<二十>
思いがけぬ再会に浸る時間もなく、シィン達はその場にいた者達をあっさり無力化すると、そのリーダー格への尋問を開始した。
その際に活躍したのはチコであった。どうやら互いに面識があったようで、チコが三人を「凄腕の冒険者」と紹介するだけでびびり始め、「破風の窓亭」の女将の「お気に入り」だというと非常に協力的になった。
「…というわけで仕事が終わったら金を受け取る手筈だったんでさぁ」
「なるほどね。それが今晩。」
「で、場所がアザトー通りの近くの空屋なわけね。」
確認をしている側でシィンが考え込む。
(…アザトー通りか。厄介だな。)
どう考えても黒幕である「テゴス」が出てくる可能性が高い。しかも邪神崇拝者の集団のおまけ付きだ。
どうするか思考を巡らせていたシィンの警戒がほんのわずか緩んでいた、としてもそれも責めることはできないだろう。
…ュプッ
最初に聞こえたのは音。
次は鉄錆のような匂い。
その光景にその場にいた誰もが凍り付いていた。
今の今まで話をしていたリーダー格の男が。
喰われていたのだ。それも頭の内側から。
男の顔を半分喰い尽くしているのは沼などによくいるトルドに角を付けて凶悪にした後、潰して伸ばしたような、どこか造形の崩れた怪物だった。
ボリッ。
ボリッ…。
一口ごとに無くなっていく男の顔。
その状態でも男の口は動いていた。
男はこの世ならざる力によって、生きながら喰らわれていたのだった。
「退がれっ!」
シィンがディーとフィリアに声をかける。
その声に弾かれたように二人が跳び退った。
周囲を取り囲んでいた男達やチコも慌てて逃げ散った。
逃げ遅れたのは、喰われた男の隣に座り込んでいた髭面の男だった。
ヒュンッ
風が鳴った。
いつの間にか怪物の口から何か管のようなものが飛び出していた。
その先は、髭面の真ん中にめり込んでいた。
ブギュェルル…。
濡れ雑巾でも絞るような音を立てながら髭面が吸い込まれていく。
吸い取られながら全身を痙攣させる男。
ポンッ。
どこかコミカルな音を立てて髭面の頭部はすっかり吸い取られていた。
そのままドウッと倒れる身体。
その身体から器用にピョンと飛び降りる怪物。
いつの間にかその大きさは1ミトル以上に大きくなっていた。
そいつは両足で立ち上がるとニタァッと確かに嗤った。
獲物が近くにいるから嬉しかったのか、これからの戦闘を思って喜んだのか。
とにかく、それに知性があるのは間違いなかった。
怪物と相対するシィンとフィリア達。
新たな魔闘が始まろうとしていた。
※トルドは沼地などに生活している両生類。地球のヒキガエルに似ている。ただし大きさは50cm程と大型で、昆虫から小型の生き物までを補食する。人間にとっては怖い生き物ではない。逆に捕らえて食用にすることが多い。肉は淡泊で歯ごたえがあり美味しい。




