前途多難
前途多難
さて、旅立ちにちょっと感動したものの。
馬車での道中は暇だった。
鉄屑持ってきてて良かった。道中弄り倒した。
土魔法の練習に、手のひらサイズのヤギフィギュアを結構作った。ほら、ラーテはヤギ好きだし。
でも、ラーテが気に入ったのはドラゴンフィギュアだった。これは騎士達にもウケた。
村の子供達に作ってあげていたときにチラチラ見ていたが、やっぱり欲しかったんだな。
ラーテがドラゴンフィギュアをくるくると手で回しながら、僕にドラゴン討伐の時の話を聞いてきた時は、感動で泣きそうだった。うちの嫁が少し心を開いてくれた。僕の話を結構楽しそうに聞いてくれたのも印象的だった。馬車の旅イイね!
1日目に滞在した村の近くには大きな湖があった。これが以前エイダの言っていた『忌み地』というやつか。
水面が光を反射してキラキラと輝いていた。
遠くに見える湖を見て
「凄いな」
と、ラーテが一言。
いつもの無愛想な表情をしていたが、瞳は子供の様にキラキラしていた。
行きは遅れるといけない。帰りに寄ろうかな。
「ラーテ、王都からの帰りにあの湖を見に行こう」
「そうか。ミチザネが言うならしょうがないな。ついて行ってやろう」
鼻をぷくぷくと膨らませながら言うラーテに思わず笑ってしまった。
もちろん殴られた。
2日目の街で少し旅の趣きが変わった。
ラーテが馬車の屋根に登りたがるので、屋根に欄干を付けたのだ。左右に人一人が通れる程度のスペースを設けて、前も後ろも角も欄干で覆った。これで突然落ちたりしないだろうと思って。
それからは、欄干を作ってしまったせいで逆にラーテが屋根に居座る様になってしまった。あれ? 馬車の中で二人っきりの空間は?
僕も屋根に登った。最初はしょうがなくだったのだが、欄干を付けたお陰で背をもたせられるのだ。結構楽で、風も心地いい。なかなかいい場所だった。日差しもそれほどキツくは無く、ごろ寝も快適。
ラーテも楽しそうに風景を眺めている。そんなラーテに、僕も楽しくなってくる。
とはいえ、騎士達から丸見えだ。
御者にいったってはすぐ目の前にいる。夫婦の会話とか恥ずかしくてできないよ。
まぁ、ラーテが楽しそうならそれでいい。
3日目の午後に、とうとうモンスターが現れた。
オークが5体。森で見たのより少し小さい。餌があまり無いんだろうか。
オーク相手では馬が潰される可能性があるという事で、騎士達は下馬して剣を抜く。
騎士長が先頭に立っていたので焦った。
騎士長は僕と同じぐらいの体格なのに、剣を抜いて戦う気まんまんだ。
騎士が9人いてオーク5体に負けるとも思えないが、騎士長は怪我しないで欲しい。
と、心配したのだが、騎士長はオーク3体を簡単に倒してしまった。
騎士長の動きが凄かった。
早くはないし、鋭さも無いのだが、するするとオークの攻撃をかい潜って、いつの間にかオークの腹をするっと切り裂いている。
達人技だ。
残る2体も他の騎士が倒していた。
少し苦戦しているのも見えたが、概ね楽勝。
騎士2人にオーク1体で丁度勝てるぐらいの戦力差だろうか。
今更ながらエイダって強かったんだな。
・
オークを倒した後、休憩になった。
オークの牙は討伐部位なので、持って行きますかと聞かれた。道々の冒険者ギルドに持っていけば換金できる。討伐依頼が出ていない物でも一応買い取りはしているのだ。
とはいえ、これは騎士達が倒したものだ。横取りみたいで気が引ける。
でもそれはそれとして、お金は大事だ。
お言葉に甘えて、オークの死体から牙を引き抜いた。森での経験からヤットコの扱いにも慣れてしまった。地球じゃこんな道具一生使う事があったかわからない。
牙は引き抜いてありがたく頂戴した。が、このまま懐に収める気は無い。
道々の冒険者ギルドで換金して、そのお金を黙って貯めておき、最後にさっと騎士長に渡して逃げるつもりだ。普通に渡しても騎士長は多分受け取ってくれないだろうから、そういう計画を立てた。
他人の獲物を奪うなんて、と蔑みの視線を僕に叩きつけていたラーテにもそう説明した。すると上機嫌になって作業に参加した。ラーテは牙を抜くのが上手だった。血まみれのヤットコを握る姿は堂に入っている。
馬を休ませ、騎士達も休む。
騎士達は全身鎧だ。僕からはちょっと想像もつかない様な疲労があるだろう。
水を飲み、体をほぐす。ゆったりした旅だ。
・
おおむね夕方に村や街に着き、夜は宿屋で眠って、早朝に出発。冒険者ギルドがある場合は換金。そんな感じで5日目の午前中。
今度はゴブリンが襲ってきた。森の連中よりもやっぱり少し小さい。
だが、数が多かった。50体は超えている。
「数が多いので少し手間取ります。ミチザネ殿も奥様も、馬車から出ない様にお願いします」
という騎士長の言葉を守るラーテではない。
早速僕と2人で馬車の屋根に登る。
ラーテはこの時既に、荷馬車に積んであったはずの鉄弓と矢筒を馬車に持ち込んでいた。それを持って屋根に上がる。鉄弓結構重いんだけどな。
