<十三>
間が空きましたが、話が進みません。
テンポ良く書ける方がうらやましい。
アルガの18日。
今朝、また犠牲者が見つかった。
ひどい有様だった。
バラバラにした死体の手足を石墨代わりに魔法陣を描いて儀式を行っていたのだ。
ちぎり取られ、中央に置かれた女の顔は、絶望と恐怖、苦痛に歪みきっていた。
ただ、その現場に無くてはならない在るものが存在しなかった。血が一滴も落ちていないのである。
そこには悲惨な情景が広がっているにも関わらず、奇妙に現実感が存在しなかった。
現場を見た衛視達は皆、その現実と非現実が入り交じった空間に精神が失調するのを感じた。
今夜は強い酒を飲んで寝ることを決意した衛視達だったが、それでもうなされることを確信していた。
この日、シィンはアザトー通りに向かっていた。
昨夜の内に「破風の窓亭」で手に入る限りの情報を集めておいた。
今、彼が向かっているのはアザトー通りの「知り合い」の魔導師の住処である。そこで足りない分の情報を手に入れるつもりだった。
(シェルズの処までもう少し、だが…)
アザトー通りに足を一歩踏み入れたとたん、シィンは視線を感じた。
一つや二つではない。十や二十にに及ぶ視線が、そこかしこの物陰や暗闇からシィンに注がれていた。
敵意の視線。
殺意の視線。
興味本位の視線。
探りの視線。
種々雑多な視線が、此処でのシィンは余所者だということを知らせてくる。
此処はアザトー通り。様々な魔導師が居を構える場所である。
住んでいる魔導師の数だけ通りが存在すると言われるくらい、来る度に「違う」場所だ。
実際の所、各々の魔導師が自分用の結界を張るために、妙な具合に空間が捻れて繋がっているところもあるらしい。
と、突然目の前の家の扉が開いたかと思うと、中から巨大なサソリ?が飛び出してきた。
鋏の代わりに蟷螂のような前腕を持ち、尾が3つあるものをサソリと呼ぶのなら、だが。
「其れ」はシィンを見ると真っ直ぐ向かってきた。どうやら自分を餌として認識したようだ。
-我は願う-空に漂いし風の精霊-敵-防ぐ-『風防壁』
唱えた精霊魔法が「其れ」をその場に押し留める。
「ペットの躾はきちんとしてもらいたいものだが。」
そうシィンが声を掛けると家の戸の影から小さな人影が現れた。
「キシシシ。悪いな、ちょうど餌の時間にお前さんが通りかかったものでな。」
それは小さな老婆の魔導師だった。手に持った杖を振ると彼女のペット?は家の中に戻っていった。
「で、本当は?」
「何がじゃ?」
「とぼけなくても良い。あんたならあのペットぐらい簡単に制御できたはずだが?」
「ふむ。」
魔導師の皺に埋もれた眼が鋭い光を放つ。
「妙な客人が前を通りかかったので試しただけじゃよ。」
「で、結果は?」
「まあ良かろう。で、此処でのルールじゃが…。」
「魔導師の家で見たこと、聞いたことは喋らない。殺しは御法度、だったか?」
「知っておったかよ。」
「此処の魔導師に知り合いがいるからな。」
「…ほう、魔導師の名を聞いても良いか?」
「『シェルズ』だ。」
「…『神からの逃亡者』か。これはまた珍しい名を聞く。」
「珍しい?」
「あ奴に客など、この50年程おらなんだからの。」
「で、俺は行ってもいいのか?」
「ああ、かまわんよ。」
その言葉と共に歩き出すシィン。
その背中に老婆が声を掛ける。
「そういえば、お主の名を聞いておらなんだ。名は?」
「シィン。」
「そうか、儂の名は『エイブ』じゃ。覚えておくと良い。」
そう言うと老婆は家に戻ってしまう。
いつの間にかシィンに注がれていた視線は消え去っていた。
何事もなかったかのように歩み去るシィン。
アザトー通りでは確かに珍しくもないことだった。
※ニュールカイムのアザトー通りは様々な魔導師が住んでいることで知られている。魔導師が結界を多数重ね掛けしている所為で、訪れる時間によっては異界に繋がっているとも言われている。ここでは魔導師同士が協定を結び、一種の自治領のような状態になっている。
・どの魔導師も理由無く他の魔導師に干渉しない。
・殺し合いはしない。
・他からの圧力、妨害その他「アザトー通り」に対しての不利益には協力する。
この3箇条を守る限り、どのような素性の魔導師でもアザトー通りに居を構えることができる。とは言っても、ある程度以上の実力がないと住むことが不可能である。後、不思議に思われるが一般人がこの通りを訪れることはかなり多い。此処でないと得られない助力も多々あるからであり、またアザトー通りの住人も自分が必要とする物の調達(食料品や素材など)に都合がよいからである。ルールではないが一般人に手を出すことは結果的に自分たちの不利益になる事を自覚しているため(必需品の調達、国を敵に回す等)安全が保たれているのが実情。シィンが絡まれたのは一般人とは思えない実力を有していたから。
ちなみに、この「試し」は月当番になっている。




