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Watch ~監視者~  作者:
「風鳴りの魔都」
89/98

<十四>

短めです。

 アルガの十八日。

 この日、ディーとフィリアはニュールカイム王立魔法学院付属の図書館にやってきていた。先日弟子の部屋で見つけた、奇妙な本に書かれている文字について調べるためである。

 通常は一般に公開されていない場所であるが、学院講師であるヒュームの伝手で閲覧許可が出ていた。(ヒュームとの繋がりを知られると不味いかも知れない、ということでヒュームから別の講師を紹介してもらい、その講師からの紹介という方法を採っている。)

 今日で調査は2日目。昨日は1日調査して空振りだった。

 「もう、これも駄目。」

 小声で本を横にどけるフィリア。そこにはすでに10冊程が積み上げられている。

 「…こちらも駄目。」

 そう答えるディーの横には、フィリアの2倍ほどの本がすでに積まれていた。

 あの本に使われていた文字の手掛かりすら掴めないのだ。

 「本当にそういう文字だったの?」

 「…間違いない。」

 「何処の文字なのかしらね。」

  

 Pnakotic Manuscript


 フィリアの手元にはその文字を書き付けた物がある。

 とにかく、もう少し探してみることにした2人は手元にある本を返却すると、改めて資料を探し始めた。

 ディーとフィリアはそれぞれ違う書架を探し始める。

 …「魔術言語」…「異民族の歴史」…「過去の王国」…

 書き付けを見ながら書架を探していたディーがもう一度机まで戻ってくると、すでにフィリアも戻っていた。

 「めぼしいのはこれだけ。」

 「…私も。」

 これで見つからなければ、別の手掛かりを探す必要がある。半ば諦めの境地になりながら手掛かり探しに取り組む2人だった。


 どれほど時間が経っただろうか。

 ふと気がつくと2人の側に老人が佇んでいた。

 身長はそれほど高くない。真っ黒なローブを着ているところを見るとおそらくは魔導師なのであろう。

 「…何か?」

 ディーが訊ねると老人は横に置かれた書き付けを指さしながら、

 「面白い物を探しておるようじゃ。」

 と声を掛けた。

 「貴方は何かご存じなんですか?」

 思わず声を掛けるフィリアを、面白いものでも見たかのような表情をしながら老人は応えた。

 「ふむ、『ナコト写本』じゃの。」

 「…読めるの!」

 今度はディーも驚いて声を上げる。

 今の今まで手掛かり一つ無かったのに、急にその手掛かりが現れたのだから無理もない。

 「これは『異界』の文字でな。たしかエイゴ、じゃったかの?」

 「…エイゴ…。」

 「この図書館にも資料はほとんど無いはずじゃ。」

 「それで。これはどんな本なんです?」

 「なんじゃ、知っておって調べておったのじゃないのか?」

 「…どんな本か分からないから…調べてた。」

 「分からんのなら知らぬ方が良いと思うがの。」

 「え?」

 「異世界の邪神の知識など要らんじゃろ?」

 そう言うとその場を老人は立ち去ってしまう。

 「ま、待って!」

 慌ててフィリアが追いかけたが、まるで空気に溶けたかのように老人の姿は何処にも居なかった。

 「…邪神の知識。」

 この後、2人は老人の言葉を手掛かりに、書き付けに書かれた文字が本当に「エイゴ」だったと確かめた。しかし「ナコト写本」と呼ばれた本がどのような本であるかまでは分からなかった。


※エル・クラウドには時折異界から現れた物が存在する。大抵はどんな使い道か分からないものであったり、ガラクタであったりする物だが稀に「人間」がやってくることもある。自力でやってくる者、何かの事故に巻き込まれた者、様々だが、それらが持ち込んできた文字や文化も場合によってはエル・クラウドに影響を与えている。今では一般に飲まれているカヒ(カヒ豆を煎った物を挽いて湯出ししたもの。香りと苦みを楽しむ。)は異界人が持ち込んだ知識から生まれたとされている。


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