騎士たちが馬を操りながらゴブリンを蹴散らす姿は凄かった。馬乗攻撃ってあんなに一方的なのか。
感心する僕の隣で、ラーテが弓を引く。
ばひゅっと放たれた矢が、ゴブリンの頭をぶちぬいた。
続けて矢を放っていく。
殲滅したゴブリン61体の内、ゴブリン12体はラーテの戦果となった。
一人あたりの戦果としては騎士を上回っている。
これで女騎士2人がオチた。
ゴブリンを倒した後の休憩中、ラーテにべったり張り付いていた。
「奥様は本当に強かったのですね。いや、私疑っておりました。申し訳ありません」
そう言って騎士長が頭を下げてきたので、慌てて僕も頭を下げ返す。
「いえ、こちらこそ。いつも妻がおかしな行動でご迷惑を」
僕と騎士長が頭をぺこぺこ下げ合う光景に、数人の騎士が何事かと驚いていた。
その日の昼過ぎの事だった。
「止めてくれないか」
とラーテが御者に言った。御者は言われた通り馬車を止め、続いて荷馬車も止まった。
騎士たちも何事かと馬を止める。
すっとラーテが弓を引き、矢を放つ。
遠い草むらに矢が落ちる前に、素早くもう一矢。
「すまないが、取ってきてくれないか? 馬の方が早い」
と、馬車の隣にいた女騎士に頼んだ。
女騎士は首をかしげながら、矢が落ちた場所へ馬を走らせた。
突然弓矢の練習か? と、騎士達は怪訝な顔をする。
矢が落ちた場所に着いた女騎士が黄色い悲鳴を上げた。
何事かと騎士たちが向き直る。
帰ってきた女騎士の手には、矢に貫かれた2匹のウサギ。
騎士達は皆、驚愕に目を見開き、ラーテを見上げた。
どうだ。うちの嫁は凄いだろ。僕まで気分が良くなる。……いや、ホントに凄いな……
「夕食の足しにしてくれ」
ぶっきらぼうな言葉に、女騎士2人がキャーキャー言っている。
うちの嫁△
・
6日目の午前、モンスターの襲撃があった。
今度はオーク3体。
騎士達が難なく片付けた。今日の襲撃は2度目だ。
王都に近付く程モンスターが多くなるとは聞いていた。人が多い所にモンスターが集まるとかなんとか。
だが、それを加味しても多いんじゃないだろうか。数はまばらだが、襲撃は増えている。
「確かに。この辺はまだそれほどモンスターが多くは無かったはずです。私達が王都から来た時にもこれほどモンスターの襲撃はありませんでした」
と、騎士長も首を傾げる。
何かあるなと思った。ドラゴン討伐の時と似ている。またドラゴンだったらどうしよう。
僕とラーテは馬車の屋根に揺られて、次の村へ進む。
結局僕も屑鉄が入った小箱を屋根に上げて、青空の下で土魔法の練習をしている。村でも作業は外だったし。いつの間にか体に染み付いてしまったのかもしれない。
「これは何だ?」
「これはね、僕の故郷の乗り物だよ」
「四角いな。馬車か?」
「馬車のようなものだけど、馬が引くんじゃないんだ。ガソリンとエンジンで動くんだよ」
「ふぅん。ミチザネには作れないのか?」
「無理だよ。何人もの職人さんが手間と時間をかけて作るんだ」
あれ? 簡単な蒸気機関程度なら作れるんじゃないのか? 僕は鉄を自由に整形できるわけだし。
ともかく、最近ラーテとの会話が増えた。良い事だ。
・
その村は空気が重かった。
村長に話を聞くと、オーガが出たらしい。
近くの森に現れ、今は近隣の街の冒険者を待っているところだという。
「オーガは見たことないんですが」
僕の言葉に騎士長が応えてくれた。
「身の丈はオークの倍ほどで、非常に強いモンスターです」
オークの倍って事は5mほどか? 巨人じゃないのか?
「勝てますか?」
との僕の問いに、
「はい。オーガ1体に騎士5人が最低限の応戦人数とされております。こちらは倍近く。負けることはありません」
「そうですか…… じゃあ、すみませんが、一働きお願いできますか?」
という僕のお願いに、
「ミチザネ殿に頼まれずともやるつもりでしたよ。民を守るのは騎士の本分ですからね」
と騎士長は笑った。
ここで意思の齟齬が生まれていた。
騎士達は、自分達がオーガを倒すのだと思っていたが、僕は、僕とラーテがオーガを倒すのに力を貸してくれないかという意味でお願いしていたのだ。
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7日目の朝、村の近くの森の前まで馬車を走らせた。
場所を確認しつつ、騎士長と話し合っている時に、昨夜の齟齬が露呈した。
「は? お2人でオーガを?」
と騎士長が驚いた。
「いえ、2人だけでは心もとないので、囮役を1人お願いしたいのですが」
何を言ってるんだコイツ、という顔で騎士達が僕を見ている。
僕の村の人たちは、土魔法を穴掘り魔法だと思っていた。女冒険者3人組は、転けさせる魔法だと思っていた。
この騎士達は、土魔法がドラゴンフィギアを作る工作用の魔法だと思っているふしがある。
ドワーフが土魔法で鉄を柔らかくするというのを知っている騎士がいたのもその認識を深める結果となっている。
見せてやろう。
我が土魔法の威力をな。
・
二章に続くよ




