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異世界×AI〜俺だけレベルが上がらないのに、補助AIの「最適行動」でいずれ世界最強に!?〜  作者: qp46


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第60話 連携の最適化

金属音が響く。


ランの剣を受け流しながら、シンは身体の奥で勝手に動いていく感覚へ意識を預けていた。ランは強い。踏み込みも速いし、剣の重さも十分にある。少しでも反応が遅れれば普通に押し切られる相手だろう。


だが今のシンは、それを自分一人で処理している訳ではない。


危険な場所。


避けるべき軌道。


次に立つべき位置。


その全てをチャッピーが演算し、身体がそれに従っている。


普通なら戦闘中に考え事なんてしていたら即死だ。けれど今は違う。頭の容量を別のことへ使っていても、身体だけは勝手に最適な場所へ動いてくれる。


「なんなんだよ、その動き!」


ランが剣を振りながら叫ぶ。


「俺に聞くな!」


本当に聞かれても困る。


自分で考えて動いている訳ではないのだから説明のしようがない。


言うなら身体が勝手に正解を選んでいる。


いや、正確にはチャッピーが正解を選ばせているのだろう。


最近はその境目も曖昧になってきていて、最初の頃なら恐怖を覚えたはずの感覚も、今では妙に自然に受け入れてしまっている。


ランの剣を横へ流す。


その瞬間、レナがシンの横を抜けた。


言葉はない。


合図もない。


それでも分かる。


レナがどこへ行こうとしているのか。


どの角度からリンへ詰めるのか。


薄い線のようなものが視界の中に浮かび、そこへ合わせるようにシンの身体が動いていく。


仮リンクの効果だ。


レナと考えを共有している訳ではない。


頭の中を読んでいる訳でもない。


ただ、レナが次に取る可能性の高い行動と、自分が取るべき位置がチャッピーによって重ねられている。


これがあるだけで戦いやすさがまるで違った。


一人で戦っている時は、相手の動き、自分の位置、攻撃のタイミング、その全てを自分で処理しなければならなかった。


だが今は違う。


レナの動きに合わせるための計算をチャッピーが肩代わりしてくれている。


シンがやっていることは、目の前の剣を受けながら、その流れを邪魔しない位置へ身体を置くことだけだった。


「リン!」


ランが妹の方へ視線を向ける。


その一瞬に、シンの身体が前へ出た。


「っ!」


ランの進路を塞ぐように剣を合わせる。


狙った訳ではない。


ランがリンを助けに向かう未来をチャッピーが先に潰しただけだ。


自分で言うのも何だが、相手から見れば相当嫌な動きだろう。


助けに行きたい場所へ、気付いたら邪魔な奴が立っているのだから。


「兄ちゃん、こっち来ないで!」


リンの声が飛ぶ。


「来るなって言われて行かない兄がいるか!」


「今は来られると邪魔!」


「お前なぁ!」


兄妹喧嘩をしている余裕があるのかないのか分からないが、少なくともレナは待ってくれない。


リンが短剣を構え直すより早く、レナは一歩で距離を詰める。


「影、絡み付け! シャドーバインド!」


リンの足元から黒い影が伸びた。


さっきよりも勢いはある。


だが途中で形が歪み、レナの足元へ届く前に崩れるように薄れていった。


「あー! また!」


「だから無理に使うなって言っただろ!」


「今のはいけると思ったの!」


「毎回それ言ってる!」


そのやり取りを聞きながら、シンはランの剣を受け流す。


あの魔法は失敗している。


そこまでは分かる。


だがランが言うように、単純に魔法が下手だから失敗しているようには見えなかった。


発動はしている。


魔力も動いている。


なのに最後の部分だけが上手く繋がらない。


素人のシンに分かるのはそこまでだ。


『解析を継続中です』


チャッピーの声が頭の奥へ響く。


今はそれでいい。


答えを聞くのは後でいい。


まずは勝つ。


レナが動く。


風が巻いた。


レナの身体が一瞬だけ薄くぶれたように見え、次の瞬間にはリンの斜め前へ入っている。


加速。


そこへ剣術スキルの踏み込みが重なり、リンの逃げ道が一つずつ削られていく。


レナは派手に叫ばない。


大きな技名も言わない。


ただ必要な動きを必要なだけ重ねて、相手を追い込んでいく。


味方でよかった。


心の底からそう思う。


あれを敵として相手にしろと言われたら、普通に胃が痛くなる。


「リン!」


ランが強引に前へ出る。


シンはそこへ身体を滑り込ませた。


自分で判断したというより、そう動くのが一番自然だった。


ランの剣が振り下ろされる。


正面から受ければ押し負ける。


