第49話 振るい落とし②
「残り三十二名ィ!!」
司会の怒号が闘技場へ響き渡る。
歓声。
怒鳴り声。
地面へ転がる敗者達。
振るい落としはまだ終わらない。だが、最初より明らかに空気が変わっていた。残っているのは、ただ勢いだけで暴れていた連中じゃない。生き残り方を理解し始めた奴らだ。
「っ……はぁ……!」
シンは肩で息をしながら距離を取る。全身が重い。避け続けているせいで脚がかなりきつい。太腿が焼けるみたいに熱い。それでも、最初より身体は動いていた。
『動作再現精度が上昇』
『重心制御補助を更新』
「……だから急に身体へ馴染ませるなって……!」
息を吐きながら悪態を零す。だが実際、身体の動きは変わっていた。まだ完全じゃない。ぎこちないし、無理やり感もある。それでも、“扱い方”を覚え始めている感覚があった。
次の瞬間、正面の槍使いが一気に距離を詰めてくる。
速い。
だが、今度は見えた。
踏み込み。
肩。
視線。
重心。
相手がどこへ力を流そうとしているかが、ぼんやりと分かる。
シンの身体が半歩だけズレた。
槍が空を切る。
「っ!?」
槍使いの目が見開かれる。その隙を逃さず、シンは相手の足へ剣を引っ掛けた。崩れる体勢。そこへ横から飛んできた火球が直撃する。
「ぎゃぁぁっ!?」
「うわっ、ごめん!!」
『戦術成功』
「いや俺じゃねぇからな!?」
観客席から笑いが起きた。
「また巻き込みやがった!」
「アイツほんと逃げ回るな!」
「でもなんか残ってんな……」
空気が少しずつ変わり始めていた。
派手じゃない。
真正面から勝ちもしない。
なのに落ちない。
気付けば、まだ立っている。
観客達も段々無視できなくなってきていた。
だが、上段席に座る数人だけは既に別のものを見ていた。
「あの動き……」
「最初より滑らかになってる」
「適応してるのか?」
シンはそんな視線に気付く余裕もなく、再び走り出す。
次の瞬間、横から剣士が飛び込んできた。
速い。
連撃型。
『ダブルスラッシュ類似』
チャッピーが即座に解析する。
一撃目を身体を流して避ける。続く二撃目。その瞬間、シンの足運びが僅かに変わった。
今までの回避とは違う。
誘導。
わざと避ける方向を見せる。
剣士が追う。
だが次の瞬間、シンの重心が途中で変わった。
「なっ――!?」
斬撃が空を切る。
シン自身も驚いていた。
「今の……!」
『再現動作を再構築』
『改変成功』
視界の中で、新しいラインが組み替わっていく。
今までは、最適解を“なぞっていた”。
でも違う。
ズラせる。
変えられる。
相手へ読ませた上で、途中から変化させる。
「っ……!」
シンは反射的に踏み込んだ。
木剣が相手の手首を弾く。剣が宙を舞う。そのまま別方向から飛んできた大男が、武器を失った剣士へ突っ込んだ。
「ぎゃぁぁぁっ!?」
『連鎖誘導成功』
「いやほんと怖ぇなお前!?」
その時だった。
ゴォォン――ッ!!
鐘が鳴る。
「残り二十名ィ!!」
一気に人数が減っていた。
会場の熱気も変わっている。今残っている連中は、明確に強い。
その中で、シンだけが異質だった。
正面からはぶつからない。
避け、誘導し、他人同士を噛み合わせるみたいに戦場を動かしていく。それなのに、誰よりも状況を見ていた。
「……はぁ……っ」
汗が頬を流れ落ちる。熱を持った呼吸が喉へ張り付き、視界の奥で次の敵が踏み込んでくるのが見えた。
その瞬間、チャッピーの声が少し変わる。
『複数補助処理を開始』
「……え?」
視界が広がった。
敵位置。
移動速度。
攻撃方向。
回避予測。
大量の情報が一気に頭へ流れ込んでくる。
重い。
情報量が多すぎる。
「ぐっ……!?」
視界が揺れる。脳が焼けるみたいに熱い。
『並列最適化を実行』
次の瞬間、シンの身体が半ば強引に動かされた。
横へ流れた勢いのまま回避へ繋がり、そのまま踏み込みへ移行する。視線移動すら途切れない。全部の動きが一本の流れとして身体へ統合されていく。
まるで。
複数の戦闘動作が、一つの身体へ無理やり圧縮されていくみたいだった。
『新規能力を構築』
『《統合》を取得しました』
シンの目が見開かれる。
その瞬間、真正面から巨大な戦斧が振り下ろされた。
だが。
シンの身体はもう動いていた。
半歩ズレる。
足払い。
背後の魔法使い方向へ誘導。
魔法使いが反射的に火球を撃つ。
爆炎。
巻き込まれる戦斧使い。
観客席がどよめいた。
「また誘導しやがった!?」
「なんだアイツ……!」
「意味わかんねぇ動きしてるぞ!?」
シンは息を切らしながら苦笑する。
「いや……俺もわかってねぇ……!」




