第50話 一回戦
ゴォォン――ッ!!
巨大な鐘が闘技場へ響く
「そこまでェ!!」
歓声が爆発した
シンは息を切らしながら顔を上げる
視界が揺れる
汗が頬を流れ、腕は痺れたままだった
周囲を見る
倒れている参加者達。
崩れた地面。
煙。
そして。
立っているのは――十六人だけだった
「予選終了ォォォ!!」
観客席が揺れる
「生き残った十六名が本戦進出だァ!!」
歓声
怒号
笑い声
シンはその場へ座り込んだ
「……はぁ……っ」
脚が終わってる
マジで
『全身疲労率上昇』
「そういう時だけ冷静だな……」
その時。
観客席側からレナが降りてくる
自然と周囲が道を空けていた
レナはシンの前まで来ると、小さく息を吐く
「生きてた」
「そりゃ頑張ったからな……」
シンは苦笑する
レナの視線が、シンの足運びへ向く
「動き、変わった」
「……わかる?」
「少しだけ」
レナはそこで言葉を止める
少し考えてから。
「前より、“戦ってる”」
シンが少し目を丸くした
それはレナにしてはかなり珍しい、ちゃんとした褒め言葉だった
「……なんか今日優しくない?」
「死にかけてたから」
「やっぱ優しくないな?」
レナが少しだけ口元を緩める
ほんの少し。
でも確かに笑っていた
その瞬間。
闘技場中央で司会が叫ぶ
「――それではァ!! 休憩後、本戦開始ィィィ!!」
歓声が爆発する
シンはその声を聞きながら大きく息を吐いた
まだ終わっていない
ここからが本番だった
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数十分後。
グランゼル闘技場、本戦会場
「第一試合ッ!! マクロ VS シン!!」
歓声が爆発する
シンが小さく息を吐いた
対面側から、大柄な男が歩いてくる
筋肉質
重装備
片手斧
真正面から叩き潰すタイプだった
マクロが鼻で笑う
「お前か、逃げ回ってた雑魚ってのは」
「初対面でその言い方ひどくない?」
「安心しろ」
男が斧を担ぐ
「今度は逃がさねぇ」
ゴォン――ッ!!
試合開始の鐘が鳴る
次の瞬間。
マクロが地面を砕きながら突っ込んできた
速い
重い
だが。
一直線だった
『予測可能』
シンが半歩ズレる
斧が空を切る
マクロが目を見開いた
「っ!?」
次の瞬間。
シンの足運びが変わる
今までみたいな単純回避じゃない
誘導。
わざと視線を見せる
逃げる方向を見せる
マクロが追う
だが。
途中で重心が変わる
シンの身体が滑るように横へズレた
「なっ――!?」
斧が再び空振る
観客席がざわつく
「またあの動きだ!」
「避け方おかしいぞ!」
シン自身もまだ慣れていなかった
改変。
最適行動を途中でズラす
相手へ読ませた上で変える
今までとは感覚が違う
「っ……!」
シンは呼吸を整えながら距離を取る
マクロは完全に苛立っていた
「逃げてばっかじゃ勝てねぇぞ!!」
「そっちこそ当たってないけどな!!」
観客席から笑いが起きる
だが。
その直後だった
マクロが急停止する
「――ッ!!」
斧が横薙ぎへ変わる
速い
フェイント。
シンの瞳が僅かに揺れる
今までの読みと違う
『予測修正』
間に合わない
シンが咄嗟に木剣を合わせる
重い衝撃
「ぐっ!!」
身体が吹き飛ぶ
地面を滑る
熱い
腕が痺れていた
観客席が湧く
「入ったァ!!」
「やっぱ正面じゃ勝てねぇ!」
だが。
シンはすぐ立ち上がった
呼吸を整える
視線を動かす
マクロは力任せじゃない
ちゃんと狩り方を知っている
「……マジで強ぇな」
『対大型近接戦闘を再解析』
『推奨、誘導戦術継続』
「だよなぁ……!」
次の瞬間。
マクロが再び突っ込んでくる
だが今度は。
シンが前へ出た
「ぁ?」
観客席がざわつく
逃げない
真正面。
マクロが笑う
「ようやくやる気かァ!!」
斧が振り下ろされる
その瞬間。
シンの視線が僅かに動いた
左。
マクロの重心がそちらへ流れる
シンはそこを見せた
誘導。
マクロが反応する
だが。
次の瞬間。
シンの踏み込みが途中で変わる
改変。
身体の流れをズラす
「っ!?」
マクロの反応が遅れる
木剣が斧の柄へ叩き込まれた
重心が崩れる
さらに。
シンがそのまま足を引っ掛ける
「な――」
巨体が傾く
そこへ。
シンが全体重を乗せて押し込んだ
ドゴォッ!!
マクロが地面へ叩きつけられる
闘技場が静まり返る
一瞬遅れて。
歓声が爆発した
「倒したァァァ!!」
「なんだ今の!?」
「見えなかったぞ!?」
マクロ自身も理解できていなかった
仰向けのまま目を見開く
「……なんだ、その戦い方……」
シンは息を切らしながら苦笑する
「俺もまだ勉強中だよ……」
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「第二試合ッ!! ミリグ VS バルド!!」
歓声が再び響く
シンは壁際へ下がりながら試合を見上げた
次の瞬間。
ミリグが消える
「――は?」
遅れて衝撃音が響いた
バルドの身体が吹き飛び、闘技場を転がる
静まり返る会場。
「……勝者、ミリグ!!」
一瞬遅れて歓声が爆発した
「速ぇぇぇ!!」
「今見えたか!?」
「終わったぞ今!?」
シンが目を丸くする
「いや見えなかったんだけど……」
『高速踏み込み系』
『脚部動作を記録』
「記録してる場合かアレ……」
だが。
シンの表情は少しだけ真剣だった
速い
ただ速いだけじゃない
“迷いがない”
無駄がなかった
その時。
レナが隣へ来る
「見た?」
「……いや、見えなかった」
「一定だった」
「一定?」
レナが闘技場へ視線を向ける
「踏み込みが、全部同じ」
シンが少しだけ眉をひそめた
“ブレがない”
だから速い
だから読みにくい
シンが小さく息を吐く
「この大会、化け物しかいねぇな……」
その直後。
闘技場中央で次の名前が呼ばれる
「第四試合!! センチ VS ガルア!!」
レナの視線が、少しだけ変わった
「……来た」
「知ってんのか?」
「強い」
短い返答。
だが。
それだけで十分だった




