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Scare Crow  作者: 大藪鴻大
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鷹 13

 「幸せっていますぐに 言えないのはなんでだろう。」いま、聞こえてきた歌のフレーズです。なんででしょうか?

 幸せっていうのは、普段ずっと感じているものではないから?本当の幸福はそう簡単に得られるものではないから?少なくとも、今の私も、幸せだといますぐに口にすることはできません。だからといって、幸せを感じたことがないというわけでもありません。今の状態が不幸だということもありません。

 みなさんは、幸せだといますぐに言えますか?

 思わず大きく飛びのく。急な動作にもかかわらず、その人影は全く動じることがなかった。着地した後、姿勢を低く保ったまま視線を上げる。

 目の前に立っていたのは、先程までの男たちと違い、黒いコートを着た男だった。黒の長髪。垂れ目ではあるが、その瞳は映し出すものを全て射抜くような鋭さがある。何者か分からないが、只者ではない。俺はナイフを構える。微かに眉が上がったが、恐怖というよりは別の理由で反応したように見える。

「質問は三つだ。」

 そう言った後、思わず必要以上に口を固く結ぶ。いつものセリフが意に反してこぼれたことに戸惑う。俺は俺の慣習にとらわれている。

「名前は?」

 目の前の男が口を開く。低くよく通る声が空気を震わせ、俺の鼓膜を震わせる。

「鷹だ。おまえは?」

 それを聞くと、目の前の男は笑った。笑い声はなかったが、口角が上がり、目尻が下がったその表情は笑顔に違いなかった。強がっている素振りもない。ぎこちなさもなく、自然な笑みだった。

「『雀鷹』と書いて何と読むか知っているか?」

 まるで、森の中を風が通り抜けるような静かな声で男は言った。決して揺らぐことなく、まっすぐこちらまで届く。

「俺の質問に答えろ。」

 俺は無意識にナイフを握る手に力が入る。警戒心が俺にそうさせた。

「ツミだ。俺とおまえでツミだ。罪は償うものだ。いずれは、俺もおまえも罪を償わなければいけないのかもな。」

「俺に罪はない。」

 俺は鷹で、こいつは雀。そうか、こいつが雀か。俺を狙っていた殺し屋。今まで会った殺し屋の中で、一番冷静なうえに頭もよさそうだ。昨日遭遇したナイフ男に似ているとは言い難いが、似てないとも言いきれない。この男から出ている異質な雰囲気は、平凡な人生を歩んだものには出せない。一種の諦め。そして、自信。相手としては不足がない。俺は舌で唇を濡らす。

「昨日から俺を狙っていたのは、おまえだろう?誰に頼まれた?八代か?」

「そうだとよかったんだがな。残念ながら、人違いのようだ。」

 そう言うと、男は上を見上げる。俺は距離を詰める。あと一歩。あと一歩で確実に仕留められる。

「俺からも、質問していいか?」

 男は視線を戻す。歩みを止める。男は一歩、踏み出す。

「なんだ。」

「おまえの人生、充実していたか?」

 知るか。俺は大きく前に踏み出す。ナイフを逆さに持ち、雀の左胸を狙い振り下ろす。右腕が振り切れた。そこにあった目標はいつのまにか消え、ナイフが空を切り裂いていた。

 次の瞬間、左側頭部に衝撃が加わり、景色が左に流れる。咄嗟に首を右に傾けたため、衝撃はあまり大きくはなかったが、突然の動きに首を痛めた。すかさず、上半身を右に回転させ、同時に右腕を横に振る。そこには雀の首があるはずだった。しかし、またしても手応えがなかった。

 突然、首に力がかかり、足が宙に浮いた。地面が見えたかと思うと、距離がみるみる縮まり、顔が地面にたたきつけられた。ナイフが手からこぼれ落ちる。

 今まで相手にしてきたやつらとは別格だった。まるで空気を相手にしているように、こちらの動きが全て空振る。歯が立たない。動きが全て読まれている。ここまでか。俺は死を覚悟したが、いつまでたっても俺の意識は途絶えることがなかった。

 もしかすると、この男は俺を殺すための理由を考えているのかもしれない。確かに、この男は異質な空気を身にまとってはいるが、理由もなく人を殺す無関心さまでは備わっていないのかもしれない。

「最後の質問、してもいいか。」

 男が口を開く。さっき三つしただろう。いや、二つだったか。男がようやくナイフを取り出したのか、ナイフを互いに叩くような音が聞こえる。

「おまえは、人の舌を切り取ったりするのか?」

 何言ってんだ?そう言おうとしたが、地面に顔が擦りつけられているせいか、口が開かなかった。金属音がいつまでも鳴りやまないことに気が付く。頭が重い。

「舌・・・切り・・・雀。」

「巷では、そう言われているみたいだな。なあ、それっておまえなのか?」

 俺は鷹だ。雀はおまえだろう。頭が締め付けられる。金属音はその間隔を狭め、高周波の音になっていた。頭痛と吐き気が治まらない。

「まあいい。」

 決意を固めたのか、雀が手に力を入れる。頭痛に歯を噛みしめる。首にかかっているはずの十字架のネックレスに手を伸ばす。

―おいおい。クライアントなしじゃ、自分も救えないのかよ―

 クライアントのいない今の俺は何者だ?何のために戦う?

―戦えよ。死にたくないんだろ?―

 声が響き、そして消える。獣の雄たけびが聞こえる。その声はライオンに似ていた。

 確かにそれは、俺の喉から響いてきた。


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