第14話 アビの一途な恋と将来の計画、大発表。そして、命がけの戦いが始まる
深刻な気分でいる霊獣界の龍神一同の筈だが、一龍神だけは初めての恋に浮かれていた。
アボが帰って行くのを見送ったように見せて、自分もまた日の国へ赴いていたアビ。
アバは、そんな息子の事は見て見ぬ振りである。困った息子の動きに構ってはいられない。今まであきらめていた、自分らが壊した魔界の出入り口、何とか塞げないものかと思っていた。実の所、日の国の分は何故か最近塞がっていた。以前、北の極み殿が地獄で暴れまわるし、舞羅の能力で散々に地獄が壊れたのに懲りて、あの頃の魔物の中のどいつかが塞いだと思える。
どんな感じか観察しに行こうと思い立ったアバ。親子、行先は同じ方向だが、目的は全く正反対っぽい感じである。
アビは日の国に来たものの、親父が後を付けてきているのかとギョッとしたが、目的は違ったのが分かり、ほっとする。そしてつくづく、リーダーなんかには、なりたくないものだと考える。今までの事は、とんでもない思い違いだったと判るアビ。
アビは、将来はアボのように人間を装い、舞羅と夫婦になって人間界で暮らす事にして、住処は舞羅の実家近くに落ち着きたいと空想を巡らしながら、舞羅の家に向った。
昨日初めて会ったのだが、今日は舞羅とデートしても良いはずだと思っているアビ、既に見知った間柄なのだから。昨日は流石に誘えないのは分かっていたが、寿命が長いにしては、せっかちな龍神である。断られる可能性など考えはしない。
舞羅の家に着き、ご家族には人間を装うべきかどうか、少し悩み、逡巡する。家に着く前に考えておくべきではないだろうか。そこへ、散歩から帰って来た英輔と出くわす事となる。
「おや、どなたさんですか」
英輔はその様子から、お里は知れているアビに一応訊ねてみた。
「あ、舞羅さんのお爺様ですね。初めまして、僕はアバの息子のアビです。舞羅さんに会いに来ました」
英輔爺さんに会って、察しの良いアビは自分の正体は知れているのが分かり、そう自己紹介した。
英輔は、以前のシンの事も真奈から聞かされていたりしたので、状況は直ぐに察した、『舞羅は龍神に好かれるなぁ』と思いながら、前の悲恋の結果を考えると、何も言う気にはなれず、
「そうかい。おーい、舞羅。アビさんが来たヨ」
と言いながら、家に上がって、上がってと、手招きをしながら玄関の戸を開けた。
好意的なお爺さんにすっかり気を良くしたアビだが、家に上がり込むのも気が引けて、玄関先に佇んでいた。
驚いたように舞羅が出て来た。昨日の今日であるから、内心『早いな、アビ』と思う。
「あら、いらっしゃいアビ、昨日会ったから、久しぶりねとか言えないけど、あたし今から、友達とショッピングに行くつもりだったけど、良かったかな」
微妙な舞羅の言い方だが、恋するアビは全く気にしていない。
「そうだったんだね、急に来たからすまなかったね、特に用事ってほどでもないけど、会いたくなって来てしまったんだよ。先約が有るならまた来るよ。途中まで送って行って良いかな。実は舞羅さんと話がしたかったんだ。もう出掛ける用意はしたの。じゃ、行こうか」
そう言う事になって、一緒に表に出た二人。
英輔爺さんと美奈婆さん、見送りながら、
「舞羅にまた龍神の恋人が出来たのかしら」
「そんな感じだね」
「真奈は知っていると思う?」
「そんな話はしていなかったからな。舞羅が昨日会ったとか言っていただろ。そう言う事じゃないか」
「最近は皆早いわね、付き合い出すのが。シンの方が行儀が良かった気がするけど」
