<十四>
短めです。
アルガの十八日。
この日、ディーとフィリアはニュールカイム王立魔法学院付属の図書館にやってきていた。先日弟子の部屋で見つけた、奇妙な本に書かれている文字について調べるためである。
通常は一般に公開されていない場所であるが、学院講師であるヒュームの伝手で閲覧許可が出ていた。(ヒュームとの繋がりを知られると不味いかも知れない、ということでヒュームから別の講師を紹介してもらい、その講師からの紹介という方法を採っている。)
今日で調査は2日目。昨日は1日調査して空振りだった。
「もう、これも駄目。」
小声で本を横にどけるフィリア。そこにはすでに10冊程が積み上げられている。
「…こちらも駄目。」
そう答えるディーの横には、フィリアの2倍ほどの本がすでに積まれていた。
あの本に使われていた文字の手掛かりすら掴めないのだ。
「本当にそういう文字だったの?」
「…間違いない。」
「何処の文字なのかしらね。」
Pnakotic Manuscript
フィリアの手元にはその文字を書き付けた物がある。
とにかく、もう少し探してみることにした2人は手元にある本を返却すると、改めて資料を探し始めた。
ディーとフィリアはそれぞれ違う書架を探し始める。
…「魔術言語」…「異民族の歴史」…「過去の王国」…
書き付けを見ながら書架を探していたディーがもう一度机まで戻ってくると、すでにフィリアも戻っていた。
「めぼしいのはこれだけ。」
「…私も。」
これで見つからなければ、別の手掛かりを探す必要がある。半ば諦めの境地になりながら手掛かり探しに取り組む2人だった。
どれほど時間が経っただろうか。
ふと気がつくと2人の側に老人が佇んでいた。
身長はそれほど高くない。真っ黒なローブを着ているところを見るとおそらくは魔導師なのであろう。
「…何か?」
ディーが訊ねると老人は横に置かれた書き付けを指さしながら、
「面白い物を探しておるようじゃ。」
と声を掛けた。
「貴方は何かご存じなんですか?」
思わず声を掛けるフィリアを、面白いものでも見たかのような表情をしながら老人は応えた。
「ふむ、『ナコト写本』じゃの。」
「…読めるの!」
今度はディーも驚いて声を上げる。
今の今まで手掛かり一つ無かったのに、急にその手掛かりが現れたのだから無理もない。
「これは『異界』の文字でな。たしかエイゴ、じゃったかの?」
「…エイゴ…。」
「この図書館にも資料はほとんど無いはずじゃ。」
「それで。これはどんな本なんです?」
「なんじゃ、知っておって調べておったのじゃないのか?」
「…どんな本か分からないから…調べてた。」
「分からんのなら知らぬ方が良いと思うがの。」
「え?」
「異世界の邪神の知識など要らんじゃろ?」
そう言うとその場を老人は立ち去ってしまう。
「ま、待って!」
慌ててフィリアが追いかけたが、まるで空気に溶けたかのように老人の姿は何処にも居なかった。
「…邪神の知識。」
この後、2人は老人の言葉を手掛かりに、書き付けに書かれた文字が本当に「エイゴ」だったと確かめた。しかし「ナコト写本」と呼ばれた本がどのような本であるかまでは分からなかった。
※エル・クラウドには時折異界から現れた物が存在する。大抵はどんな使い道か分からないものであったり、ガラクタであったりする物だが稀に「人間」がやってくることもある。自力でやってくる者、何かの事故に巻き込まれた者、様々だが、それらが持ち込んできた文字や文化も場合によってはエル・クラウドに影響を与えている。今では一般に飲まれているカヒ(カヒ豆を煎った物を挽いて湯出ししたもの。香りと苦みを楽しむ。)は異界人が持ち込んだ知識から生まれたとされている。




