令嬢の兄、わくわくする〈後〉
「あ!!あなたわたくしのおにい様でしょ!わたくしお腹がすいたの、なにかお菓子を持ってきてちょうだい!」
「は?……なんでぼくがきみに?」
この扉の先に可愛い妹がいるんだ、と期待して開けたドアを、今すぐ閉めたくたなった。
なんだ、この子は。
「えぇ?どうしてってなによ!ライにいさまはすぐにメイドを呼んでくれるのよ」
噂をすればなんとやら、タイミングよく背後のドアが開き、兄が顔を出した。
「あぁっ、セレ!お前、帰ってくるときは前触れを出してくれよと散々手紙に書いたじゃないかっ。お陰で父上も母上も使用人たちもみんな驚いてるんだぞ!」
「ごめんね兄さん、僕も急に師匠に言われて」
「はぁ、またあの【大陸一の魔法使い】殿か。まったくあの方もいつもいつも急な行動を。まあなんだ、おかえり、セレ」
「ただいま、兄さん。ところで、アレがぼくの妹なの?」
人差し指で示した「アレ」は兄弟の問答など知らないというようにお菓子たべたいと騒ぎ立てている。
「言ってくれるな。……はぁ、私も父上たちも初めての女の子に浮かれてしまってな。気づいたらああなってしまっていた」
「ふぅん、まあいいや。タザンはいる?ぼく、彼に会うのを楽しみに帰ってきたんだ」
「いるが、えぇと、先に父上と母上に会ってくれないか。二人ともお前を待ちわびていたんだよ」
ライリー兄さんとは兄さんの学園が休みのときに何度か会っていたけれど、両親と会うのは二歳の頃以来だったから、今でもぼくの中で印象的な出来事として記憶されてる。
「……そうして父上たちと再開したあと、タザンに会ったんだけど、相変わらず魂がぐちゃぐちゃでね。ぼくにもよく分からなかったんだけど、まさかルビィまでおかしくなっちゃうとは思わなかったよ」
「……セレ、急に何の話だ。頼むから、昔話を始めるなら少しでいいから前置きをしてくれないか?ほら、ルビィもタザンも困っているだろ」
突然自分とタザンの魂をぐちゃぐちゃだと言った兄に混乱したルビレシアは、落ち着いてもらおうと自室のイスを勧めた。
タザンを除いた三名でテーブルを囲った直後、机上のお菓子を勧める暇も与えられずに、セレが話し始めたのだった。
セレが話している間、タザンは優雅にお茶を淹れていた。
「せ、セレ兄様。わたくしとタザンの魂がぐちゃぐちゃ?と、いうのはどういうことでしょうか」
「それがぼくがタザンの魂を研究しようと思ったら兄さんがタザンをルビィの専属執事にしちゃったからさぁ、近づけなかったんだよ。だから、よく分かんないんだよね」
「当たり前だろ、仕事中に坊っちゃまに追い回される身にもなってみろよ。お前ルビィに近づこうとはしなかったから、ちょうどいいと思ったんだ」
「あぁ、どうりで!急にライリーからお嬢様の専属にって言われたのはそういうことだったんだね」
タザンの紅茶をひとくち飲んだセレは目を輝かせてルビレシアとタザンを見つめた。
「ぼく、ルビィの態度が好きじゃなくて今まで距離を取っていたけど、きみは改心したと言ったらしいね。ならぼくも今までの態度をやめて、きみとタザンの魂をよく調べることにするよ!あぁ、楽しみだな、わくわくしてきた」
「……ミステリアスなイケメンが目を輝かせているわ…!これがギャップね!とても良いお顔だわ!!」
長男は弟と妹の育て方を完全に間違えたとため息を吐き、耐えきれなくなったタザンは抑えていた笑い吐き出して涙をにじませた。




