第3話 交差する違和感
第3話です。
町に入り、ギルドや冒険者たちの雰囲気が少し見えてきます。
同時に、主人公の「違和感」に気づく人物も現れ始めます。
まだ説明は控えめですが、少しずつ世界が広がっていく回になっています。
森を抜けた先にあったのは、木造の壁に囲まれた町だった。門の前には見張りの兵士が立ち、出入りする人間を一人ずつ確認している。
「ここが……」
思わず足を止める。中からは人の声や荷車の軋む音、金属のぶつかる音が混ざり合って聞こえてきた。さっきまでいた森とはまるで別の世界だ。
「そんな珍しいか?」
グリスが軽く笑う。
「いや……ちょっと」
言葉を濁し、門へと近づく。
見張りの兵士が槍を軽く傾ける。
「そちらの方は?」
一瞬、視線がこちらに集まる。
グリスが肩をすくめる。
「森で拾った。魔物に襲われてたやつだ」
「身元は?」
「不明。ただ――」
グリスが一歩前に出る。
「身柄は俺が保証する。問題ない」
短く言い切る。
兵士はわずかに考え、やがて頷いた。
「……分かりました。お通りください」
門が開く。
(保証って……そんな簡単に通るのか?)と思いかけるが、兵士の様子を見る限り、それだけの信用があるということらしい。
町の中へ足を踏み入れる。石畳の道の両脇には店が並び、人の流れも絶えない。鎧姿の男やローブを纏った者、耳の形が人とは違う者までいる光景に、改めてここが自分の知っている世界ではないと実感する。
「とりあえずギルドだな」
案内された建物は他より一回り大きく、扉を開けた瞬間に空気が変わった。ざわめきと酒の匂い、そして向けられる視線。あからさまではないが、確実に見られている。
「新人か?」「見ない顔だな」
そんな声を背に受けながら、グリスは構わず奥へ進む。
「依頼報告だ」
カウンターの女性受付が顔を上げる。
「はい、ゴブリン討伐の完了を確認しました。調査依頼の件について、新しい報告はありますか?」
一瞬、空気が変わる。
ダンが一歩前に出る。
「……その件で、ギルドマスターと話したい」
女性受付の表情がわずかに引き締まる。
「分かりました。お繋ぎします」
ダンはそのまま奥へと歩いていった。
(ギルドマスター……?)
ただの報告にしては、少し重い気がした。
その流れのままカウンターに近づく。
「すみません、ギルドで身分証のようなものは発行できますか?」
女性受付はすぐに頷く。
「はい、冒険者登録になりますね。でしたら後ほど手続きを行いますので、少々お待ちください」
「分かりました」
やり取りを終え、少し下がる。
その時、ふと視線を感じる。
振り向く。
壁際に、一人の少女が立っていた。
剣を背負い、気だるげに寄りかかっている。周囲の喧騒に溶け込んでいるはずなのに、妙に目につく。
(……なんだ、あれ)
違和感。
場に馴染んでいるのに、逆に浮いている。
一瞬、目が合う。
逸らせない。
底を見られるような感覚。
(……なんか、怖いな)
次の瞬間、少女は興味を失ったように視線を外した。
「どうした?」
「いえ……なんでもないです」
気のせいかと思い、意識を戻す。
「今日はもう解散だな」
グリスが肩を回す。
「私はもう一件見てくるわ」
「宿ならあっちだ」
「ありがとうございます」
三人――いや、ダンを除いた二人と別れ、一人で歩き出す。
数歩進んだところで、ふと足が止まる。
(……待てよ)
冷静になる。
(宿って言ってたよな)
周囲を見渡す。
(いや、その前に――)
ポケットに手を入れる。
何もない。
(……金、ないじゃん)
一瞬、思考が止まる。
(いやいやいや……どうすんだよ)
ここに来て初めて、“生活”という現実が追いついてきた。
その時。
「――あんた」
背後から声がかかる。
振り向くと、さっきの少女が立っていた。
気だるげなまま、じっとこちらを見ている。
「……なんですか?」
少女は少しだけ首を傾ける。
「なんか、他と違う雰囲気ね」
「……は?」
「うまく言えないけど」
少し間を置く。
「妙な感じがするのよ」
背中に、冷たいものが走る。
見抜かれているわけじゃない。
だが――触れられてはいけない部分に、触れられた気がした。
「……気のせいじゃないですか」
それしか言えない。
少女は少しだけ目を細める。
「かもね」
だが、視線は離れない。
『提案があります』
チャッピーの声が響く。
「……なんだ?」
『当該個体との同行を推奨します』
「は?」
『生存率、成長効率ともに向上が見込まれます』
(こいつと……組めってことか?)
視線を戻す。
少女はまだ、そこにいる。
第3話を読んでいただきありがとうございます。
今回は
・町とギルドの雰囲気
・調査依頼という不穏な要素
・そして主人公に向けられる“違和感”
を描いています。
また、ヒロインが初めてしっかり絡む形になりました。
彼女がなぜ一人で行動しているのかは、今後少しずつ明かしていきます。
次回は主人公が初めて単独で依頼に挑みます。
そして、チャッピーの力と“ズレた成長”がよりはっきりしていきます。
引き続きよろしくお願いします。




