第13話 ジェシカのおぞましき正体(残酷でおぞましい話が出て来ますのでご注意ください)
真太とイヅを追い返したアバは、アボはジェシカを連れて来るのを待ち構えていた。こうなったら、あの頃からの事実を確かめておかなければならない。アビを生かしておいてくれたのは、良かったと言える。しかし、現実的には随分気の長いたくらみなので、魔物にしては悠長すぎるし違和感が有った。
アボは、ジェシカを言葉巧みに誘惑的微笑みでもって、アマズンに連れて来た。だが、ジェシカは皆が見えるところまで近づくと、アビ達だけではなく、霊界から来た龍神シンや、何故か半身の霊っぽいジェシカの龍達に気付いてしまった。
〈あの龍神は、アマズンの龍では無いわね。それにあの子達、死んでしまっているのね。と言う事は、お礼がしたいなんてうそでしょ。アボさん。あなた達、どこまでわかって居て、私をだまして連れて来たの。あそこには行けないわ、私。あいつ等の企みに私は無関係よ。帰りたいわ、放してちょうだい〉
放してと言われても、放す気はないアボである。アボはジェシカに気付かれないようにふわりと拘束して連れて来ていた。
〈せっかくあなたの龍達と、最後のお別れが出来る機会なのに、このまま逃げ帰るのですか。ジェシカさん。無関係なあなたなら、何を恐れているのですか〉
〈いえいえ、私の龍はアビだけよ。他のは魔物に脅されて仕方なくアビの所へ連れて来ただけなの。アビは強い子だから、何とかなると思っていたのよ〉
〈そうでしょうかね。アビだけは純粋な龍だけれど、他はミックスでしょう、そして、あなたもだとあのミックス達が白状しましたよ〉
〈ええっ、あの子達は分かっていたの。そう、多分父親が教えたのでしょうね。最初に私が北欧の魔女に拾われて、養女として魔術を教わって育てられていて、そこにアビが加わったの。アビを魔物から助けたのは私の養母。でも、その時養母は魔物に殺されたの。私はアビを連れて逃げて、人間に見えるように魔法をかけたのよ。養母も私にかけていた魔法で、なじみがあって、うまく魔法をかけることが出来たの。でも、しばらくたって私の父親だという魔物に見つかって、魔界に来るように言われたけれど、今更父親面されても、魔界なんかには行かないと私が抵抗したら、すんなり諦めたの。そして、私が魔界に来ないのならと、次々に龍の子を連れて来て、アビと一緒に育てていろって言われて、今までそうして来たのよ。何か考えが有ったのでしょうけど、私はあの子達の面倒を見て来ただけですから。放して、私はもうあの子達とは関わり合いたくないわ。正直言って、皆勝手気ままで、手に負えないのよ。私は魔女のジェシカとして暮らしていきたいの〉
〈んー、どうだかねえ、私の一存で帰す訳にはいかないね。関わり合いたくなくても、一度だけぐらい下に降りて、顔を合わせるくらいは良いだろ。アバがジェシカさんに会ってみたいと言っているし〉
〈嫌なのよっ〉
ジェシカがつべこべ言っても、連れて行くアボ。
すると、今までしょげていた半身の龍達は、ジェシカを見て、声にはならない声を出すように、ジェシカを指さし、口々に何か言っている感じである。
シンは、
「何か言っておるが、英語の口パクは分からぬのぅ。アバは分かるか」
「ああ、霊界でこいつらは母親に会っていて、ジェシカにママが食われたと言っているぞ」
すると、アビは、
「嘘だ。さっきはこいつら、母親には会ったことは無いと言っていたじゃないか。そんな話、信じられないな」
シンは、
「この世では会ってはおらぬのであろう。さっきは、ハイかイイエで答える質問だったからのぅ。霊界で母親に会った話は出来ぬ。それに、アバも真太やイヅの前では、ジェシカの若見えの話題はやめておいたのであろう。まさか龍を食えば若見えになるか、などとは聞けぬぞ」
なるほどと言う感じの、アビである。
一方、ジェシカは、
〈あー、いやだ、いやだ。だから会いたくなかったのに。だって、年を取りたくなかったのよ。アビがハンサムに育ったから、何とか気を引きたかったのよ。お婆ちゃんじゃ見向きもされないじゃないの〉
「何て奴だ。ジェシカは俺達を食う魔物だったのか」
アビは吐き捨てるように言った。ジェシカの龍と言われていたアビ達四龍に睨まれて、
〈何よ、その眼つき。あんたらのママを殺したのは魔物のパパじゃないの。私は死んでしまってから食べたのよ。死んだら痛くもかゆくもないんだから。恨むならママを殺したパパの方でしょ。それに、言っておくけど、パパだって食っていたわよ〉
