42話 再現ーー《強奪》
黒い靄が森を揺らす
神崎の口元が歪んでいた
「次はどうズラしてくる?」
短い黒剣が、鈍く脈打つ
空気が重い
龍の力を奪ったせいか、立っているだけで圧が増していた
『対象危険度:上昇』
『推定戦闘能力、前戦闘比132%』
(まだ上がるのかよ……!)
シンが奥歯を噛む
神崎が地面を蹴った
爆音
地面が抉れる
速い
木々の隙間を黒い影が走る
「右ッ!!」
レナが反応する
火花
黒剣と銀刃がぶつかった
「っ……!」
重い
押される
神崎が笑う
「いいねぇ」
黒い靄が腕を這う
「その反応速度、ほんと欲しい」
「……断る!」
レナが無理矢理剣を流す
その瞬間
神崎の蹴りが横から飛んだ
「がッ!?」
レナの身体が吹き飛ぶ
木へ叩きつけられる寸前、ダンが割り込んだ
「レナ!」
重い盾が受け止める
轟音
ダンの足元が地面へ沈んだ
『衝撃分散を確認』
(まだいける――!)
「マリー!」
「うん!」
杖が振り上げられる
「風よ、切り裂け――《ウインド・カッター》!!」
風刃が連続で走る
神崎は木々を蹴りながら回避する
速い
だが、その軌道が見える
『対象行動を予測』
『推奨行動を表示します』
視界の奥
神崎の動きが、線みたいに見えた
(そこだ――!)
「グリス、左から来る!」
「おうッ!!」
大剣が振り抜かれる
轟音
神崎が無理矢理ショートソードで受ける
だが軽い
押し負ける
神崎が舌打ちした
「クソが……!」
地面を滑る
そこへシンが踏み込んだ
神崎の目が細くなる
「……来るか?」
脳の奥でchaPPYが高速演算を始める
『対象能力:《強奪》』
『条件付き再現を開始します』
(今……!)
黒い情報が頭へ流れ込む
接触
借用
再現
神崎の感覚が一瞬だけ脳へ混ざった
奪う
引き剥がす
塗り替える
嫌な感覚
頭の奥が軋む
『警告』
『長期使用は非推奨』
(っ……!)
視界が一瞬だけブレる
だが、見えた
神崎の踏み込み
重心
呼吸
次に来る動き
全部
「ダン、下を止めろ!!」
「おう!!」
盾が地面へ叩き込まれる
神崎の足が止まる
「マリー!!」
「風よ、絡みつけ――《エアロ・バインド》!!」
風が脚へ巻きつく
神崎が顔を歪めた
「またそれかよ……!」
「レナ!!」
「分かってる!!」
銀閃
《ライトニングスラスト》
雷みたいな突きが神崎の脇腹を裂く
血が飛ぶ
「チッ――!」
神崎が強引に距離を取る
その瞬間
シンが踏み込んだ
「再現――《強奪》」
神崎の目が開く
「――は?」
シンの手が、神崎の腕へ触れる
黒い靄が逆流した
「がッ……!?」
神崎の身体が初めて大きく揺らぐ
脳へ熱が流れ込む
速い
苦しい
頭の中へ他人が侵入してくるみたいだった
『対象能力一部借用を確認』
『侵食率上昇』
頭痛
吐き気
それでも、止めない
神崎が顔を歪める
「テメェ……何しやがった……!」
シンは息を荒げながら剣を構えた
神崎の動きが見える
読める
「グリス!!」
「あぁ!!」
大剣が振り上がる
神崎が咄嗟に避ける
だが遅い
シンが読んでいた
「右へ逃げる!」
「任せろ!!」
ダンの盾が逃げ道を潰す
「風よ、押し出せ!!」
マリーの風が神崎の身体を押し戻した
完全に止まった
その一瞬
レナが踏み込む
「終わりだ!!」
雷光
《ライトニングスラスト》が神崎の胸を貫いた
轟音
衝撃で黒い靄が爆ぜる
神崎の身体が大きく吹き飛び、地面へ叩きつけられた
ショートソードが転がる
静寂
神崎が血を吐く
「……は、はは」
それでも笑う
「マジかよ……」
空を見ながら呟く
「再現してきやがった……」
シンは息を切らしながら立っていた
頭が痛い
視界が揺れる
『侵食率上昇』
『長期使用は非推奨』
(……うるさい)
その瞬間だった
黒いローブが、神崎の背後へ現れる
「な――」
誰も反応できなかった
ローブの人物が、倒れた神崎を抱え上げる
神崎は薄く笑った
血を吐きながら、それでもシンを見る
「……いいなぁ、お前」
口元が吊り上がる
「もっと強くなれよ」
黒い靄が揺れる
「その能力は、俺が奪うためにあるんだからなぁ」
次の瞬間
二人の姿が闇へ溶けるように消えた
静寂
風だけが、森を抜けていく
シンはその場で膝をついた
頭の奥が焼けるみたいに熱い
『侵食率上昇を確認』
『長期使用は非推奨』
その警告だけが、
静かに脳内へ響いていた




