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Watch ~監視者~  作者:
「精霊の迷宮」
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<三十五>

 無事戻ってきたシィン達2人を加えて、風追い人一行は地上へと帰還した。

 事前の情報通り、宝物庫には地上への転送魔法陣が用意されていたから、帰還は容易であった。

 そこからレンナルトまでの道には特に障害はなかった。

 一行が「鋼鉄のあぎと」に辿り着いた時、宿の女将ライラはディーの顔を見てクシャッと顔を歪めると、ディーを抱きしめ、無言のまま涙を流した。

 抱きしめられたディーも、ライラにしがみつき、そのまま涙を流していた。

 その晩は2人で遅くまで話していたようだったが、カイト達はあえて話には加わらず部屋で休むことにした。

 積もる話もあるだろうし、宿としても稼ぎ頭の冒険者を失ったことの痛手を何とかしなければならない、ということも理解していた。

 本音を言えばケイトあたりは、このままディーにパーティに加わって欲しがっていた。 短い間だったが、共に「還らずの迷宮」を制覇した仲間である。ディーの錬金術と自分達のパーティの相性も悪くなかった。

 それに心情的にも一人きりになってしまったディーを、そのままにしておきたくはなかった。

 しかし、それはライラにとっても同じことである。

 何より「還らずの迷宮」から帰還した冒険者、というだけで優秀なメンバーを新たに募ることも容易いはずである。おそらくはディーをリーダーとして新しいパーティが結成されることになるだろう、そうカイト達は予測していた。

 最もシィンは例の調子で「ディーが決めることだ」と関心を示さず、ケイトに「この薄情者!」と噛みつかれていたが。

 翌朝、カイト達は宿の1階で朝食を取っていた。

 そこにライラとディーがやってきた。

 最初に口を開いたのはライラ。

 「改めて礼を言わせてもらうよ。ディーを連れ帰ってくれて本当にありがとう。」

 そう言うと一行に頭を下げる。

 それから、依頼を果たしてくれた報酬、ということで6000リンと迷宮で消耗したポーション類の一部補填を申し出た。

 「本当なら、もっと出さなきゃいけないんだけど、ね。」

 申し訳なさそうに謝るライラに、

 「全員を助けられなかったのだ。それでも充分すぎる。」

と答えるシィン。カイト達もそれに頷いている。

 報酬の話はそこでお終いになった。

 次はディーのこれからについて。

 そこでの相談はカイト達には意外でもあり、嬉しくもあった。

 「…みんなと一緒に行く。」

 そう、ディーが告げたのだ。

 昨夜ディーとライラが話し合って決めたらしい。

 「私としては残って欲しい気持ちも強いんだけどね。」

 そう言いながらライラは理由を告げる。

 まず、ディー自身が強く希望していること。

 次にこの土地を離れた方がディーの心の傷も速く癒えるだろうこと。

 さらに…。

 「なまじ1人だけ生き残っちまうとね、いろいろ噂する奴も要るんだよ。」

 仲間を見捨てたんじゃないか、とか在らぬ風評を立てられると、ディーにも宿にも良い影響はない、そう言うライラにシャリーが、

 「『還らずの迷宮』からの帰還という評判ではだめなのですか?」

と不審気に尋ねた。

 「帰ってきたのが複数だったり、戦士だったりなら良かったんだけどね。」

 ザナス王国は武を重んじる国柄もあり、魔法職の扱いが比較的軽い。

 さらに「新しき星」は新進気鋭のパーティだったこともあり、妬まれやすい立場にいた。

 それらのことを重ね合わせると、このままザナスに留まることがディーにとっては余り良くないかも知れない、というのだ。

 「だから、あんた達のパーティに入れてくれ、とは言わないから一緒にシュメルに連れてってやっとくれよ。」

 もちろん一行に否やはなかった。

その日の午後、ディーを含めた一行はレンナルトを旅立ち、アズルへと向かった。

 その一行を宿の前に立ち、ライラは見送っていた。

 人混みに紛れ、見えなくなってしまっても、ライラはディー達が去っていった方向を見つめ続けていた。

 しばらくしてから、

 「がんばりなよ、ディー。」

 そう言うとライラは宿の中に戻った。

 やらなければならないことは沢山ある。

 「新しき星」が抜けた穴も埋めなければいけないし、今居る冒険者達の面倒も見なければいけない。

 生きている者は生きていくためにやらなければいけないことが沢山ある。

 死者を悼むことばかりに時を使っているわけにはいかないのだ。ディーも自分も。

 (次にディーが来る時までに、今よりもっと繁盛させておかないとね。)

 そう思いながら、ライラは宿の仕事に取りかかるのだった。


次回でとりあえず2話終了、かな?

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