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僕の土魔法最強伝説!  作者: @さう
第一章 異世界と嫁
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そして僕は旅に出る


 そして僕は旅に出る


 さて、女冒険者3人の内2人は村に住み着いてしまった。

 ルルとサースラだ。


 女冒険者3人は懐も温まって暇だったらしく、ちょいちょい村に遊びに来ていた。

 サースラは村に滞在中、村人と森に入って狩りをしていたのだが、

「毎日狩り…… 私…… この村の子になる……」

 と、痛く気に入った様で、そのまま村に家を作ってもらって住んでいる。

 元々故郷で狩人をしていたらしく、村での生活が気に入ったそうだ。

 森の狩人としての腕は村人よりもサースラの方が上だった。長年冒険者をやってるようだし、村に定住して5年程の村人たちとは年季も場数も違う。

 打倒エルフ! をスローガンに、サースラは村の男たちを鍛えている。

 この前エルフと出会った時の狩り対決で負けたのが悔しかったらしい。エルフやばいと言いながら嬉しそうに笑っていたのに、心の中では闘志が滾っていた様だ。

 狩人教官がサースラの仕事になった。


 ルルはといえば。

「ルルせんせー! これ何て読むのー!」

「ルルせんせー! 火魔法おしえてー!」

「ルルせんせーはぼくに水魔法教えてくれるよね」

「「「ルルせんせー!」」」

 と、村の子供達に群がられて、

「あああっ! 私の人生はここにあったんですね!」

 ということで、村の先生になった。

 文字や魔法を教えている。

 ルルが言うには、村の人たちは魔法の才能が結構あるらしい。

 にもかかわらず、生活にギリギリ使う程度しか魔法を使わない。この才能は伸ばすべきだとルル先生は子供達に魔法を教えている。

 火魔導士格闘術も教えている。稽古風景を見ていたが、投げ技や転ばせる技が主体の様だ。ああやって投げられたり転ばされたりしながらどんどん加熱されていくのか。こわい。

 やがて、弓と火魔法爆弾でモンスターを圧倒し、近接戦闘まで出来る脅威の狩人部隊が誕生するだろう。

 まぁ…… 村の防御力向上にはいいよね。


 エイダは、

「金もたんまりあるし。冒険者は辞めて酒場でも開くさ」

 と言っていた。既に場所の交渉を進めているらしい。

 僕とルル、サースラも出資している。そもそも村での生活では現金を使わない。一応金貨は手元に残してあるが、証文の分についてはエイダに丸投げだ。

 代わりに、一日一食タダ食い可、という確約を取り付けていた。


 ・


「ほう。これは珍しい形じゃな」

「見たことありませんか?」

「うむ。少なくとも儂は見たことないのう」

 村長のお家でいつものダベりタイムだが、今回は少し趣が違う。

 僕は色んな物の図面を木版に書いて村長に渡した。それを一枚一枚説明していた。

 図面は、描いてある図を見ればだいたい分かる様にはしてある。

 文字は覚えたてで怪しい部分もあるが、その辺はルルが上手く解釈してくれるだろう。

 描いてあるものの実物も、鉄製だったり大きさが違ったりしているが土魔法で整形して用意してあるので、わからない所は実物で確認できる。

「弩って無かったんですね。冒険者達も持っていなかったから、もしかしてと思ったんです」

「便利なものなのか?」

「使い方によっては、子供でも狩りができます」

「ほう」

「でも問題もありまして。連射が効かない事と……」

 村長に説明を続ける。

 色々説明したのだが、一番食いついたのが、

「なんじゃ? このぐるぐるしてるのは」

「この部分をお酒が通って、冷えていくんですよ。それで、ここから流れ落ちて、こっちに貯まるわけです」

 蒸留器の図面だった。小さい実物が自宅にあるが、後でもっと大きなものを作っておく予定だ。土魔法便利。

 この蒸留器で作ったお酒はエイダさんの酒場に卸す予定。

 蒸留酒自体は街にもあったのだが、どうやって作るのか僕の周りの誰も知らなかったのだ。

 商人ギルドに確認したところ勝手に作っても別に罰金とかそういうものは無いという事だ。作れたら商人ギルドでも取引したいと言ってきた。ギルドとはいえ、ただの管理組合だ。個人や酒造グループの秘密までは知らないらしい。