「酷すぎる。その言い草もだけれど。そんな事をしてよくも母親面していたな」
〈アビのママは食べていないわよ。あの時はアビだけしかいなかったわ。アビのママはもう他所で殺されていたと思うの。それにあの子達のパパの魔物に、龍を食えば年を取らずに若いままだって言われて、私はどんな味かしらと思って、本当はあまり食べたくなかったけれど。でも、老けたママより、若くて綺麗なママが良いって言うのは、男の子へのアンケート結果にあるのよ。これは絶対的意見よ。大手メディアのリサーチではっきりしているの〉
「どうかしている。狂っている。今までもだけれど、あんたの面を見るとぞっとする。二度と会いたくない」
アビにそう言われたジェシカは、
〈ひどい事を言うのね、何もかもあなたの為だったのに〉
アバは、
「そうらしいが、礼を言うべきかどうか迷ってしまうな。アビが生きながらえていたのは、ジェシカの尽力でもあるようだが。しかし、アビがああ言っているので、俺としては世話になったなとだけ言っておくかな。それと、こいつらのママを食った件は、俺も聞いて虫唾が走るな。このまま帰してしまうのも不本意ではあるんだが、アビを生かしてもらった恩があるしな。と言う事で、あんたの行動は相殺と言う事にしておこう。ではお引き取り願おうか。相殺は今日までだからな。この先は、命が惜しければ、大人しく家に籠っているのが利口だろうと忠告しておこう」
〈まあっ、私は今日だってここに来たくなかったのですからね。アボに言いくるめられて来てしまったけれど。もう二度とこんな暑苦しくて不愉快な所に来るものですか。アビには酷い事を言われるし、私、これからはあなた方に関わり合う気は全く有りませんから。あなた達だって、私の家には来ないで欲しいわ。アビとも絶交よ。龍なんて本当は食べたいとは思えない代物だったわ。人間の食べ物のほうがよっぽど美味だったわ、ふん〉
ジェシカはそう捨て台詞を吐いて、帰って行った。
皆で見送って、今日はお開きである。シンは、
「さて、我らも霊界に戻ろうかの。ジェシカはミックスだから、魔物のマネをして主らの母である龍神を食したとしても、口に会わなかったのは本心だろうて。あのような事をほざいたとは言え、主らの母を愚弄したと思うのは考え過ぎぞ。ジェシカは共食いの罪があるし、主等は悔しくは有ろうが、仇は魔物の父親ぞ」
そう言いながら、三龍を引き連れて帰って行った。
アビは、
「あいつら、半身は霊界に行ったのなら、魔の半身は魔界に居るんだろうな。どんな感じなのかな」
「そう言う事になるが、魔も、半分ではどうにもなるまいな」
アバはそう思って言ったのだった。しかし、実際はどうなのだろうか。
黙って皆の様子を見ていたアボは、
「ミックスの心配より、奴らの親の魔物4匹が気がかりだな。どんな奴らか、俺は心当たりが無いが、俺がまだ戦った事のない奴らかな。シンの話では地獄の魔物の住処は下に続いているらしい。まだ崩れていない場所が有ると言っていた。そこに居る奴は頭がそれなりに働くな。舞羅の声は上に行くものだから、下に逃れていれば無事だと分かっていたのだろう。利口な奴が残っていると思っていた方が良いだろう」
アバも、
「そうだな。俺も魔界に行ってみて、魔物がかなり下の方から上がってきているのが分かった。うざったい奴らだ。今更だが、俺等が崩しちまったあの出入口、塞ぐ手立てはないものかなぁ」
「今更考えるのか、アバ。せいぜい頑張れよ、良いアイデアが浮かぶ事、期待せずに祈っておこう。それにしても、家に帰ったら、真太に何か言われそうな気がする。だからつれて来たくなかったのに」
「それでも連れて来たあげく言うか。呆れた奴だな、アボ。真太を育てているうちに、脳がいかれたみたいだぞ。あいつは放って置いても大丈夫なんじゃないか、もう育ち上っているようだ。いい加減に放っておかねば、恐らくお前の頭は真太仕様に改造されるな。真太に都合のいいパパになって来るぞ」
「そんなはずはない、何を根拠に言い出すのか」
「俺等の技の、相手を自分の思うままに動かす技、身内相手に使い始めるのが通例だ。真太の思いどおりに動かされないように、せいぜい気をつけるんだな、と言っているんだ。不味いと思ったら、子離れしろよ。俺の忠告だ」
ギョッとするようなアバの忠告にショックを感じながら、アボは家に帰る事にした。真太の成長は、目覚ましいものが有るのは感じていたアボだが、アバの忠告は多分冗談だと思いたい。