「アビは南国育ちと違うか、暖かい所は人間でも龍神でも奔放なんじゃないか」
英輔達はアビが北欧育ちとは知らない。
「大丈夫かしら。二人だけにして」
そんな話をしながら二人が振り返って部屋を見ると、何故かシンがソファに座って寛いでいた。英輔爺さん、
「おや、シン。最近は用もないのに度々内の家に来るな。どうなっているんだ。大神様とやらに何か言われないのか」
「英輔さんも、最近は言い様がざっくばらんにおなりでは」
「こうも度々会えば、そうなるのが人情というもの。実際何の用かな」
「じきに、魔物が来ますよ。舞羅達の所に。あ、まだ小一時間ほどは来ませんが。そう言う訳で少し早めに来てみましたよ。美奈さんのお気に入りのシンですからね。ここが上より寛げますから」
「ま、そうなの。じゃあ、皆で羊羹でも食べていましょうか。真奈が昨日用意していたけれど、胸がいっぱいで食べられなかったから。シンも上から聞いていたでしょ、舞羅の歌。良かったわねえ」
シンは黙ってうなずいていた。美奈は何だかシンが可哀そうな気がして、もてなしたくなる。本当の所は、龍神は子孫との婚姻は祝福されない事だったのだが。
シンが現れた事を知る筈もない、と言う訳でもなかったアビ。実の所、舞羅に関わる事だけは広くアンテナを巡らしていた。魔物がもうすぐ現れると知り、油断なく辺りに注意しながら、表情は穏やかなまま、舞羅と取り留めも無い会話をしながら歩いて行く。
「お友達とはどこで買い物をするの」
「駅前のショッピングセンターよ。高杉屋デパートにも行くかもしれないわ。あそこには真太君のママが店員さんで居るの。最近は若い人向けのジュエルコーナーの手伝いに言っているの。本当はパートだけれどベテラン風の睨みが必用なんだって。一階の人通りの多い所に居るの。用心棒変わりだって、うふふ。行ったらいつも会えるわ」
「へえそうなの。僕も挨拶がてら真太君のママの所に行ってみようかな」
そんな会話を呑気そうにしていたが、今日はショッピングに行くことが出来なさそうな雲行きになった。
二人の前に図体だけは大きな魔物が現れた。これはアビの印象である。魔物の正体は元仲間であり、現在は半身の魔物として地獄に行った三匹と分ったアビ。この三匹、どうやったのかは分からないが合体して一匹の魔物になっていた。
「きゃあ」
舞羅は驚いて悲鳴を上げたが、
「心配しないで舞羅さん。あいつ等は大したことが無い。図体がデカいだけの奴らだから」
魔物は大声で、
「この間とは違って、随分と大口をたたくじゃないか、ひよっこのアビ。又火あぶりにしてやろう」
と言い、火を噴いたが、アビは魔物がやって来る事が分かっており、覚悟は出来ていたので、龍神の姿になることが出来た(実は初めての変身である)。そして同時にアビも火を吹き返した。龍神の神聖な火と地獄の業火が衝突している様子は、見ものと言える。舞羅は怯えていたので、この事は彼女の感想ではないし、シンはそんなに能天気ではない。この、見ものだと思っているのは近所から駆け付けた真太の感想である。付いて来ているイヅは恐怖を感じていた。真太は、
「危ないから遠くで見て居よう、舞羅」
と、舞羅を引っ張って、この辺で良いかなと思えるところまで下がった。
龍神一人と、半身三匹の合体の衝突は、残忍ながら、0.5匹分多い魔物が優勢になって来ている様だった。真太は加勢すべきではと思っていると、シンが来て、
「手出しはやめておけ、真太。ここはアビが戦う時ぞ。これを倒さねばこの先舞羅を守ることは出来ぬ。負ければ失恋だ。本気の戦いだな」
「それもそうだね。あいつの予定では舞羅と結婚して、この辺りに住むそうだからな」