 そもそも著作権的な考え方がいまいち薄い。設けても管理できないという事もあるんだろうけど。


 いい香りの焼き樽に入れておくとできあがる、という程度のウイスキーの作り方や、そもそもどうして酒ができるかの仕組みはルルに教えた。穀物からアルコールができる仕組みを教えたので、材料となる物はルルが選んでくれるだろう。

 ただの果物ジュースに強い蒸留酒を少し混ぜればお安くお客さん好みの酒を作れるよ。という僕の言葉に、エイダがニヤリと笑った。ヤる気満々だな。


 僕が知っている限りの農耕知識、便利な道具などの図面。紙の作り方もルルに説明して、凸版印刷のコマも土魔法で大量に作っておいた。

 そして、毎日毎日くず鉄をナイフや鏃、槍の穂先等に変え続けた。備蓄しすぎだが、いざとなれば売り物にもなるし。作っておいて損は無いはずだ。

 僕が居ない間に子供達も大きくなるし、新しい子供も生まれる。道具や日用品は多いに越した事はない。

 ドラゴン討伐の後、僕の土魔法の力は飛躍的に向上した。

 鉄を混ぜあわせる事ができるようになったのだ。

 今までも鉄を割ったり、割った物同士をくっつけたりする事はできた。しかし、全く別の鉄屑をくっつける事はできなかった。分子の構造が微妙に違うからかと思っているが。ともかく、それを混ぜあわせる事に成功した。凄く魔力を使ったが、一歩前進。おかげで製作の幅が広がった。

 毎日鏃と穂先を作っているだけだけども。


 穴掘り用にスコップもたくさん作った。これで穴を掘るたびに僕の事を思い出して欲しい。


 ・


 僕が王都に行く旨を話すと、ラーテが着いてくると言い出した。

「でも…… 道中何が有るかわからないし、モンスターだって出るらしいんだけど……」

 僕の小さな声に、ラーテは大きくため息をついて、

「結婚した男女は最初の半年を必ず同じ寝屋で過ごさなければならないという掟を、ドラゴン討伐にうつつを抜かして破ったくせに。その上旅に同行するのも拒否するというのか?」

 え? 毎日一緒に眠ってくれてたのってそういう事だったの?

「この上また留守にされては妻としての面目が立たん。お前が何と言おうと同行する」

 ギロリと睨みつけられた。

 でも鼻がぴくぴく動いている。旅がしたいんだろう。可愛い嫁だ。


 ・


 出発が近付いたある日、僕達の道中護衛をしてくれる騎士団の騎士長が村に挨拶に来た。

 エイドラゴスが手配し、わざわざ王都から迎えに来てくれた。

 騎士長は白髪を短く切りそろえ、同じく白い髭をモシャっと蓄えた老紳士。体格は細身だった。僕と同じぐらいだろうか?

