<二十一>
怪物はまだ大きくなっていった。
瞬きする間に2ミトルを超える大きさにまでなると、雄叫びを上げた。
ヴュゲロスラララ…!
その声に廃教会内の空気が震えた。
次の瞬間。
途轍もない速度でそれは襲ってきた。
鉤爪の生えた右腕を力任せに振るう怪物。それを紙一重で避けるシィン。
一瞬、空気が焦げたような幻臭がするほどの一撃だった。
次の瞬間、シィンの振るった小剣が怪物の左掌で受け止められた。
危険を察知し小剣を捨てて後ろに跳び退るシィン。
怪物は醜い顔をさらに歪めて嗤うと左掌に残った小剣を握り砕いた。
この間の攻防はわずか2、3ビ。
その巨体からは考えられぬほどの強さと疾さだった。
「気を付けろ。予想以上に疾い。」
怪物から目を離さぬまま、フィリア達に声をかける。返事はないが頷く気配はあった。
次に攻撃をしたのはフィリアだった。
-我は願う-空に漂いし風の精霊-敵-切-全て-『烈風斬』
先日も使用した風の精霊術。それが怪物に襲いかかる。
しかし、それは怪物の皮膚を浅く裂く程度の効果しかなかった。
その傷もすぐに消えてしまう。
「魔法に対する抵抗力も肉体の再生力もかなり高いわ。」
その言葉を受けて次にディーが人造生命で攻撃する。蜂型の人造生命が怪物に針を打ち込み、猛毒をその体内に流し込む。
並の魔獣なら一瞬で、大型の魔獣でも数ビで死に至らしめる毒を打ち込まれても怪物は平然としていた。
「…毒もダメ。」
その間、怪物はわざとゆっくりと動いていた。こちらの攻撃が通用しないことを悟らせて絶望感を与えるつもりらしかった。
剣技も魔法も毒も通用しない。そんな相手にどう戦えと言うのか。フィリアとディーの顔にはそんな焦燥感が表れていた。
「二人ともこれを持て。」
シィンがそんな二人に「或る物」を手渡してきた。
「邪神の眷属に効果のある『護符』だそうだ。」
それは異世界では「旧神の印」として知られる物だった。先日シィンがシェルズに渡された物。
そして「其れ」を目にした時、はっきりと怪物が怯えた。
「効果があるのは間違いないようだな。」
それを見てつぶやくシィン。
(助かったぞ、シェルズ。)
胸の内で知り合いの魔導師に感謝する。
グカロアラッララア!!
叫びを上げて襲いかかってくる怪物。
しかし、今度は先刻とは様子が違った。
「相手を拒絶する意志を持って護符を突き付けろっ!」
真っ先にシィンが護符を相手に突き出す。
とたんにガクンと突進の勢いが落ちる怪物。
さらにフィリアとディーが突き付けると、その場に止まり身体を震わせ始めた。
先程までの圧倒的な気配はもはや無い。見れば心なしか体まで縮んだようだ。
シィンが床に落ちていたブロードソードを拾い上げる。先程喰われたの男の持ち物だった。そのまま無造作に怪物に近づくと脳天から一文字に唐竹割りにした。
真っ黒な血を吹き上げて崩れるとそのまま裏返って此処ではない何処かへ飲み込まれていく怪物。
数瞬の内に怪物がいた痕跡は頭部を喰われた男達の遺体のみとなった。
魔闘はこうして、この世ならざる力によって決着を迎えた。




