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Watch ~監視者~  作者:
「精霊の迷宮」
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<三十六>

 1人増えた一行は、無事アズルの「風の止まり木亭」へと到着する。

 ギドに依頼の無事終了を告げ、シィンからの報酬を受け取る。

 更に宿の新しい仲間として、ディーの紹介をするカイト。

 「よろしくな、嬢ちゃん。」

 「…よ、よろしく、お願いします。ディー…です。」

 「そんなにあらたまる必要はないぜ?」

 「はい…。」

 竜人であるギドの表情は、他種族には分かり難い。

 以前、この宿に来た冒険者がギドの「笑顔」を見て「激怒している」と勘違いをしたくらいだ。

 ギドの精一杯の愛想笑いのあまりの怖さに、少し腰が引けながらもディーも挨拶をすませる。(カイト達は新人のいつもの反応なのでにやにやと笑いながら見ていたが。)

一頻りディーの反応を楽しんだ後、カイトはシィンの方を見る。

 「で、これからどうするんだ?」

 「もちろん『奴等』を探す。」

 「…だろうな。」

 あの不死者ノスフェラトウを斃すための武器を手に入れに行ったのだ。

 次は振るう相手を見つけに行くのは当然であった。

 「当てはあるのか?」

 「ある、といえばある。」

 「そうか。」

 それだけの会話をした後、シィンが自分の持ち物の中から一張りの弓を取り出す。

 「追加の報酬だ。」

 カイトが受け取ると、横で見ていたシャリーが、

 「魔法が込められているようですね。」

 と呟く。

 「ああ、一応魔法の武器だ。」

 「一応どころか、かなりの業物でしょう。」

 シャリーの見立てでは安く見積もっても3万リン、王都のオークションにでも掛ければその倍でも不思議はない、といっても良いほどの物だった。

 高すぎる、と返そうとするカイトに、

 ディー達を助けるために強行軍をさせた分だ、と言うシィン。

 さらに、

 「これでは『奴等』に傷一つつけられん。宝の持ち腐れだ。」

と告げ、強引にカイトに押しつけると、そのまま「風の宿り木亭」を立ち去ってしまった。

 その背中を少し寂しそうにディーが見送っていた。

 「全く、あいつは…。」

 軽く首を振るとあきれた風にテーブルの席に着くカイト。

 他の面々も思い思いの席に着く。(シャリーはもちろんカイトの横)

 「親父、何か軽いつまみと酒をくれよ。」

 「昼間っから飲んだくれるつもりか?」

 「やっと冒険から帰ってきたんだ、それくらい良いだろ?」

 「全くしょうがない奴等だ。ちょっと待ってろ。」

 ギドが酒とつまみの準備をしに厨房へと入っていく。

 昼を少し過ぎた頃だったので、客も居ないし、他の冒険者も依頼のために出払っている。

 宿の中にはカイト達以外には誰もいない。

 「…シィンとまた…会えるかな…。」

 そんなディーの呟きが、思ったより大きく響いたのはその所為だっただろう。

 「何々、ディーはシィンが気になるのかなぁ?」

 すっかり獲物を見つけた眼になってケイトがディーに声を掛ける。 

 「…え、えっ…」

 「ほらほら、素直になりなさい。で、…好きなの?」

 「……。」

 すっかり無言になって俯いてしまうディー。

 耳まで真っ赤になって小さくなっているディーを見て、酒を持ってきたギドが軽くケイトの頭をはたく。

 「いい加減にしろ、この馬鹿もんが。」

 「いったーい、あたまがわれるー。」

 「棒読みじゃ全然痛そうじゃないぞ。」

 「全く、頭が悪くなったらどうするのよ。」

 「大丈夫だ、それ以上悪くはならん。」

 「どういう意味よ!」

 「言ったまんまだ。」

 「何ですってー!」

 と笑劇を始めた2人を放っておいて、シャリーが改めてディーに訊ねる。

 「で、本当のところはどうなんですか?」

 (ちなみに男性陣は我関せずで酒を飲んでいる。この手の話に首を突っ込むとろくな事にならないことは、これまでの経験から充分学習していた。)

 シャリーの問いにまだ真っ赤な顔をしたままながらディーが小さな声で答える。

 「…分からない、けど…気になる。」

 「そうですか。」

 そう言って、シャリーは微笑ましいものを見たかのような表情をする。

 「…何?」

 「何でもないですよ。」

 それに対し、ディーが何か言おうとした時、宿の扉が開いた。

 その場にいた一同の目が入り口に集まる。

 其処にいたのは、ディーを除いて全員が知っている人物だった。

 「お久しぶりです。」

 其処にいたのは数ヶ月前にエルフの里で別れたフィリアだった。

 「フィリアじゃない、どうしたの?」

 笑劇を一時中断し、ケイトが声を掛ける。

 「何か依頼でもあるのかの?」

 グレンも続けて問いかけた。

 それに対してフィリアは、何か答えかけたが、そこでカイトの側にある物を見つけた。

 「実は…っ!、それ、シィンのですよね!?」

 フィリアが見つけたのは、先刻シィンが置いていった魔法弓だった。

 「ん?ああ、さっきシィンが報酬だって置いてったんだが…。」

 「何処?シィンは何処に居るんですか!?」

 「もう出てったぞ。」

 「何処に!」

 「分からんよ、言わなかったからな。」

 其処まで聞いて、がっくりと肩を落とすフィリア。

 「…もっと早く着いていれば…。」

 その様子を見て、ディー以外の面々はフィリアが此処にいる理由を覚った。

 (シィンを追いかけて里を出てきたんだ…。)

 思わず同情の視線を向ける風追い人+ギド。

 一人事情の分からないディーは、しかし目の前の様子から、何やらシィンに関係のある人物だと推測する。

 「…誰?」

 思わず呟くと、それにケイトが反応する。

 「彼女はね、シィンの幼なじみで、シィンが大好きなフィリア。」

 その言葉に思わずフィリアの方を見る。

 見れば、落ち込んでいるフィリアを一生懸命シャリーが慰めている。

 (…エルフなんだ。綺麗な人…。)

 「貴方の恋敵ライバルかな?」

 その言葉に反射的にケイトを振り返る。

 「…そんな。」

 何を否定したいのか自分でも分からないまま、首を横に振るディー。

 その様子を見ながらケイトは胸の中で此処には居ない人物に文句を言うのだった。

 (全く、こんな良い子達を2人も困らせるなんて困った奴ね、あんたは!)


 この日から「風の宿り木亭」に錬金術師とエルフの少女という、いささか毛色の変わった冒険者が2人増えたのだった。

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