雉
雉
砂浜に黒い波が打ち寄せる。南の島と聞いていたから、てっきり暑いものだと思い込んでいたけれど、むしろ涼しさを感じるほどだった。ここの海はきれいだ。夜空を照らした海が波となって、白い砂浜に打ち寄せる。
夜空を見上げる。日本で見る星空とは随分異なっている。南の空には、南十字星が浮かんでいる。あれから、どれくらいの時間がたったのだろうか。
君がいなくなった日。君は車の中で、私と鸚鵡君に作戦を伝えた。
「俺が、囮になる。あの様子だと、八代は鷹の始末に相当手こずっているはずだ。普段は外に出ない人員もそちらに回すだろう。そこで、俺が囮になって時間稼ぎをする。鷹が始末されなければ、それだけ時間も稼げるし、普段はビルにいるはずの人員も始末に駆り出されるはずだ。その隙に、雉と鸚鵡は八代のビルに侵入じて、いつものように爆弾を運んでほしい。」
私は反対だった。何で雀さんが囮にならなければいけないのか、鸚鵡君でいいじゃないと雀さんに訴えた。訴えながらも、八代の部下だった鸚鵡君が囮にならないということに気が付いていた。雀さんは、その滅茶苦茶な訴えを否定することなく、優しく笑みを浮かべ聞いていた。
雀さんが車から降りてしばらくたったとき、やっぱり心配になって、メールを送った。返信はなかった。嫌な予感を拭い捨てることが出来ず、電話をしようとしたとき、飛び出してきた鷹を轢いてしまった。生死は定かではなかったけれど、とりあえず車に乗せることにした。八代のビルに捨てていけばいい。鸚鵡君がそう提案した。
しばらく運転していると、八代の部下の集団を見つけた。私はてっきり、雀さんが囲まれていると思い、咄嗟に車で突っ込んだ。けれど、その集団の向こう側にいたのは、ベビーカーを携えた若い青年だった。
「せっかくだから、連れていこうぜ。囮くらいには使えるだろ。」
鸚鵡君がそう言った。私も、悪くないと思い、彼を八代のビルに連れていくことにした。
鷹を地下の非常階段に置いていき、そのままエレベーターを使って、爆弾を八代の部屋に運び込んだ。
「忘れ物を処分してくる。」
私が車に乗り込んだ後、彼はそう言って、どこかに消えていった。しばらく車を走らせると、遠くで八代のビルが爆発するのが見えた。すぐに雀さんに電話をしたけれど、やっぱり雀さんは電話に出なかった。
その後、何日か雀さんの行方を捜した。あるところに情報を求め、烏の羽がないかを探し回った。けれど、何も見つからなかった。情報も、生死すら定かにならなかった。
波が足元を濡らす。この場所が、君の言っていた誰も傷つかない世界なのかどうか、私には分からない。ただ、この場所は、君と一緒に来たいと思って目をつけていた場所だった。
砂浜の先には、木で作った十字架が立っているお墓が見える。あそこの下では、誰が眠っていて、誰が祈りをささげるのだろうか。
「ねえ。ここが誰も傷つかない世界なの?」
その声が、打ち寄せる波の音に乗って静かに海に運ばれる。頬を伝った涙が、腕の中で眠っている赤ん坊の頬に落ち、弾ける。君は今、どこにいるの?
「教えてよ。」
空に浮かぶ十字の星座が、静かに光を放っていた。




