第44話 改善提案
街を出てから半日。
空は高く、風は穏やかだった
草原を抜ける街道を、シンとレナは並んで歩いている
静かだった
聞こえるのは風と足音だけ。
その沈黙を破ったのは、シンの荒い呼吸だった
「はぁ……っ」
脚が重い
肺が焼けるように熱かった
隣を歩くレナは、相変わらず涼しい顔をしている
「遅い」
「……うるせぇ」
言い返しただけで息が切れる
レナが呆れたようにため息を吐いた
「体力なさすぎ」
否定できなかった
神崎戦から、ずっと頭に残っている
あの速度。
あの圧力。
見えていた
どこから来るのかも、どこを狙っているのかも。
全部。
でも。
身体が追いつかなかった
『前戦闘データを再解析』
脳の奥で、チャッピーの声が響く
『対象:神崎 玲』
『戦闘継続率を再計算』
淡い文字が浮かび上がる
『現在の身体性能では、高負荷戦闘への対応が困難です』
「……分かってる」
レナがちらりと見る
「またそいつ?」
「まあな」
シンは空を見上げた
正直、最初はなんとかなると思っていた
モンスター相手なら戦えていたからだ
グリスが前に出る
ダンが守る
マリーが魔法を撃つ
レナが斬る
シンは、その全員へ最適な指示を飛ばしていた
だから勝てた
でも神崎は違った
対人戦。
読み合い。
駆け引き。
最適化。
それでも最後に必要だったのは、単純な身体性能だった
『身体動作補助を実行』
視界の端に文字が流れる
『重心補正』
『反応補助』
『筋出力制御』
レナが少し眉を上げる
「……何それ」
「チャッピーの補助。最初からずっとやってる。歩き方とか、回避とか、剣を振るタイミングとか。細かく補正されてるらしい」
レナがじっとこちらを見る
「それであれ?」
「お前ほんと容赦ないな!?」
「事実」
即答だった
でも、レナの言葉は正しかった
チャッピーの補助があるから、今のシンは戦えている
逆に言えば。
補助がなければ、とっくに死んでいた
『問題を確認』
『ツツイ シンの身体が補助へ適応しきれていません』
シンが少し黙る
「……適応」
『現在の身体性能では、最適動作の完全再現が不可能』
『負荷が発生しています』
神崎戦を思い出す
避けるべき場所は分かっていた
だが、避けきれなかった
攻撃の最適解も見えていた
だが、身体が間に合わなかった
チャッピーは答えを出せる
でも。
それを実行するのは、シン自身だった
『改善を提案します』
「……だろうな」
レナが前を向いたまま口を開く
「鍛える?」
「ああ」
「じゃあ付き合う。そのままだと多分また死ぬ」
「言い方!」
「実際そう」
レナは木の枝を拾い、軽く振った
風が鳴る
小さい動きなのに鋭い
「力じゃない。重心、踏み込み、振り抜き……全部ズレてる」
『解析結果と一致』
「お前黙ってろ」
思わずそう返すと、レナがじっとこちらを見る
「……また会話してる」
「あ」
しまった。
レナは数秒こちらを見たあと、小さく息を吐いた
「別にいい。でも、そのチャッピー。かなり優秀」
シンが苦笑する
「ああ」
それだけは間違いなかった
風が吹く
遠くに、巨大な城壁が見え始めていた
城塞都市グランゼル。
次の街。
次の戦い。
次は、指示だけじゃ終われない
『最適行動を更新』
脳の奥で、チャッピーの声が静かに響いた




