21:展覧会にて
魔宴祭での魔術絵画の展覧会。
中央大陸で描かれた魔術絵画を発表する場としては最大級の展覧会という風に本には書いてあった。
とはいっても魔術絵画はその独特な手法と特殊な道具が必要になるからあまり数をかかれる事はない。
魔術によって施されたひとつの魔法陣として機能する絵画。それが魔術絵画の定義とされている。
魔力を込めた絵の具によって絵を描き、なおかつそれを魔法陣として機能するように考えなければならない。
そしてその魔法陣のもたらす効果はたとえば絵が動いて見えるとか、絵が立体的に見えるとか、そういった絵をより本物らしく感じさせるものに指定されていると聞いたことがある。
中には結界を生み出す絵画もあったりするらしいけど、それは魔術絵画と言うよりは防護用の呪文書に分類されるらしい。
「流石に、ここに展示されてるものは素晴らしいものばかりだね。絵も当然綺麗だが施されている効果が独特だ。あれなんか水の流れや光の具合をよく再現していると思うよ」
そういって満足気にお父様は首を縦に動かしていた。
魔術絵画は700年前にも存在していたけれど、今ほど綺麗な画材もなかったし、何よりちょうど芸術として確立され始めたころだったから描いている人が少なかった。
絵のセンス、陣を組むセンスの二つが必要になるとされているこの芸術自体才能が絡みすぎると言うのもあると思う。
ちょっと趣味程度に始めて描けるものじゃない。絵の中に陣を組むと言うのは本格的に両方を学んでできる芸当だ。
こんなことを初めた人間は恐らく尋常じゃないほどの試行錯誤を繰り返したのだろう、と私は遠い昔の人物の努力を感じていた。
「うーん、どれか一枚でも売ってもらえないんだろうか……流石にここに飾られるようなものは美術館行きなのか……うーん」
「展示会が終わった後で話を聞いてみたらどう? もしかしたら引き取り先が決まっていないものがあるかもしれないし……」
よっぽどここにある作品が気に入ったのか、お父様はずっと手をあごに当ててそんなことをつぶやいていた。
立ち止まられては他の作品が見れないから私はそんな両親を放っておいてアリアと二人で歩きだした。
まだここは入り口に近いところだからこの先には今までの何倍もの数の作品が展示してるはず。
どこに飾ってあるものもただの絵とは思えない視覚的な効果を併せ持っていて、まるで幻想的な自然風景の中に放り込まれたような感覚が私の好奇心を唆せていた。
星がきらめく夜空、風にたなびく草原、深い霧の立ち込める谷間など、どれも特に風景の美しい瞬間を延々と繰り返すように切り取られたようで芸術に疎いと言える私でも家に飾っておきたい、と思えるようなすばらしい作品が並んでいる。
その作品群の中を歩いていると、不意にひとつの絵画が目に留まった。
「これ……何?」
その絵は周りのものに比べてひときわ大きかった。一般的なスケッチブックの四倍にもなりそうな大きな絵。
そこに描かれていたのは一面を覆いつくす炎。
あくまでも炎が描かれた一枚の絵のはずなのに、こうしてみると額縁の中で炎が燃え盛っているように見える、それほどまでに本物らしい絵と、効果。
炎の持っている危なげのある明るさと、揺らめき、そして舞い上がる火の粉までもが忠実に再現されていて思わず息を呑んでしまった。
「これはすばらしい作品ですね……私でも分かります。周りの作品とは一味も二味も違うというか……」
どうやらアリアも感じたことは同じなようで呆然と絵を見上げながらそんなことをつぶやいていた。
本物らしさを持ち合わせた周りの魔術絵画が本当にただの絵画に見えてしまうほど本物らしく、生々しい絵画だと思う。
「ねぇ、あなた。あなたはこの魔術絵画、どう思う?」
と、二人でぼうっと立ち尽くしていると後ろからそんな声が投げかけられた。
驚き振り返ると、そこに立っていたのは私と同じくらいの年齢に見える少女。
明るい橙色の長い髪を高いところから一房に結び、見るからに活発そうな少女は期待半分、諦め半分と言ったようにその灰色の瞳を輝かせてこちらを見ていた。
「……私に聞いてるの?」
「そう、あなたよ。まさに私の目の前に立ってるあなた」
ぴしっ、と人差し指をこちらに向けて少女は言い切った。
「……なんだか、ちょっと怖い、かな。炎の危ない側面を見てるみたいで」
なんとなく、少女のまじめな表情から適当に答えるわけには行かない気がして短く本当に思ったことを伝えた。
別に私は炎が怖いわけじゃない。戦いを起こせば火が上がることなんてしょっちゅうあったし、燃え盛る建物の中から必死の思いで脱出したこともある。
目の前で命を奪うような炎を見てきているから慣れてしまってるのもあるのだと思う。
でも、この絵はそんな炎の危なさだけを取り扱っているように見える。
燃え方や炎の揺れ方、舞い上がる火の粉の美しさまでこちらの不安をあおるような、そんな絵だと感じた。
少女は私の答えを聞くと、少し満足そうな顔で私を指していた指を下ろした。
「そう。そうよねー。そういう風に思われるように描いたもの。炎の揺らし方も色まで考えて描いたっていうのに、目が肥えてるだけの貴族共は炎の明るさがいいとか、火の粉が美しいとか、挙句魅せ方以上に絵自体が炎に忠実だ、とかそんなことばっかり。私が見てほしいのはそこじゃなくて炎の持つ危うさなんだけどな」
強い口調でしゃべり終えると少女は一息ついた。
「まって、この絵、あなたが描いたものなの?」
「ええ、そうよ。もしかして聞いたことない? ミーティア・オルテリシアって、その縁の下に書いてあるんだけど。最近割と名前売れてきたと思ったんだけどなぁ」
「ごめんなさい。私あんまり芸術の方面に詳しくなくって……」
少し落ち込んでしまったようなミーティアと名乗る少女に対して謝ると同時に驚きを隠せない。
これほどの深い表現をする人間がまさかこんなに若いとなんて思っていなかった。何十年も研究した成果とばかり思っていたから。
「まぁいいわ。ちゃんとこの絵の本質を見抜いてくれた人が見つかったんだし。やっぱり年齢なのかしら? それとも絵画的なところしか見ない人が悪いのかしら? なんにしてもちょっとうれしかったわ! ありがとう」
そういってミーティアは私に深くお辞儀をした。
なんとなく私も軽く返しておく。
「そうそう、そういえばあなたの名前を聞いていなかったわ。なんて名前なの?」
「私はラビーナ・ブリュンヒルデ。こっちは侍女のアリアよ」
「ラビーナか、ちなみに、歳は?」
「この間九歳になったわ」
と、年齢を答えたとたんにミーティアはうれしそうな表情をさらにニヤニヤとした笑みに変えた。
「私よりひとつ年下ねっ! そうだ、ちょうど退屈してたところだし私と一緒に展覧会回ってよ! ね?」
唐突にそんなことを言い出したミーティアへの返答に困っていると、突然私の手を取って小走りで引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと待って! お父様とお母様に話をしないと……!」
「そんなの後でもできるわよ! ほら、行くよ!」
やけに活発な少女に捕まった私は抵抗する暇もなく展覧会の奥のほうへと連れられていった。
お久しぶりです。なんだか芸術鑑賞みたいな話になってしまいました。
これからは週に2~3本あげれればなぁ、と考えていますので、よろしくお願いいたします。




