第19話 初めての仲間
二人を近くの酒場のテーブルに連れていった。
立ち話もなんだし事情があるならゆっくり聞いた方がいい。果実水を三つ頼んで二人と向き合って座った。
改めて見ると本当に対照的なコンビだった。背の高い真面目そうな男と、小柄でビクビクした女の子。なんというか凸凹だ。
「で、まず名前から聞いていい? 俺はソラ。見ての通り銀級なりたての異能なしだ」
「俺はウィット」男がぴしっと背筋を伸ばした。「槍使いで異能は並。よろしく頼む」
お、並持ち!一万人に一人のレアじゃん! すごいな!」
「で、こっちが」
ウィットが隣の女の子をちらっと見る。女の子はぴくっと肩を震わせてから、消え入りそうな声を出した。
「ね、ネル……です。回復魔法、ちょっとだけ使えます……」
「お、回復役! いいじゃん!」
反応した瞬間ネルがまた「ひっ」と縮こまった。声でかかったか? でも回復魔法ってめちゃくちゃ貴重なはずだ。さっきの募集でも「回復役募集」がやたらあった。なのにこの自信のなさ。情緒が忙しい子だな。
「いや回復使えるとか普通にすごくない? なんでそんな申し訳なさそうなの?」
「だ、だって……わたし、ちょっとしか使えないし……怖がりだし……足、引っ張っちゃうし……」
ネルがどんどん小さくなっていく。最終的に机に埋まりそうな勢いだった。豆腐メンタルってレベルじゃない。一回の戦闘でメンタル何回死ぬんだこの子。
「えーと、それで」
本題に戻すことにした。
「なんで俺を誘ったんだ? さっき聞いたら二人とも気まずそうにしてたけど」
その瞬間、ウィットとネルが同時にうっと固まった。やっぱ何かあるなこれ。
ウィットがしばらく言葉を選ぶように黙ってから、観念したように口を開いた。
「……正直に言う。俺たち、他のパーティに入れてもらえなかったんだ」
「お、おう」
「俺は槍使いだけどヴァルス持ちっていっても大して強くない。要領も悪いし判断も遅い。ネルは見ての通り怖がりで、回復魔法もまだ未熟で」
ウィットがぐっと拳を握る。悔しさをこらえてるみたいだった。
「何度もパーティに入ろうとした。でもどこも『使えなさそう』って断られて。即戦力にならないって。俺たちみたいな半端者、誰も組んでくれないんだ」
ああ、なるほど。なんとなく話が見えてきた。
「で、そんな時に俺の募集を見つけた、と」
「『異能なし、地道にコツコツやりたい人歓迎』って書いてあって」ウィットが頷く。「それ見て正直ちょっと安心した。あ、この人なら俺たちでも組んでくれるかもって」
ネルもこくこく頷く。
「ソラさんの貼り紙……なんか、あったかかったから……」
あったかい。あの地味な募集文が、まさかの高評価だった。盛らずに等身大で書いたのが逆に響いたらしい。世の中分からんもんだな。
でもウィットがすぐ、はっとした顔で頭を下げた。
「……ごめん。こんな理由で。お前からしたら迷惑だよな。弱いやつ二人に押しかけられて。さっき気まずそうにしてたのは、後ろめたかったからで」
「わたしたち、本当に弱いんです……。だから、無理にとは……」
二人がしょんぼり俯く。
なるほどね。事情は分かった。要するにこいつらも俺と同じだったわけだ。弱くて半端でどこにも入れてもらえなかった、はぐれ者。
……っていうかさ。
俺はこらえきれずにぷっと吹き出した。
「えっ?」
「いや、ごめん。だってさ」
笑いながら二人を指さす。
「弱いやつが組んでくれなくて困ってる二人が、よりにもよって異世界一弱いかもしれない俺んとこに来たんだぞ? なんだこれ、弱者連合じゃん!」
「じゃ、弱者連合……」
「字面ひどいな! でも事実だろ!」
ウィットがぽかんとした。ネルもきょとんとしている。きっと断られるか同情されるかのどっちかを覚悟してたんだろう。まさか笑い飛ばされるとは思ってなかったらしい。
「いやいや最高じゃん。弱いやつ同士お互い様だろ。俺なんて剣覚えたてで、こないだオークにボッコボコにされたばっかだぞ?」
続けて言う。
「ソロで挑んで見事に返り討ち。死にかけて知らないパーティに助けられた。かっこ悪いったらないわ」
あえて自分の失敗をぶっちゃけた。二人が自分たちだけ弱いって思い込んでるみたいだったからな。
「だから俺も人のこと言えないの。むしろ似た者同士だろ。弱いから組めないなら、弱いやつ同士で組めばいい。なんも問題ない」
「で、でも……それじゃ強くなれないんじゃ……」ウィットが不安そうに言う。
「は? なるに決まってんだろ」
きっぱり言い切った。
「弱いままでいる気なんて最初っからないし。一緒に強くなりゃいいんだよ。今弱いのはただのスタート地点ってだけ。問題はここからどう上がってくかだろ?」
ウィットがはっとして顔を上げる。
「考えてもみろよ。俺ら全員、伸びしろしかないんだぞ? これ以上落ちようがないんだから、あとは上がるだけ。最高じゃん。スタートが地下なら、地上に出るだけで成長を実感できる。お得すぎるだろ」
我ながらなかなかいいこと言った気がする。
実際これは本心だった。弱いのは事実だ。でもそれは今だけの話。これから強くなればいい。一人じゃ限界があるって嫌ってほど思い知ったばかりだ。なら誰かと組めること自体が、もう一歩前進してるってことだろ。
「だから組もうぜ、三人で。弱者連合、改め——」
ちょっと考えて言い直す。
「いや、弱者連合のままでいいや。語呂いいし」
「そこは変えないのか……!」
ウィットが、思わずといった感じでツッコんだ。さっきまでの硬さが、ちょっとだけほどけた声だった。
お、ツッコミできるじゃん。いいぞいいぞ、その調子だ。
「よし、決まりな。今日から俺ら、仲間だ」
手を差し出す。
ウィットが、少し驚いた顔をしてから、ぐっとその手を握り返してきた。硬い、剣だこならぬ槍だこのある手だった。こいつなりに、ちゃんと積み重ねてきたんだろうな。
「……ありがとう、ソラ。よろしく頼む」
「ネルも、ほら」
「は、はいっ……よ、よろしくお願いします……!」
ネルが、おっかなびっくり手を重ねてくる。小さくて、ちょっと震えてる手だった。
三人分の手が、重なった。
なんか、いいな。これ。
弱者連合。字面は最悪だ。でも、こうして誰かと一緒に何かを始めるのって、思ってたよりずっと、胸が躍るもんだった。
はじめて仲間ができた。
たった三人。しかも全員弱い。でも、ここからだ。ここから、始まるんだ。
「よーし、善は急げだ! さっそく依頼受けに行こうぜ!」
「えっ、もう!?」
「鉄は熱いうちに打てって言うだろ! 善は急げ! 思い立ったが吉日!」
「な、なんだそのやたら勢いのある言葉……! よく分からんが、とにかく行くんだな!?」
「おう! 細かいことはいいんだよ!」
戸惑うウィットとネルを引き連れて、俺は意気揚々と酒場を出た。
弱者連合、結成。記念すべき、はじめの一歩だ。




