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Scare Crow  作者: 大藪鴻大
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34/48

鳩 12

 おまけコーナーについてですが、「どうやって意見を投稿するんだよ!」と思っている方がいるかもしれません。そう思っている方は、感想の一言欄に書いていただければ、大丈夫です。

 さて、他と比較して平和な鳩の物語ですが、ここから彼も忙しくなります。これから驚愕の展開になるように書いたつもりですが、混乱の連続になってしまわないか、内心、心配しています。今後、「わけがわからない。」という文句がありましたら、それとなく「感想」として声を聞かせていただければ幸いです。

 公園を出た後、俺はベビーカーを押しながら人が行き交う街中を目的もなく歩いていた。買い物袋を引っ提げた主婦。営業の途中なのか、汗をハンカチで拭いながら早歩きで歩く中肉中背のサラリーマン。学校帰りの高校生。喫茶店には向かい合っていながら、携帯とにらめっこしているカップル。

 周りのやつらには、今の俺がどんなふうに見えるのだろうか。子供のお守をしている父親。いや、それにしては俺はまだ若すぎるだろうから、親戚の子の世話をしている青年。子供を誘拐している犯罪者。そこまで考えると、暗い笑いが込み上げてきた。最後が一番近い。しかし、日常を生きているやつらには、最も思いつかないだろう。

 なんで俺は、こんなことをしているのだろうか。気が付けば、俺は日常から離れ、この業界にいた。明確な理由などなかった。母親が家を出ていき、親父がアルコールに頭も身体も溺れただけだ。俺はそのことに対して、別段何も思わなかった。人生なんて、そんなものだと思っていた。人生なんて、思い通りになることの方がおかしいと思っていた。だからこそ、なぜ日常を離れてしまったのか分からなかった。なぜ生まれてきたのか分からないことと似ている気がする。

 赤ん坊はベビーカーの中で眠っている。郭公のおっさんが俺に託した赤ん坊。とにかく、この赤ん坊を何とかしなければいけない。このまま俺と一緒に居続けるわけにはいかない。

 そもそも、郭公のおっさんはこの赤ん坊をどうしようとしていたのかも知らない。郭公のおっさんがわざわざ連れ出した黒田の屋敷に戻すわけにもいかない。どこかの孤児院に預けようにも、誘拐された赤ん坊だ。すぐに通報されて、俺が捕まる上に、結局は黒田の屋敷に戻る。

「一体どうすりゃいいんだよ。」

「何をさ?」

 俺は咄嗟に振り返り、拳銃を手にしようと腰に手を回しそうになる。目を丸くした女性が目に映り、不自然にならないように、手を腰から離す。

「あんたか。」

「楓。」

 目の前にいたのは、ドラッグストアにいた女性だった。なんのつもりなのか、自分の好きな「花」の名前を口にした。また、目を覗き込むように顔を近づけてきたので、視線を逸らす。

「短い間に随分いろいろあったみたいだね。パレットの上の、いくつもの色が混ざった絵の具みたい。」

 そのたとえはよく分からなかったが、そう言われれば否定は出来ない。確かに、この女性に再会するまで、随分いろんなことがあったように思える。

 そこで、ある考えが浮かぶ。俺はベビーカーの中の赤ん坊に視線を落とす。この赤ん坊を、この女性に預けようか。いや、ダメだ。おそらく、大抵の人は身元もはっきりしない赤ん坊を預かってくれないだろうし、そもそも、預かってくれたところですぐに見つかってしまうだろう。これは、郭公のおっさんが俺に託した仕事なんだ。その場しのぎなんかではなく、確実にこの赤ん坊を安全な場所に逃がさなければならない。

 そこまで考えたとき、また別の考えが浮かんだ。こんな複雑なこと、一体どうやってたんだよ、おっさん。郭公のおっさんの仕事は、方法も目的も分からない。

「うん、そうだね。その通りだよ。頑張ってね。」

 女性の言葉に顔を上げる。何がその通りで、何を頑張らなければならないのか。まるで、俺の心を読んだかのような言葉だった。

「大丈夫。君ならやり遂げられるよ。」

 遠くで「楓―、どこ行ったー。」という声が聞こえる。女性は、その声に振り返って反応する。桜の香りがした。

「ごめんね。もう行かなくちゃ。」

「ああ。」

 俺が状況を飲み込めずに情けない声を出しているうちに、女性は背中を向け、人混みの中に消えていった。そうか。あの女性は、楓という名前の人なんだな。君なら遣り遂げられる。その言葉が桜の香りとともに、妙に心に残った。

「桜の香りのする楓なんだな。」

 そうつぶやいたとき、楓の消えていった方向から、数人の男たちが人混みをかき分けてくるのが見えた。男たちはまっすぐこちらに向かってきているようだった。俺は、その男たちに見覚えがあった。八代に雇われた殺し屋だ。一気に現実に引き戻される。唇が震えるのが分かる。

「頼むから、ちょっと待ってくれよ。まだ死ぬわけにはいかないんだよ。」

 俺はベビーカーを直角に回転させると、建物と建物の間の狭い通路に飛び込んだ。後ろの男たちがそれに合わせて走り出した気配がした。


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