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2. 闇医者見習いの困惑


「いっとき美容治験だとかで、根っこから見た目変えんの流行ったからなぁ」


 カレルは朗らかに笑い、セキナから視線を外す。尋ね人と同じ見た目だが、それに気が付いた様子はない。


「セキナちゃん、バラックスってここを左だっけ?」


 エンが平然と名前を挙げたことにニグモイは目を剥くが、カレルは無反応だった。セキナも気にすることなく、エンの言葉に頷いている。


(え、えぇ……俺がおかしいのか……?)


『ニグモイ』


「! ああ」


 ディーの呼びかけにニグモイが前のめりで反応する。この状況に対して何か答えを持っているのかもしれない。


『まだ未成年だよな?バラックスで呑むなよ』


「…………」

 

「アハハ、ディーってたまに聖職者みたいなこと言い出すよね」


 愉快そうに笑うエンを傍目に、ニグモイは困惑で叫びだしたい気持ちを押し殺し、沈黙を選んだ。後で絶対に説明させる、と心に誓って。


 そうして、屋台街のはずれ。退役軍人が営むバーで、一行は話をすることにした。よほどの命知らずでない限りこの店では暴れないし、暴れたとしても瞬く間に鎮圧される。


 テーブル席に通されたニグモイは、少し離れたカウンター席で仕事の話を進めるエンとカレルを見た。


(変装すらしてねぇのに、何で分からないんだか……)


 カレルは、セキナを探している。しかし、見た目や名前を知りながら、目の前で本人に声をかけられても気が付いた様子はなかった。


 ニグモイが隣に座るセキナを横目で見ると、目が合う。――近い。思わず目を逸らすと、セキナが問いかけてきた。


「どうかした?」


「……。いや、どうかしてるだろ。現在進行形で」


 ニグモイの目線が、カレルに向く。それだけで、セキナは言わんとすることを汲み取ったようだ。


「ん……ディーとニグモイ以外は、全員認識をずらしてる。私のことをセキナと呼んでも、セキナだとは思わない」


 ニグモイはセキナの言葉に面食らった。

 認識をずらす。言葉の意味は分かっても、理屈の分からぬ事象に実感が付いてこなかった。あまりにも現実離れしている――が、セキナならばできても不思議ではないことを、ニグモイは理解している。


(まぁ、そもそも出会いが出会いだったしな……)


 ニグモイは冷静さが戻ったところで、セキナの言葉を反芻し――とんでもない事実に気が付いた。そう、セキナは認識をずらす対象を「ディーとニグモイ以外」と言っていた。


「ちょ、待て……!エンにもやってんのかよ!?」


 声を落として咎めるニグモイに対して、セキナは頷いた。


「信用してないから」


 エンは、監視役だ。貧民窟の片隅で起きた銃撃騒ぎ、その渦中にいたセキナを見張るために雇われた傭兵だと本人は語った。ディーいわくその身分に嘘は無いとのことで、雇い主はこの辺りに根付く貿易会社の上役らしい。


「いや監視役とは言ったけど、セキナのことは敵に回したくないから適当に誤魔化すって……」


『自分が不利になるような身元を明かしたからといって、言うこと全てを信じる訳にはいかないだろう』


 セキナの端末から、電子音混じりの声が上がる。ニグモイは少し驚いて端末の方を向いた。


「ディー、エンと一緒に話を詰めてたんじゃないのか?」


『いま終わったところだ。俺に物理的な距離は関係ないからな』


 ディーはセキナの従兄妹で、遠地にいるハッカーだという。基本はセキナの端末経由で会話するが、様々な機器にアクセスできる神出鬼没な男だ。


「お待たせー。期限は二週間、報酬は三十の後払いで話つけてきたよ」


 ディーの言う通り、話がまとまったらしい。エンがひらひらと手を振りながらやって来た。

 ディーやセキナの疑心がまったく理解できない訳ではない。常に薄く笑みを浮かべるエンは、何を考えているのか分からない。……しかし、何を考えているか分からないという意味では、セキナも同じだ。


「わかった。ディーが尋ね人の当てを付けてるから、このまま別の仕事も並行でやる」


 セキナは常に無表情で淡々としている。信用してないといったエンに対しても、探るような態度や情報を隠す素振りは見せない。もっともニグモイは、素振りを見せていないだけで隠していることを、つい先ほど知ってしまったのだが。


(普通にエンと話してるから、てっきりある程度の信頼があるもんだと思ってたんだが……)


 そうでもないらしい。いつものように会話するセキナとエンが、まるで時限爆弾のように思えてきた。


(フツーに、このメンツでつるんでんの楽しんでたんだけど……。まあ、そんなこと言うから甘ちゃんだのなんだの言われんだよな……)


 ニグモイの立場は、セキナの協力者だ。いざというときは、セキナの味方をするだろう。

 仲間同士の敵対や裏切りも珍しい話ではない。特にニグモイは身に染みてそれを分かっているのだが、感情はそう簡単に割り切れるものでもない。


 大怪我を負ったセキナを見捨てられず、治療したのが最初の出会いだった。ニグモイは自らの選択を見つめなおすように、その時の事を思い返す――。 


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