「ま、二人とも冷たいわね。酷いわ。このままでは負けてしまいそうじゃない。大体なぜそんな予定を真太が知っているのよ。意地悪しないで加勢してあげてよ」
「意地悪では無いぞ、あのへなちょこ魔物ぐらいひとりで倒さねば、先は無いのぉ」
シンがヘラリと言うので、舞羅はじゃあアビが勝つのかしらと思うが、真太には、
「嘘言ってあたしの気持ちを削ごうと思っても、そうはいかないんだから」
と睨む。と言う事はアビと舞羅は相思相愛って事、と真太は考えた。で、
「嘘じゃないよ、あいつの考えは、ダダ洩れなんだから。最近は俺にも分かるし、この事は、龍神達は皆、分かっているからな。考えを隠すことが出来ないんだ。この技は次の勉強会で教えるとアボパパが言っていたよ」
「まあっ、アビったら一人で随分先のプランを立てていたのね。皆に知られているって教えてあげないと。アビっ頑張ってね。さっさと片付けてっ」
舞羅が憤慨しながら大声で応援すると、その声に影響を受けたらしく、魔物の吐く炎が見る見るうちに細々と元気が無くなった為アビが優勢になり、とうとうアビの吐く炎に焼かれて合体の魔物はばらけてしまった。そして三匹ばらばらと逃げて行こうとする。真太はそれを見て、
「シン、とどめは刺さなくて良いの」
「とどめぐらいは真太が加勢しても、アビは文句は言うまい。アビはどうやらへとへとの様じゃ。とどめを刺す元気は残ってはおらぬな」
それを聞いた真太は御神刀を呼んで、張り切って魔物の半身を追いかけて行った。イヅも、お子様でも安心な方の御神刀を貸してもらい、それを持ってついて行った。
舞羅は、人型に戻り倒れているアビに駆け寄った。
「アビー、大丈夫?わぁ、酷い火傷じゃない。どうしてこんなになる迄、頑張ったの。皆遠慮して助けるのは控えていたのよ。側に真太やシンが居たのに」
舞羅が心配して言うのももっともである、アビの全身は酷い火傷を負っていた。そして、気を失って、舞羅の話しは聞こえていない様である。
「アビ、しっかりして、どうしよう、死んじゃったの。いやよ、死なないでッ」
気を失っているだけなのだが、舞羅はうろたえて泣き出した。すると、アビは目をかっと見開き、
「僕は死にませんっ」
アビは何処からそんな元気が出ているのか、全身火傷の体で立ち上がると、
「僕は死にません。舞羅さんを一生守って生きて行くつもりです。だから絶対死にませんから。だから舞羅さん、僕と結婚してください。お願いしますっ」
火傷だらけの体だが必死で跪き、舞羅の手を取った。舞羅は泣きながら、
「嬉しい、アビさんは舞羅を一人にしないのね。きっとよ。でも、あたしまだ中学生なの」
シンはアビ達を見ながら、少し悔しく思っていた。しかし自分の気持ちは、龍神の理としては祝う事の出来ない事と、今なら分かるので、黙って去る事にしたのだった。
アビは舞羅の中学生と言う言葉に少し考え、若すぎるらしいと分かって、
「もちろん、卒業されてからの事ですけど」
「高校もよ、それに友達が行くなら大学にも一緒に行きたいの」
「えーと、後何年ぐらいになりそうですか」
「そうね、一所懸命勉強したら早く卒業できるかもしれないけど、お友達と一緒に勉強したいし。9年だけど、良いかしら」
無言のアビに、さっきから異変に気付いて駆けつけていて、側に居たアバが、
「龍神の寿命からして、そう長い時間ではあるまい、アビ。それにお前も龍としての勉強が必要だぞ。日の国に住むとかいう例の計画は、駄々洩れだからな。さっきの計画は龍神皆承知だから」
「ひぇっ」
アビは悲鳴のような声を出して又倒れ、気を失った。