 もしかすると、普段はデスクワークをしているのに今回は護衛の任務を受けてくれたのかもしれない。ありがたい事です。

「これは、奥様もご一緒ですか?」

 と、騎士長に問われる。

「はい。僕達新婚なんですけど、結婚してから2人の時間が全然とれなくて。これを機会に2人で王都に滞在しようかと。新婚旅行です」

 腑抜けた事を言っているのは自分でも分かるので、騎士長に怒られるかと思ったが、

「それはいいですな。ミチザネ殿は愛妻家でおられる」

 と、笑顔で承諾してくれた。

「ラーテ、僕は愛妻家だってさ」

「愛妻家というのは何だ?」

「妻を大事にする夫の事だよ。そう、僕の事だね」

 ごっ、と鈍い音が鳴った。

 僕の脇腹にラーテの拳がめり込んでいた。肋骨に当たって内臓が揺れた。痛いを通り越して気持ち悪い。

 騎士長の笑顔が凍った。


「しかし、奥方様も一緒となると、警備計画を少し練り直さないといけませんかな?」

「いえ。大丈夫です。むしろ戦力に加えて下さい。僕の嫁は僕より強いですよ」

 僕の言葉にラーテが満足そうだ。ふふんと鼻息を吹いている。

 騎士長の顔が再び凍った。

 あれ? 強い嫁とか一般的じゃないの? カカア天下とか、尻に敷かれるとか。

「わ…… わかりました」

「それに、もしもの時は僕が守りますよ。僕の嫁ですからね」

 ごりっ、と鈍い音がした。再び脇腹に拳が突き刺さっている。続けて同じ所はやめてね。

 騎士長が何か納得したような顔をしている。やっと分かってくれたらしい。

 これは僕達夫婦のスキンシップなのだ。ちょっと他より激しく痛いだけでな。

 ほら、ラーテだって顔が赤いし、鼻がぴくぴくしている。可愛い嫁だ。


 ・


 王都までの道のりは早馬で2日程。

 だが別に急いでいるわけでもないので、馬車でゆったり10日かけていく計画だ。

 猶予期間が2週間、王都までが10日。合わせて24日の感覚か。ドラゴン討伐からだいぶ経っている。なんとなく緩い感じがするが、地球でも何かやってから表彰まではこんなものだった気がする。

 道中モンスターは出るらしいが、護衛もいるので概ね安心。

 むしろ問題は王都に着いた後だ。

 貴族連中にたらい回しにされ、騎士団との合同演習、土魔法の普及活動、等、すでにやってもらう事が決まっているらしい。

 大雑把に見積もって、半年以上は王都に缶詰だ。

 一応『長旅』と言えるんだろうか?


