第17話 四龍の地獄での戦い。それは無駄足だったのか
こちらは四龍の内の最初に、本物の御神刀を持って地獄に降り立ったシンである。ここは以前、魔王らしき魔物を追って行きついた地獄の奥底に似ている。
意外と魔物に出会わず、舞羅を探すが、よく考えてみると、地獄には霊魂しか行けない筈で、舞羅の体はどうなっているのだろうかと思ったシン。先走って地獄に来たものの、舞羅の体は何処にあるのだろう。取り敢えず霊魂を探して、舞羅に自分の体が何処にあるか、聞かなければならないと思ったシンである。
地獄の奥底に行くことが出来ているシン、舞羅を探し出す覚悟だったので、近くまで来ることが出来たのではないだろうか。早くしなければと、リスクはあるが、舞羅を呼んでみた。
「舞羅、舞羅、何処に居るのか」
呼べばかすかに、舞羅の声がする。
「シン、ここよ、ここよ」
しかし、辺りは何処も崩れてはいないようだ。それに少し、声が違う気がする。シンは思った。『この声、舞羅ではあるまいな』
そこへ、次々にアバと、イダがやって来た。アバは、
「やけに静かじゃないか。ここはどうなっているのか」
シンは、
「今、偽の舞羅の声が聞こえた。これは罠かも知れぬ。お二人とも気をつけられよ」
と偽の声を聴いたシンが行きついた考えを、二龍に伝えた。そこへ北の極み殿も最後にやって来た。
「どうした揃いも揃って、ポカンと立ちおって。何か異変を感じたのか、シン」
「偽の舞羅の声での、伯父上。地獄には舞羅達は居らぬのかも知れぬぞ」
「何だと、罠か」
極み殿が厳しい声で言ったのと、地獄の業火の塊が四方から流れて来たのとは、ほぼ同時だった。四龍は素早く上に飛んだが、見渡せば此処には出口は無かった。四方の壁の裂け目から地獄の炎の塊、火山の溶岩風な塊が、かなりの速さで辺り一面に流れて来た。
どんどん溶岩風塊は押し寄せて溜まり四龍目掛けて上がってきている。辺りはかなりの広さの筈だが、四龍の居る上部まで届くのはそう長い時間はかからないようだ。
見る見るうちに高熱の溶岩風の塊が押し寄せて来るので、もしも生きている者がこの場に居たなら、その熱風で命を落としそうな状態である。
「シン達は、ここでは雨は降らせられぬのか」
アバがこの期に及んで、冗談ともとれる事を言い出した。シンは、
「この量では焼け石に水だ」
と律儀に答えた。アバは、
「俺達、霊魂だから、あちちと思ってくたばるか、無事かは分からぬが、それでも、降らせねば大事な御神刀が溶けるんじゃあないか」
アバはこの期に及んで自分の命よりも、御神刀の心配である。シンは、
「そうじゃの、我もこれ以上死にようがないが、御神刀が溶けては困るのぉ」
イダも、
「御神刀が無くなれば、真太君達が今後、魔物と戦えないぞ。アボに逆バージョンをさせるべきではないか」
極み殿は、
「そのアボの活躍は、あいつの体力をまた、消耗させるな。だが、こうなったら俺等より御神刀の無事が優先だな」
そう言って、テレパシーでアボに指図した極み殿である。そして、シンは焼け石に水とは言っていても、雨を降らせて少し抵抗を試みた。それに少しでも温度を下げなければ、アボの御神刀回収の方向に、地獄の炎の壁があってはたまらない。
すると、御神刀二振りは、とある方向を向き、同じ位置の壁に吸い込まれるように消えた。
シンは、
「おや、あの辺り、温度が低いと見える」
アバは、
「おう、そうだな。あの辺を崩してみようか。アボの奴、ヘタレた様にしおって、まだまだ能力は現役じゃあないか」
シンは、
「真太が、思い出したらしい。アボはへなへなしている時が絶好調だそうだ」
皆で壁を崩しだすと、あっさり崩れた。このわずかな壁の隙間だけ、地獄の炎の塊は通ってはいなかった。偶然、そんな流れだったのだろう。そして崩した先には、魔物が二、三十匹、四龍神を出迎えていた。
「おやおや、さすが最強と噂の龍神様。こんな罠などあっさり崩してしまったな」
四龍はむっとしてしまい、それからは腕力勝負の戦いとなった。終いには、地獄の大きさに合わせて小ぶりな龍となり、炎を吹いたり、魔物の吹く炎を雨で消したり散々暴れたあげく、ほとんどの魔物を四龍で倒したのだが、肝心の舞羅とアビの霊魂は居らず、目的は果たせてはいない。