だから受けない。


剣を斜めに合わせ、衝撃を流し、足を半歩ずらす。


ランの力が空振りに近い形で流れ、次の瞬間にはシンの剣がランの進路を塞いでいた。


「またそれかよ!」


ランが苛立ったように声を上げる。


「悪いな、俺もよく分かってない!」


「分かってない動きで邪魔するな!」


正論だった。


だが今はその正論に付き合っている暇はない。


ランの相手をしながら、シンは視界の端でレナを追う。


レナはリンを完全に押し込んでいた。


リンも短剣で応戦しているが、距離を詰められた時点で分が悪い。


影魔法で足止めできれば違ったのだろうが、その影魔法が安定しない以上、レナを止める手段がない。


「もう一回!」


リンが叫び、再び影が伸びる。


だがレナは止まらない。


影が伸びきる前に踏み込み、剣の腹で影の中心を叩く。


魔法を斬ったのか、魔力の流れを乱したのか、シンには分からない。


ただ結果として、リンの影はまた崩れた。


「うそっ!?」


「終わり」


レナの剣がリンの首元で止まる。


リンは数秒だけ目を丸くした後、両手を上げた。


「降参!」


判断が早い。


本当に早い。


シンは少し感心した。


無理に粘らないのは大事だ。


前の会社なら無理に粘った結果、全員で地獄を見ることなんて珍しくもなかった。


いや、今その例えを出す場面ではないな。


「リン!?」


ランの視線が妹へ向く。


その瞬間、シンの身体が前へ出た。


『好機です』


言われるまでもなく、身体はもう動いている。


ランの剣を弾き、体勢が崩れたところへ踏み込む。


真正面から倒せる相手ではない。


だが意識が逸れた一瞬なら話は別だ。


肩へ打ち込んだ一撃でランの重心が浮き、そのまま場外線の外へ押し出す。


ランの足が線を越えた。


一瞬の静寂。


次の瞬間、審判の声が響く。


「勝者! シン&レナ組!」


歓声が爆発した。


耳が痛いほどの声に包まれながら、シンはようやく息を吐く。


勝った。


勝てた。


正直なところ、シン一人では絶対に無理だった。


レナがいたから勝てたし、チャッピーがいたから動けた。


自分の力で勝ったというより、三人分の噛み合いで勝ったという感覚の方が近い。


ランは場外で仰向けに倒れたまま空を見ていた。


「負けたぁ……」


「兄ちゃん弱い」


「お前が先に負けたんだろ!」


元気そうで何よりだ。


スタッフが二人へ駆け寄り、簡単な確認をしてから治療室の方へ運んでいく。


大きな怪我はなさそうだった。


リンは運ばれながらもこちらをちらちら見ているし、ランは悔しそうに歯を食いしばっている。


負けた直後なのに、あの二人からはまだ折れた感じがしなかった。


『チャッピー』


『はい』


『結局、あいつらの異常ってなんだったんだ?』


戦闘が終わったからこそ、ようやく聞ける。


『対象ランは基本剣術の習熟率が高い一方、現在の戦闘様式は最適ではありません』


『簡潔に言うと、剣より槍との適合率が高いです』


『対象リンは影魔法適性が高水準ですが、魔力回路の一部に乱れがあります』


『発生した魔力の一部が損失しているため、術式が最後まで維持できていません』


情報量が多い。


シンは思わず眉を寄せた。


『つまり?』


『ランは槍を使えばさらに強くなる可能性があります』


『リンは魔力回路の乱れを補正できれば、影魔法を安定して使用できる可能性があります』


なるほど。


分かったような、分からないような。


いや、細かい理屈は分からない。


だがあの二人がまだ伸びるということだけは分かった。


『レナ』


『何』


『チャッピーの解析、どう思う』


少しだけ間が空く。


『ランのこと? リンのこと?』


『両方だ』


『間違ってはいないと思う』


レナも治療室へ運ばれていく兄妹へ視線を向けた。


『だよな』


ランの剣も。


リンの魔法も。


あと少しで届きそうなのに届いていない。


そんな風に見えた。


『教えてやるの?』


『迷ってる』


『優しいのね』


『そうか?』


『でも、そういうのは嫌いじゃない』


少しだけ胸の奥がむず痒くなる。


褒められたのか、呆れられたのかは分からない。


多分その両方だ。


『なんかほっとけなくてな』


『好きにすれば』


『止めないのか?』


『止めても聞かないでしょ』


それはまあ、そうかもしれない。


シンは苦笑しながら、治療室の方へ運ばれていく二人の背中を見送った。


今すぐ追いかける必要はない。


まずは次の試合もある。


けれど、あの二人とはきっともう一度話すことになる。


そんな予感だけは妙にはっきりしていた。

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