鳩 7
みなさんは、最近夢を見ますか?
私もそんなにしょっちゅうではありませんが、ときどき夢を見ます。夜中にふと目を覚まして、今見た夢を分析してみたり。夢には、心のどこかで気にしていることや記憶の片隅に追いやられたことが、これまた記憶の欠片を集めて切り貼りした形で現れます。
精神分析にもよく用いられていた手法ですので、みなさんも覚えていたら、夢を分析してみてはいかがでしょうか。
鳩
目が覚める。暗闇と静寂がその存在を俺に認識させる。郭公のおっさんも、赤ん坊もその暗闇の中では見えなかった。まず、俺の目に入ってきたのは時計の二本の針。三時二十分。なんだ、まだ夜中か。そう思うと次に街灯に照らされたように、暗闇の中ぼんやりと出口が見えた。俺は腰に拳銃があることを確かめ、出口に向かう。
外は夏の入り口にしては随分涼しかった。夜風が吹く度に、皮膚が引き締まるのを感じる。街灯に照らされた道に人は一人もいなかった。時たま、ヘッドライトを照らし通り過ぎる車があるので覗きこんでみるが、人の影を確認することができなかった。幽霊船ならぬ、幽霊車といったところか。
気がつくと、住宅の群れは消え去り、目の前には黒い海が広がっていた。足で感じていたアスファルトの冷たさも、足を柔らかく包み込む砂の温かさになっていた。忘れ去られたビーチパラソルに浮輪。海開きにはまだ早い。ということは、一年前の忘れものだろうか。一歩一歩、砂から足を引き抜きながら波打ち際に近づく。星ひとつない空に満月が白熱灯のように丸く明るく光る。足に波が打ち寄せる。ボロボロになった一昔前に流行ったシューズに水が沁み込んでいくのはあっという間だった。水の冷たさが、鋭く足を貫く。
強い風が海から吹いてくる。俺はその風が通り過ぎると、顔を右に向けた。マントのような衣服が風になびく音が聞こえた気がした。すると10メートルほど先、全身黒い服装をした男が白い布に包まれた何かを抱えていた。男がその何かに語りかけているが、何を言っているかまでは聞こえない。俺の足は自然とそちらに向いていた。
2,3メートル近づいたあたりで男は両手を静かに下ろした。白い布が風に乗って砂浜を流れる。俺は咄嗟に駆けだした。両手を伸ばし、男の足元に飛び込む。飛び散る砂が顔に打ちつけ、幾分か口の中に入る。
俺の両手には何も落ちてこなかった。俺は顔を上げる。フードをかぶった男が俺を見下ろしている。フードの奥は暗かった。暗くて何も見えなかった。男は何も持っていなかったのか?いや、確かに持っていた。男は消したのだ。なかったことにしたのだ。
俺は静かに立ち上がる。男は微動だにしない。ただ俺の動きをじっくりと観察している。互いの動きが止まる。男の服が風で波打つ。
風と風の合間、気がつくと俺の拳銃は男の顔に狙いを定めていた。理由はなかった。なかったが、なぜかそうしていた。何かの法則に従うように、運命の流れに従うように、俺は拳銃で狙いを定めた。
―殺すのか―
俺は引き金に力を込める。何の抵抗もなかった。引き金は簡単に引かれ、銃口から弾が発射された。男のフードが弾け飛び、その向こうには黒い海が広がる。
弾け飛んだのはフードだけだった。男の黒い衣服は、中身が消えたかのように静かに砂浜に落下した。
―おまえに俺は殺せない。たとえ何人救い、何人殺し、どこに逃げようとも無駄だ。何も変わらない―
目の前が白くなったかと思うと暗くなった。鈍い音がしたかと思うと、静かになった。痛みを感じたかと思うと、何も感じなくなった。
そうか。俺は死んだんだ。
おいしそうなにおいがする。具材の入った液体が沸騰し、食欲をそそる音を立てる。俺は両目を開ける。前かがみになって台所で調理する郭公のおっさんの姿が目に入る。俺は座っていた。しばらく、その姿を眺めていると郭公のおっさんは俺の視線に気がついたのか、振り返った。
「起きたか?もうすぐできるから、顔でも洗って待っていてくれ。」
俺は立ち上がると言われたとおり洗面台に向かう。鏡に映る顔にハッとする。目の下に黒く濃い隈が縁どられ、眉間には皺が寄っている。フードの奥にあった顔はこんな顔ではなかったか?




