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鏡に咲く花を抱き、水月へと還る  作者: 雪月花


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第7話 森の王者からの依頼


 あれから、いくつか朝が過ぎたころ。

 私とヨムンはリビングのソファに並び、紅茶を飲んでまったりしていた。


 膝の上に覆い被さっている白い彼を、いつもの癖で撫で続けている。

 けれど不意に、そのふわふわがアムークのモジャモジャと重なり、私はゆっくりと口を開いた。


「ねぇねぇ、矢入れも出来たことだし、あのアムークに渡しにいかない?」

「……そんなに早く渡したいの?」

 ヨムンは重そうに瞼を持ち上げ、目線だけを私に向けてきた。


「それもあるけど……」

 私はふわりと宙を見上げて続けた。

「どうしてか、気になるんだよねぇ」


「えっ? あのアムークが?」

 ヨムンが素早く顔を持ち上げ、心底不思議そうに私を見つめる。


「うーん。気になるというか……会いたいというか……」

「…………」


「やっぱり渡しに行こうかな。矢入れがあった方が助かるだろうし」

 私はニコッと笑うと、さっと立ち上がった。

 ヨムンもそれに合わせてソファから飛び降りる。


「え? 本当に行くの?」

 けれどトンと軽やかに床に立った彼は、珍しくそわそわと足踏みした。

 私はそれを渋っているものだとてっきり思い、裾の長いケープを羽織って支度をする。

 そして作業机に置いてあった矢入れを手に取り、その足で玄関に向かった。


 外に出て扉を閉めようと振り返ると、白いキツネがトコトコとついてきていた。


「あれ? ヨムンも来てくれるの?」

「う、うん……だって、どこにいるか分かってないでしょっ」

 つんと顔を背けたヨムンが、そのまま澄ました様子で外へ出た。


「ふふっ。ありがとう」

 私は扉をパタンと閉めると、どんどん遠ざかっていく白い尻尾を追いかけた。




 けれどあんなことを言っていたのに、ヨムンは森の中に入るにつれ、目に見えて足取りが重くなっていった。

「これだけ探しても見つからないから、もう帰ろうよ」

「え? まだちょっとしか歩いてないよ?」

 私がきょとんと返すと、彼はげんなりと遠くを見つめる。


 ……思ってたより外が寒いから、早く帰りたくなったのかな?


 そんなことを思いながら、霧に包まれた森を進んだ。


 服の裾が茂みに触れてガサリと鳴る。

 やがてその中に、細い水音が紛れ込んできた。

 サラサラという水の囁きに惹かれて、つい足がそっちへ向かう。

 すると小さな沢が横たわっており、私はひょいと一跨(ひとまた)ぎした。

 ヨムンもひらりと飛び越えてそれに続く。


「こっちの方は久しぶりに来たね」

 そう言って私は、透きとおった冷気を吸いこみ辺りを見渡す。

 すると、ずっと前からあったかのような木の家が、霧の中に浮かび上がった。


「あ、ここかも!」

 思わず声を上げると、ヨムンが「うぐぐ……」と耳を伏せる。

 尻尾までも低くし、先が地面につくほどだった。


 そんな縮こまったキツネに目をやりながら木の家に近づいていくと、ちょうど庭で薪割りをしているアムークがいた。


「こんにちは!」

 見つけられたのが嬉しくて、ニコニコと小走りで駆け寄る。

 するとアムークは斧を切り株に置き、ゆったりとこちらに向き直った。


 私はそわそわしながら、大事に抱えてきた革の円筒を差し出した。

「あ、あの。頼まれていたものが出来ました」


 途端にアムークが目を細め、周囲の空気までやわらぐ。

 そして丁寧な手つきで円筒を受け取ると、中を覗いたり背中にかけたりしてから、両手を高々と掲げた。


「ふふふっ」

 喜んでもらえた安心感と、仕草の可愛らしさに思わず笑みがこぼれる。

 そんな穏やかな空気の中、私はおずおずと話しかけた。


「あの……」

「…………?」

「やっぱり何でもないですっ」


 頬を染めて目を伏せる私に、隣で様子を見ていたヨムンが口を挟む。

「ナナシィ、なんか変だよ」

「だってーー」

 私はついっとヨムンに潤んだ視線を向けて続けた。


「もふもふしたいんだもの」


「…………え?」

 白いキツネが、たっぷり間をとってから目を丸めた。


「このアムーク特有のモコモコした毛が、柔らかそうだな〜って」

 私が茶色の毛並みをチラチラと眺めてはため息をついていると、彼が無言で腕を差し出してくれた。


「え? いいの?」

「…………」

 息をのむ私に、頷き返すアムーク。

 私はパァッと顔を輝かせて、指先でそろりと腕に触れた。


「わぁ! 思った通りモコモコしてる〜!」

 あまりの感触に夢中で撫でていると、横からヨムンの声がした。

「……僕の方が柔らかいよ。絶対」

 けれどそんなぼやきも耳に入らないほど、私はアムークの毛並みに心を奪われていた。

 勢い余って腕に抱きつき、その中に頬を埋める。


「もふもふだぁ〜」

「ナナシィ!?」


 するとすぐさま、低い声が頭の上から降ってきた。

「……さすがにそれは、恥ずかしい」



「…………」

 弾かれたように顔を上げた私とヨムンは、揃ってアムークを見つめる。

 そして同時に息を吸った。


「「しゃ、しゃべったー!?」」


 いつもは静かな森に、ふたりの叫び声が響き渡った。




 ーーそのあとで、彼は「カイ」と名乗った。


「言葉が通じるなんて思わなかったなぁ」と、ぽつりとこぼしながら。




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