第52話『ズレ』
控室へ戻った瞬間、シンは壁へ背中を預けた
「っはぁ……」
一気に力が抜ける
腕が重い
脚もだるい
思考へ身体が追いついていない感覚が気持ち悪かった
『身体疲労率、中』
『脳負荷上昇を確認』
「いや絶対“中”じゃないだろこれ……」
シンはそのまま近くの椅子へ座り込む
一般人。
改めて実感する
今戦ってる相手達は、
最初から身体性能がおかしい
レベル
加護
スキル
そういうものを前提に鍛えられている
対して自分は違う
ただの人間だ
だからこそ。
疲れる
『予測外行動の有効性を確認』
チャッピーの声が静かに響く
『既存戦術との統合を開始します』
「統合って……簡単に言うなぁ」
苦笑が漏れる
でも。
少しだけ分かってきた
最適解をなぞるだけじゃ足りない
予想外すら、
戦術へ組み込む
それが今の自分達なんだと思う
外から歓声が響く
次の試合が始まったらしい
でもシンは立ち上がらなかった
今は休む
身体が保たない
『休息を推奨』
「珍しく意見合ったな」
シンは小さく笑い、そのまま椅子へ深く座り直す
静かな部屋だった
歓声だけが遠く聞こえる
ふと、自分の手を見る
少し震えていた
ミリグ戦。
集中し続けた代償だ
『筋疲労を確認』
『回復まで推定――』
「いいいい、聞きたくない」
即座に遮る
チャッピーが少し黙った
その沈黙が妙におかしくて、シンは少しだけ笑う
「……でも助かった」
『肯定』
短い返答。
でも今は、それだけで十分だった
最初はただの補助だった
検索して。
答えを出して。
最適解を提示するだけのAI。
でも。
今は違う
チャッピーも変わっている
予想外。
不確定。
人間特有のズレ。
そういうものを、
少しずつ理解し始めていた
シンは天井を見上げる
「……お前さ」
『はい』
「なんか最近、人間っぽくなってない?」
少し間が空く
『不明』
「だよな」
苦笑
でも。
本当に少しだけ、
変わった気がしていた
チャッピーだけじゃない
自分もだ
最適解へ従うだけじゃ勝てない
人間はズレる
だったら。
そのズレすら利用する
そこまで考え始めている時点で、
最初の頃とはもう違った
外から再び歓声が響く
大会は進んでいる
強い奴らもまだいる
センチ。
あの男の動きは、今でも頭から離れない
最小動作。
待ち。
読む戦い方。
『対戦時注意対象:センチ』
視界端へ文字が浮かぶ
シンが顔をしかめた
「消せない?」
『推奨しません』
「だろうな……」
小さく息を吐く
まだ勝てる気はしない
でも。
前より、
“戦える気”
はしていた
それが少しだけ嬉しかった




