令嬢、家族を倒す
三十秒ほど全員が無言で見つめ合うという気まずい時間が流れたが、それを破ったのは父親らしき人物だった。
「る…、ルビィ?体調は大丈夫なのか…?あ、頭は…?」
「お父様……?」
「あ、あぁ。ルビィのお父様とお母様だよ」
(まぁ!本当にわたくしの両親だったのね!なんと見目麗しいおふたりなのかしら!)
どうやら本当に父親だったらしい人物は銀髪をポニーテールでまとめている。タンザナイトのような青とも紫とも言い難い複雑な色味の瞳の持ち主だ。
一方母親だったらしい人物は豊かでふわふわとした栗色の持ち主で、こちらの瞳は宝石で例えるとアキシナイトだろうか、飴のような光沢を放つ美しい茶色である。
「お父様、お母様、おはようございます。わたくしの怪我なら心配されることありませんわ、体になんとも異常がないんですもの。それより、わたくしこれまで多大なる迷惑をかけていたと深く反省しましたの。これからは心を入れ替えて侯爵家ために尽くそうと考えておりますわ」
うんうんと頷きながらルビレシアが放った言葉は父親ーーサーシャの目をこれでもかと言うほど開かせた。
「まぁっ!お父様、それ以上目を開かれるとタンザナイトが落ちてしまいますわ!」
「お、お嬢様…っ…。これ以上僕を笑わせないで…」
「あら、どうしてタザンは笑うのよ!」
「ル、ビィがこわれた……」
そう言い残して倒れたサーシャにメイドやら執事やらが悲鳴をあげたことで食堂内は混沌へと化したのだった。
とりあえず部屋に戻りましょうか、というタザンの言葉に従ってルビレシアは自室へと戻った。が、すぐさま兄たちが押しかけてきた。
「ルビィ、入ってもいいかな?」
「あら?どなたかしら」
「ええと、お前の兄だよ?」
「あぁ!ごめんなさい、どうぞ入って」
そうして入ってきた兄はなんとも顔が良かった。
「ど、どどどどどどうしましょうタザン!わたくしまだ目を覚ましてからイケメンしか見ていないわ…!こうなったらやっぱり王子たちも顔が良いのかしら…」
「ふふっ、お嬢様、落ち着いてください。兄君たちが驚かれていますよ?」
「まぁ、ごめんなさいお兄様方!……ええと、すみません。わたくし少し混乱しているようで、おふたりのお名前をお聞きしても良いかしら」
「……父上がルビィがこわれたと言い放ったと聞いたときは正気を疑ったが、これはなんとも……。それで、なんだったかな、私たちの名前かい?」
そうやって首を傾げた母親譲りの栗色の髪を左で緩く結び、父親譲りだろうタンザナイトの紫の瞳の目元をやわらげた彼は「私はライリーだ」と言った。
「ルビィのいちばん上の兄様だよ。……お前は私のことをライ兄様と呼んでいたから、今後もそう呼んでくれると嬉しいな」
「ライ兄様、ですね……。わかりました、ではそちらがセレ兄様ですか?」
ぼーっとルビレシアを見つめていた次兄ーセレはこくりと頷いた。
こちらは両親のどちらの色も引き継いでおらず、黒髪黒目である。左目に泣きぼくろがあり、なんともアンニュイな美男子である。
ライリーはわかりやすいイケメンだが、セレはどことなくミステリアスな雰囲気が漂っており、前世だったら派閥が出来てるだろうなとルビレシアが思ったころ、セレが首を傾げた。
「うん、僕がセレだ。ルビィ、きみ、魂がぐちゃぐちゃになってるよ」
「……ん?」
「……はぁ?」
「……ほぉ?」
「そんな三人揃って首傾げないで、僕もわかんなくなっちゃう。タザンも相変わらずだね、ぐちゃぐちゃだ」
ルビレシアには彼の言っていることが理解できなかったが、唯一、己の兄が口下手らしいということが分かった。