しかし、そんな所に、霊獣界から逃げて来た例の魔物が二匹、転がり込んで来た。
「おや、こいつらはどうしたんだ」
恍けたように、極み殿が呟いた。
シンが、
「伯父上、イダの息子が追い散らしたんでしょうが。珍しい火で焼いてあるし、踏めば直ぐ潰れましょうぞ」
「しかし、舞羅とアビの行方を吐かせてからにせねば、ここへ来た甲斐も無し」
極み殿は、霊力ですっかり重くした体で魔物の一匹を半分潰しながら、
「どこへ行ったんだろうな。舞羅とアビは」
と呟くが、
「ふん、どうせ殺されるんだ。言うものか」
と抵抗するので、あっさり踏みつぶし、もう一匹の足を少し踏んでみる。
「こっちの奴も、言いたくないか」
「言います、言います。ジェシカの家で眠らせています」
「そうかい、ありがとよ」
と言った後、魔物の全身を潰してしまった極み殿は、ため息交じりに、
「やれやれ、とんだ無駄足だったの」
アバは深刻な時ほど冗談半分になる傾向があり、
「おかげで、アボの迫真の演技がわかったし、帰って皮肉のひとつも言ってやろうじゃないか」
と言い出した。
地獄から出るとアバとイダは自分の実体に戻りに行くが、シンと極み殿は霊界に帰って行った。アバ達がこれ以上霊界の龍神の手を煩わすことは、遠慮したのだ。後はジェシカの家に行って彼女に詰め寄るだけだと思ったのだ。
時間は少し戻るが、真太とアボパパは、アマズン川で癒えて気が付いたイヅを連れて、アバやイダの眠って居る所に戻るってみると、アボにテレパシーで極み殿が話しかけて来た。
話が終わるとアボは、途方に暮れたように、
「パパの一発芸が、また見たいと言っているよ、真太。地獄の業火の攻撃を受けて、御神刀が溶けそうな感じらしい、こっちに返したいそうだ。出来るかな」
と呟いた。真太は思い出した。
「出来るんじゃないの。さっきから随分へなへなしていたでしょ。俺、思い出したよ。絶好調じゃないの、パパ」
「あはは、バレたか。パパ、地獄に行きたくないからちょっとへたれてみたし、あの魔物なんか、真太達がやっつけるだろうと思ったしね」
「うん、パパは一発芸に集中しないとね」
そんな会話をしていると、御神刀二振りはあっという間にパパの所に戻って来た。
「それに、引き寄せるのは余り体力は使わないんだ。前の時は、病み上がりだったし、地獄のシンの所に飛ばすから、途中で他の魔物にとられないように集中して、少し疲れたんだよ。真太に心配させたね」
「ううん、パパはまだ大丈夫だと思っているから」
そんな親子の会話を黙って聞いていたイヅ、あくびをして少し眠そうである。アボは、
「まだ眠いなら眠って良いよ、イヅ」
「ううん、パパ達がすぐ戻って来るから、待っているんだ」
アボが苦笑いをしていると、アバとイダが目を覚ました。
アバは、
「最近、アボの根性の悪さを失念していた。やれやれ。舞羅とアビはジェシカの所に居るぞ、ジェシカの担当はアボじゃなかったか」
「いや、そういう事、決まっていないだろ。俺は妻帯者だから、遠慮するよ。この間も、香奈の機嫌が悪くなったんだ」
「そうだろうさ。断られるのは分かっていたが、言ってみただけだ」
アバはそう言って、イダとまた出かけようとしているので、真太が、
「僕がパパの代わりに行っても良いかな」
と聞くと、アボは、
「いやいや、お子様には刺激の強い会話があるかもしれないから、止めておけ」
と慌てて止めた。ふうんと思う真太。しかし、どうして舞羅達の気配が消えたのだろう。
パパは、
「あそこにまだ魔物が数匹いるし。それに、ジェシカの魔法が復活しているからだろう」
「シンや極み爺も行かないの」
「アバが自分らで間に合うからと、お帰り願ったようだな」
「そうだね、シンは舞羅の元彼だし、ちょっと気まずくなるよね。アビのパパとしては気を使うよね」
イヅも分かった事があるらしく、
「極みお爺様にも、アバ様は一緒に来てほしくない事情があるみたいだよ」
「どうして」
アボはその会話を遮って、
「イヅ、そろそろ昼寝の時間じゃないか」
まさか。さっきまで寝ていたのにと真太は思ったが、欠伸がまた出たイヅを見て、真太は後で聞くことにした。




