鷹 14
この場面は、この物語をつくる初期の段階から頭の中にありました。この場面につなぐために、今までの鷹の物語があったというのは少し言いすぎですが、ここから、彼の物語が生まれたと言っても過言ではありません。
ところで、私は鳶が空を飛んでいる姿は見たことありますが、鷹は見たことがありません。現実では、烏よりも鷹のほうが、「本当にいるのか?」と疑いたくなる存在です。
鷹
目を開ける。外だった。薄暗い夏の夜。涼しさの残る風が頬に当たる。その風はわずかにゴムの臭いがした。次の瞬間、思い出したように左肩に鋭い痛みが走る。壁に寄りかかりながら、なんとか立ち上がる。
辺りを見渡すと、タイヤが積まれているのが目に入った。どうやら、ゴムの臭いの正体はこのタイヤらしい。次に俺が思ったのは、ここを訪れたのは二回目だな、ということだった。
もしかしたら。俺は我ながらくだらないと思いながらも、結論を出す。もしかしたら、俺はずっと夢を見ていたのかもしれないな。舌切雀に会ったあのときから、ずっと。さっき雀が見ていたからだろうか。ふと上を見上げ、空を見る。そこにはひとつの星もなかった。
突然、頭が締め付けられた。例の金属音も聞こえる。その間隔は短く、高周波の音波の様にも聞こえる。十字架のネックレスに手を伸ばそうとするが、腕が上手く動かなかった。
そのとき、携帯が震える。不自由なはずの腕だったが、なぜか携帯だけはすんなり取り出すことが出来た。俺は何度もボタンを押し間違えながらも、メールを確認する。
件名:無題
君、いまどこにいるの?
俺は、携帯を投げ捨てる。誰かが俺を探している。誰が?烏か?鈍い痛みのせいか、それ以上考えることが出来なかった。
視界の端で何かが動いているのに気が付く。そちらに顔を向ける。すると、暗闇に隠れていた黒いタイヤがわずかに振動していた。振動するにつれ、タイヤから白い霧のようなものが漏れ出す。やがて、それに合わせるようにタイヤも徐々に灰色になり、ついには白くなった。白いタイヤが亡霊のように踊りだす。
カチカチと頭の中で音は鳴り続ける。この音はカスタネットだろうか。そう思ったとき、目の前で踊る亡霊が、カスタネットを叩いているのが見えた。ナイフに手を伸ばそうとするが、またしても腕の自由が利かなかった。頭の痛みに耐えかね、俺は走り出した。
走り出すと頭の音が、徐々にゆっくりになってきた。時計の秒針の音のようにも聞こえる。一秒一秒、時間を刻んでいる。ふと、時限爆弾についている時計が脳裏に浮かんだ。そして、あの男の顔が浮かぶ。
「雀―」
すると、雀の顔がぼやけ、今度は野球帽を被った少年になった。少年が帽子を外す。眩しい。そう思ったとき、俺は衝撃とともに暗闇に投げ出された。




