第18話 アビの母親、あの時の真実が明らかになる。そしてジェシカの二人への仕打ち
ジェシカの北欧の家、高層マンションの最上階には、意外な顔触れが・・・当の本人達にとっては、以外ではない必然的な顔触れと言えるのだが。
魔物二匹は部屋の片隅で萎れていた。と言うのも、かなりお怒りのご様子のレディ・ナイラに気圧されていた。彼女が怒り出せば、生前のあの北の極み殿でも北極に籠って、うろつかなくなってしまう迫力なのだ。
「ジェシカって名でしたかしら。あなた、よくまぁろくでもない生まれ育ちのくせに、人間の魔女と偽って、彼女たちのトップに居座り続けたこと。アビが酷くなついていたから、捨て置いていたけれど、今となっては魔女達に、もっと早く素性を明かすべきだったわ」
「あーら、そんな事をしたら、自分の正体も割れてしまうから黙って居たんじゃなくって」
「お黙り。私の周りの皆は、私の正体は知っていますよ、お生憎様。アビと舞羅を人質にしているつもりでしょうが、そこの愚か者達、いったい何の目的で愚かな行動に出たのかしら。人間界を魔物が支配しようなんて、よくまあ、バカバカしい事を思いついたわね。もう、龍神達の手で、魔物の主だった馬鹿は始末されていますよ。生き残っているのは、お前達だけです。だからアビと舞羅を開放しておしまい。もうすぐアバ達が此処へ来ますけど、彼等に殺されたいの、ジェシカも。きっとそうなんでしょうね。愚か者。アバの怒りをまともに受ければ、お前達もきっと自分たちのしでかしたことが、身に染みるでしょうよ」
魔物の一匹が恐る恐る口を開いた、
「ジェシカ、本当に魔物の主だった奴はやられたぞ。苦しまずに死ぬにはそいつらを解放した方が良いな」
「まっ、今更それを言うの。あたしを散々利用しておいて。あんた達に言われてアビと舞羅の気配を消したのよ。その言い方だと、あたしも一味みたいに聞こえない?」
「聞こえるも何も、れっきとした一味じゃない。これ以上の仲間が存在するとは思えないわねぇ。そのへぼ魔法さっさと解いたらどうなの。まぁ、かけた本人が死ねばどっち道解けるでしょうけど」
「おほほ、それがねえ、この魔法はね、あたしが死んでも解けないのよ。私があのママから教わった究極の魔法なの。かけた魔女が死ねば、この霊魂を入れた器の中に居る者も死んでしまうの。残念でした」
「へえ、そうなの。じゃあ魔法を解く気にさせれば良いって事?そう言えばあなた、龍神を食べているから、少々の事では死ねないんじゃなかったしら、手始めにこんなのはどうかしら」
レディ・ナイラはそう言って、ジェシカを壁に飾ってあった年代物のほうきで、串刺しにした。ギャッと悲鳴を上げて、ほうきで壁に突き刺さったジェシカだが、血は出ておらず、実際死にそうもない。レディ・ナイラを睨むだけである。レディ・ナイラも迫力満点で睨み返す。
「全く、お前って代物は龍より魔物の血の方が濃いようね。おぞましい。何だってあの魔女は、こんな代物を育てたのか、気が知れないわ。私があの魔女を信用したのがいけなかったのでしょうね。私は済んだ事を後悔しない主義だったけれど、あの魔女にアビを預けてしまった事は一生の不覚ね」
ジェシカは、串刺しにされて苦しいはずだが、にやりと笑い、
「人間って、お人よしの塊、お人よしも程度ものよね。龍神も人間も見ていると反吐が出るわ。だから困らせてやりたくなるのよ。魔物の性ね」
「困らせたいのね、わかった。お前が恩を仇で帰したのね。あの時、お前が魔物の親に知らせたんでしょうね。魔女が子龍を匿っているって。当たりだった?龍神だって困らせたい気分になる者も居るのよ。私みたいなのが」
怒り心頭に発したナイラは、壁に取り付けてある飾りの暖炉に本物の灯をともし、飾りの火かき棒を熱して、これもジェシカに串刺しにした。そして、
「死なないわね、安心だわ。アビや舞羅も安泰なのが分かって」
ジェシカの方は安泰では無さそうである。少しうめき出した。側て縮こまる魔物の方が気弱らしく、
「ジェシカ、もう先は無い。あいつ等を開放してはどうかな」
「お黙り、意気地なし。あんたなんかもう親だなんて思わないから」
「あらあら、親子断絶かしら。でもどこの親子?いやだ、ジェシカ。こいつを親だと思っていたの。全然似ても似つかないじゃない。自分だって、だまされていたじゃないの。あきれるわね」
「なんだってー」
ジェシカはだまされていたのが、今やっと分かったらしい。
ところでこの話の成り行き、アビはアバの息子だし、レディ・ナイラはジェシカのママにアビを預けた事を後悔しているとか・・、と言う事は、アビはアバとレディ・ナイラの子だと言う事である。
