっと、じゃあ、俺の異能は……?」


「もう一度、鑑定してみましょう。別の石で」


 受付嬢が、奥から新しい鑑定石を持ってきた。さっきと同じ、透明な水晶。それを台座に乗せて、空に促す。


「もう一度、手をかざしてください」


 今度こそ、頼む……! ちゃんとした異能、出てくれ……!


 石が、淡く光り始める。そして——


 また、ぐにゃりと歪んだ。


 石の中に、同じ二つの記号が、ゆらゆらと浮かび上がった。


「……またですか」


 受付嬢が、がっくりと肩を落とした。


「うーん……二つの石で同じ表示が出るなんて……。でも、やっぱり読めないし、異能名でもないし……」


 彼女は、しばらく考え込んでいた。それから、結論を出すように言った。


「……正直に言いますね。これは私の手には負えません」


「えっ」


「こんな表示は見たことがないんです。文字でもない、異能名でもない、得体の知れない記号が二つ。鑑定石としては、これは『読み取り不能』ということになります」


「読み取り不能……」


「で、読み取り不能の場合、規定では——『異能なし』として登録することになっています」


 ……異能なし。


 その言葉が、ずーんと、空の胸に落ちてきた。


「……えっ、なし!? 俺、異能なし!?」


「あ、いえ、正確には『鑑定不能』なんですけど、登録上は『なし』扱いになってしまって……」


 受付嬢が、慌ててフォローしてくれる。でも、空の耳には、もう「なし」しか残っていなかった。


 マジか。マジで言ってんのか。


 異世界転移した主人公だぞ、俺は。期待しただろ、めちゃくちゃ。エルスとか、固有異能ユニークとか、すごい話を散々聞かされて。なのに——


 異能、なし。


「いや、ないんかーい!!」


 思わず、ギルド中に響く声でツッコんでしまった。


 近くにいた冒険者たちが、何事かとこっちを見る。受付嬢が、申し訳なさそうに小さくなった。


「す、すみません……でも、安心してください! 異能がなくても、冒険者にはなれますから!」


「ほんとか!?」


「はい。異能なしでも、鍛えれば立派にやっていける人は大勢います。むしろ、自分の力だけで成り上がった冒険者の方が、かっこいいって言う人も……」


「……それ、慰めてるよね?」


「い、いえ、本心です!」


 受付嬢が、必死にフォローしてくる。はあ、と大きなため息をついた。


 まあ……いいか。


 落ち込んだのは一瞬だった。空はそういうところがある。考えても仕方ないことは、わりとすぐに切り替えられる。


 異能なし、上等じゃないか。異能がなくたって、冒険者にはなれる。それなら、自分の力で這い上がればいい。漫画でもそういう主人公、いるじゃないか。最初は何も持ってなくて、努力でのし上がっていくやつ。むしろ、燃える展開だ。


 よし。やってやる。


「分かりました! 異能なしでもいいです! 俺、冒険者になります!」


 空がそう宣言すると、受付嬢は、ほっとしたように微笑んだ。


「……はい。では、登録を進めますね」


 彼女は、書類にペンを走らせていく。空は、その様子をわくわくしながら眺めた。


 異能なしでも冒険者になれる。それで十分だった。さっきの変な記号のことは、もう頭から抜けていた。石の不具合って言ってたし、まあそんなこともあるだろう。


 それより今は——冒険者だ。新しい人生の、始まりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