 考え方を変えよう。

 行きは10日間護衛付きの新婚旅行。

 王都でしばらく労働して、帰りも10日間護衛付きの新婚旅行。

 ラーテと楽しい新婚旅行。ラーテと一緒に王都観光。

 よし、希望が湧いてきた。


「夫婦で旅行だよ。楽しみだね」

 と笑顔で言った僕に飛んできたのはラーテの拳だった。腹パンだった。


 ・


「ミチザネ行っちゃうの?」

「ミチザネ帰ってくる?」

 子供達に群がられた。涙を溜めている子までいる。やめろよ、もらい泣きしちゃうだろ。

 ラーテの周りにも女の子達が集まっている。泣いている子も多く、ラーテが優しい顔でなだめていた。

「帰ってくるよ。ちょっと遠い所に行ってくるだけだから」

「いつー? ミチザネいつ帰ってくるの?」

「そうだな…… 多分『ヤギの睾丸』が7歳になる前には帰って来るよ」

 あと1年と少しだ。年明けて6歳になるところは見れないけど、7歳になって、名前をもらうところはちゃんと見てないとな。ヤギの睾丸からどんな名前に変わるのか。

「まったく。お前さんは子供達に懐かれておるの」

「ははは。まぁ、いつも遊んでましたしね」

「うむ。子供達の面倒を見てくれて助かっておったぞ」

 僕の見送りは村人総出だった。子供達を含めておよそ150人。ちらほら妊婦さんもいた。帰って来る頃には生まれているだろう。

 村の大人は皆僕よりも背が高いので結構威圧感がある。

 だが、いかつい男達が今にも泣きそうな顔で僕を見ていて、ちょっと笑ってしまった。


 僕の隣にはラーテがいる。

 ラーテは完全装備だった。手には僕が作った鉄弓が握られている。

 半分冗談で作ったものだが、ラーテが気に入っている様だったのでそのままプレゼントした。まさか引けるとは思わなかった。威力も凄まじい。

 もう少し弱めのやつはサースラにも作ってあげた。技術はともかく、単純な腕力ならうちの嫁の方が強いらしい。冒険者より腕力あるって……

「呆けた顔を私に向けるな」

 ラーテのいつもの厳しいお言葉で我に返る。


 僕達は皆に見送られながら、草原を進み、森を抜け、街に向かった。

 街で一泊して、翌朝王都へ立つ。


 ・


 村を昼に出て、街に一泊。その翌日が出発という予定だったのだが、午後にはもう街に着いてしまって、結構暇だった。

 騎士達と合流し、明日から乗る予定の馬車を見せてもらった。

 四角い。当たり前だけど。僕達や騎士達の荷物を運ぶための荷馬車も用意されている。

 そうだ、ここで技術チートだ! と思い立ち、街の木工屋に頼んで、2台をベアリングとパイプシャフトに変えてもらった。材料は鍛冶屋の屑鉄を調達してきた。鍛冶屋のおやじはもう顔見知りだ。屑鉄ばっかりどうすんだ? と聞いてくるので、得意のアルカイックスマイルで返事しておいた。

 作業は夕方には終わった。ベアリングは既にルルへのプレゼントや自分用で何度も作っていたので慣れた作業だった。馬車と荷馬車のパーツと同じサイズで作ったので、交換もスムーズ。

 木工屋が「これじゃあシャフトは回転しませんよ?」と怪訝な顔で僕に言った。「車輪が回転するんで大丈夫ですよ」と、実際に馬で引いて見せた。「どうなっているんでしょうか」と聞かれたけど、誤魔化しておいた。ちゃんと作ったつもりだけど、問題があるかもしれない。キャリーカートはともかく、馬車はこれが初だ。試走もまだの実験品を下手に教えて真似されて、それで事故でもあったら大変だ。

 乗り心地が改善されたかどうかはわからない。搭載前に乗ってないし。

 揺れを見ながら、バネも取り付けていこうかと思う。こういうのは実際に乗りながら試していった方がいい。

 その方が旅も楽しくなるし。


 屑鉄は結構な量を荷馬車に積んでもらった。道中土魔法の訓練や、必要な物を作るのに使うためだ。

 


 ・


 よく晴れた早朝。

 僕たちは街を出発した。

 僕達が乗り込んだ馬車が一台とその御者。御者1人が乗った荷馬車が一台。馬乗騎士7人の編成だった。御者も騎士なので、騎士9人の護衛という事になる。

 騎士長は村に顔合わせに来ていたので知っていたが、他の騎士達は初見だ。

 女騎士が2人いた。失礼ながら、女でも騎士になれるんだなと感心した。


 僕達は馬車に揺られ街道を北西に進む。

 馬車でゆったり一日おきぐらいに街や村があり、その都度一泊しながらの旅だ。

 旅なんてどれぐらいぶりだろうか。

 ドラゴン討伐で森の中をウロウロしていた数日間は旅じゃないよな。

 地球に居た頃、自転車で3日程の旅に出かけることがたまにあった。

 あの時とは違う。隣には嫁がいるのだ。

 ……あれ? 嫁いないよ?


 馬車のドアが開いていて、足がするっと上にあがっていくところだった。

 周りから「奥様!」という声が掛かっている。

 僕も馬車の上に上がる。

 馬車はゆっくり進んでいた。最近体力もついてきた僕は、するりと馬車の屋根に登った。

 ラーテの隣に座る。

 街の城郭が遠くに見えた。

 あの街、実はこの国の最東端の街だそうだ。

 東側は未知の世界。その未知の世界からやってきたラーテと、異世界、地球からやってきた僕。


 僕達2人は、北西へと進んで行く。

 僕にとっても、ラーテにとっても、ここから先は未知の世界だ。


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