令嬢の兄、わくわくする〈前〉
ルビレシアの兄で【稀代の天才】セレ・ショグニンのお話です。思ってたより長くなったので前編後編で分けたいと思います。
僕は幼い頃から、生物の魂の形みたいなのが見えていた。
それが普通だと思っていた。
「うあぁぁぁあん」
「セレ、兄様が来たぞ。どうしたんだ、メイドたちがセレが泣いていると…」
「にぃー、あ、あのひと、ぐちゃぐちゃなっててこわいぃぃ」
「は?『あのひと』ってタザンのこと?ぐちゃぐちゃってなんだ」
「セレ坊っちゃま……?わたくし、なにか致しましたでしょうか」
「こ、こないで!!!こっちこないで!あっちいって!」
「セレなんてことを言うんだ!人にそんなことを言っちゃだめだろ!」
「にぃがおこったぁ!だってせぇはこわいんだもん!!あのひとこわいからやだもんんん!うあぁぁぁぁぁん」
「セレ!……はぁ、セレの言っていることは全く理解できないな。タザン、すまないが父上に報告に行ってくれるか、その後は俺の部屋で待機しておいてくれ」
「ライリー……。分かった、僕がなにかしてしまっていたら、君からセレ坊っちゃまに謝っておいて」
「あぁ、すまない、ありがとう」
「ふふっ、僕は気にしてないから気にしないで」
「ありがとう、またなにか分かったら教えるな」
「うん、頼んだよ。もっとも、僕のなにが怖いのか分かれば、だけどね」
他の人には魂の形なんて見えないということが理解できなかった僕は、時々、癇癪を起こしては周りから距離を取られていた。
その度に兄や両親が慰めてくれたけど、彼らと僕の間にも、互いに理解し難い壁があり、次第に僕は口数が減っていった。
いま思えば、僕が癇癪を起こしていた頃の兄は、ほんの四歳ぐらいだったはずだ。にも関わらず酷く大人びていたのは僕のせいだろうか、もしそうならば申し訳ないなと思う。
状況が変わったのは僕が四歳のときだった。
父が「息子の口数が減ってしまった、妊娠中の妻への負担も心配だ」と友人に相談したところ、その友人が僕を自分が育てると言ったのだ。
その友人こそが、僕の師匠だ。
『魂の形は、そのままそいつの精神状態と魔力を表すんだ。オレは魂の輪郭ぐらいしか分からないが、お前は形までわかるんだろ?ははっお前、魔法向いてんぞ』
【大陸一の魔法使い】の師匠の言葉は正しかった。
師匠と共に過ごして四年が経った六歳のときに、僕は師匠の【大陸一の魔法使い】に次ぐ称号の【稀代の天才】を与えられた。
『【稀代の天才】だとぉ?ちぇ、オレの称号よりお前の方が強そうじゃねぇか、クソが』
『何言ってるんですか、師匠。僕はまだ師匠に敵わないのに』
『当たり前じゃねぇか。まだチビの弟子に負ける魔法使いとかクソダサいだろうがよ。まぁでもなんだ、お前の実力がそれなりにあるってことは俺も認めてる。お前、そろそろ実家に戻ってもいいと思うがな』
『……あ、たしかに』
『てめぇ、さては家のこと忘れてたな?お前の父親がまだかまだかってうるせぇんだよ。俺も隣国に調査行けって命令入ったし明後日には出ねぇと行けねぇしよ、てことで明日家に帰れお前』
『えっ、急』
翌日、僕は実家の侯爵家に帰った。
道中、これまで家族から定期的に届いた手紙を眺め、まだ見ぬ妹を想像した。
妹を楽しみにしていた僕は、家に着き、酷く落胆することになる。
「あ!!あなたわたくしのおにい様でしょ!わたくしお腹がすいたの、なにかお菓子を持ってきてちょうだい!」
「……は?」