実の所、喧嘩した挙句北極に籠ってしまった北の極み殿が、北極から出て来るのをいくら待っていても無駄と知ったナイラ。ナイラは北の極み殿の不甲斐なさに、愛想をつかした。ちょうどその時に、アバに誘われて出来たアビを、こうなったら北の極み殿に自慢しに行こうと思いついたのが仇になった。ナイラは途中で魔物に狙われているのが分かり、以前から懇意にしていた魔女にアビを預けることにした。そして、アビの気配は消してもらっておき、北の極み殿の籠る北極に向って、自分としては囮となったつもりで突き進んでいた。しかし、何故か魔物にばれて、アビと魔女に悲劇が起こったと言う次第なのだ。あの時、アバを頼らず、北の極みを頼ったと思ったアバとは、破局である。何せ、囮のつもりなのだから、行先を変える訳にはいかなかったナイラなのだが。
ジェシカに恨みつらみをぶつけていたナイラのそんな状態のその時、当のアバと付き添いで後ろに従うイダの登場である。
アバは、じろっとレディ・ナイラを見て、
「こんな所で、何をしているんだ。あんたにはもう、関係ない事だろう」
と、けんもほろろの言い様である。
「あら。お宅らがアビをほったらかしているから、もうアビはいらないのかしらと思ったのよ。要らないんだったら、私が連れて帰っても良いんじゃないかしら」
「さっきやっと居所が分かったから、助けに来た。そういう事だから、ダンナの所に戻った方が良いんじゃないか。ほうって置いたらまた誰かの時のように、捨てられるかもしれないぞ」
「私、捨てられたことなどありませんよ。私が捨てた事は、何回か有りましたけどね」
「へぇ、そうかい」
レディ・ナイラは、少し未練がましく眠っているアビを見ながら立ち去った。
イダは小声で、
「来るのが速すぎた。あの人が連れ帰った方が、良かったかも」
と独り言を言いだし、アバに睨まれた。
アバは、辺りを見て、アビと舞羅は霊魂の無い抜け殻のまま横たわっており、二人の霊魂の在りかは、不思議な形をした透明な器の中の様だった。
「何だこれは、変なものの中に霊魂を入れやがって、何のマネだ。ジェシカ」
と、ジェシカに凄んだ。とは言え、ジェシカはナイラに串刺しにされたままなのだが、アバはそんな状態も気にして居ない感じ。ジェシカは段々ダメージが来ているようで、
「ううう」
と言うだけだったが、さっきとは元気がかなり違っているとも言える。
アバは察しているらしく、
「へたれた芝居はせずにさっさと元に戻せ。燃やしてやろうか、おい」
そう言われて、慌てて霊魂を元に戻すジェシカ、燃えたくはないらしい。
アバは魔物二匹をじろりと見ると、
「消えろ、目障りな」
と、あっさり消滅させた。どうやら地獄の奴らよりは小物だったらしく、あっという間の事だった。ジェシカはそれを見て、騙されていたと分かっているので、少しつまらなさそうにしていた。そんなジェシカに、アバは、
「この間、言ったよな。次は無いと。これでも食らえ」
こちらもあっさり、首を転がした。転がった首と、胴体の切り口はジュウジュウと溶けている。
「クソう、おぞましいな。イダ、何処かに捨てて来てくれないか。もう見たくない」
そう頼まれたイダは、ジェシカの死体を持って行きながら、
「アビ達、まだ気が付きませんね」
と、懸念を言う。
「なぜ、同じ器に入れたのかな。嫌がらせだな、どうせ。これじゃあアビの霊魂はダメージがいっているな。こいつも、少しは悪さもしているだろうから、舞羅と同じ所に入れられちゃあ、無事ではいられまい」
アバがそんな話をしていると、舞羅がうっすらと目を開けた。静かに起き上がり、
「アビは何故か、意識が無くなってしまったみたいなの。ほら、眠ったままでしょう」
「そうだな、帰ろうか。舞羅。送って行くよ」
「アビはどうしちゃったのかしら」
「きっと、まだ疲れているんだろう。あいつなりに頑張ったろうし」
アビをほったらかして、アバが舞羅だけ連れて行こうとするので、
「アビを置いて行くの」
と聞くと、
「イダがアマズンに連れて帰るから、良いんだよ。それより舞羅のご家族が心配しているから、早く謝りに行かなければ」
「謝らなくても良いと思うの。魔物にさらわれるのはいつもの事だし」
「アビの代わりに謝るんだ。守り切れなかった事をね」
そう言われて、舞羅はアバの気持ちが分かったものの、そう言う事なら、きっとアビの舞羅とずっと一緒に居てくれると言ったあの約束は、無理なのだと思った。また失恋と言う事である。




