第15話 とある勇者の話
第15話です。
ここから少し視点が変わり、新たな登場人物の話になります。
以前、グリスが口にしていた“勇者”についての話、その一端になります。
この世界における“異世界人”がどのように扱われるのか、そして主人公とは違い、正規の形で呼ばれた存在がどんな力を持つのか――
その違いも意識しながら読んでいただけると嬉しいです。
白い光が視界を埋め尽くし、何も見えないまま足元の感触だけが現実を繋ぎ止めていた。立っているはずなのにどこか浮いているような不安定さに、無意識に足に力が入る。
「――成功です」
その声を合図に光がゆっくりと引き、輪郭が戻ると同時に見知らぬ空間が現れる。高い天井、壁一面に刻まれた紋様、円を描くように並ぶローブ姿の人間たち、その中心に自分が立っている。
「ここは……?」
喉が乾く。
一歩前に出た男が静かに頭を下げる。
「ようこそ、お越しくださいました。ここは星教会、その聖域にございます」
聞いたことのない言葉に思考が追いつかないまま続く。
「あなたは異世界より招かれました。この世界を救う存在として」
「……は?」
現実味がない。教室や机、さっきまでの何でもない日常が頭をよぎる。
「いや、ちょっと待ってください。俺、普通に……」
言葉を探す。
「ただの高校生なんだけど」
一瞬だけ空気が静まり、間を置かず男の声が落ちる。
「タクミ・キリシマ様」
迷いがない。
(……なんで知ってる)
名乗っていないはずの名前が当然のように呼ばれる。
違和感が胸に引っかかるが、それを遮るように言葉が続く。
「あなたは“勇者”です」
否定する隙はない。
「ステータスをご確認ください」
視界の端に光が走り、半透明の表示が浮かび上がる。
――――――――――
【ステータス】
――――――――――
名前:タクミ・キリシマ
職業:勇者
レベル:1
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【能力値】
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筋力:120
敏捷:110
耐久:130
魔力:150
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【固有スキル】
――――――――――
・星の加護
・全属性適性
・成長補正(大)
――――――――――
「……なんだこれ」
意味は分からない。それでも異常だということだけは理解できる。
手を開き、軽く握る。
(……力、入るな)
身体の奥から自然に力が通る。
「これはタクミ・キリシマ様に与えられた力。この世界においてあなたは特別な存在です」
“特別”という言葉が妙に残る。
(……なんで名前知ってるんだよ)
疑問は消えない。それでも同時に、別の感覚が広がっていく。
「試してみますか」
促されるまま移動した先は簡素な訓練場で、渡された剣は違和感なく手に馴染んだ。
(持ったことないのに)
試しに振る。
空気が裂ける音と同時に、目の前の木製の的が真っ二つに割れる。
「……は?」
理解が一拍遅れる。
(今の、俺が?)
もう一度振る。今度は意識して。
的が吹き飛び、破片が床に散る。
「素晴らしい」
周囲の視線が一斉に集まる。
(マジかよ……)
現実感が別の意味で崩れていく。
手を見る。震えはない。
それどころか、まだ足りないと感じている。
(……まだいけるな)
軽く剣を振るだけで、それが分かる。
「この力で、何をすればいいんですか?」
自然と口から出る。
「この世界を救っていただきます」
迷いのない答え。
(救う、ね……)
剣を握り直す。軽い。思い通りに動く。
身体も感覚も、すべてが噛み合っている。
(……できるな)
理由は分からない。だが確信だけはある。
「まあ」
小さく息を吐く。
「やれることは、やりますよ」
口元がわずかに歪む。
さっきまでの“普通”は、もうどこにもない。
(悪くないな、この感じ)
ふと浮かぶ。
(最初からこうだったら、もっと楽だったのに)
その考えに、違和感は残らなかった。
――その日、一人の勇者が誕生した。
そして同時に、桐島拓実という“普通”は、静かに形を失い始めていた。
第15話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、前にグリスが話していた“勇者”について、その実際の姿を描く回になりました。
伝え聞いていた存在と、実際に召喚された側の視点、そのズレも含めて感じていただけていれば嬉しいです。
また、タクミ・キリシマという存在が、状況と力によって少しずつ変わり始めているところも意識して書いています。
まだ大きく崩れてはいませんが、その兆しのようなものが見え始めている段階です。
ここから主人公側との対比もよりはっきりしてくると思うので、そのあたりも楽しんでいただければと思います。
よければ感想やレビューなどいただけると励みになります。
反応を見ながら続きも書いていきますので、今後ともよろしくお願いします。




