<三十一>
2話になるかと思ったのに…。
シィンが気がついた時、最初に周囲の暗さに戸惑った。
自分が何処にいるのか確かめようと思っても、何も見えないのだ。
「ここは…?」
呟きが思わず漏れる。
と、そこに「声」が響いた。
-目覚めたか。-
その「声」と同時に出現した気配に、シィンは全身を絡めとられた。
=では始めるとしよう。=
また別の気配が生まれた。
もはや身動き一つすることができないシィン。
意識は明瞭にありながら、身体は自分のものでないようにピクリとも動かない。
次の瞬間、シィンの身体の下に、上に、周囲に無数の魔法陣が浮かび上がった。
それからの時間が長かったのか、短かったのか。
シィンには分からなかった。
それはシィンを創り換える魔法的な手術であった。
肉体を創り換えるのではない。
魂を創り換えるものだった。
シィンの魂は比喩でなく、切り刻まれ、磨り潰され、混ぜ合わされ、組み直された。
この手術に麻酔は存在しない。
魂に麻酔を掛ける術はないのだから。
その苦痛は想像を絶するものであった。
シィンは苦痛のため何度も発狂し、そして正常に戻された。
永劫とも思える時間がようやく終わった。
-予測通り、施術に耐えた、な。-
=予測値以上の部分もある。=
「声」にはどこか満足したような響きがあった。
「な、…な…にを…し……た?」
-もう、口がきけるか。-
=楽しみな素材だ。=
「…答…えろっ!」
-お前の魂に「呪い」を刻み込んだ。-
「呪…いだ…と?」
=そうだ、詳細は「知識」として刻み込んでおいたから分かるはずだ。=
二つの「声」が告げる内容に混乱するシィン。
そこで唐突に重大なことを思い出す。
「ア…イシャは?アイ…シャは何…処だ?」
-あの娘はこの奥に居る。-
=大切な「実験」の「触媒」だからな。=
「アイシャに何をする気だ?」
-すでに言ったぞ。「実験」に使わせてもらう。-
「やめろーっ!!」
そう、叫ぶとまだ感覚が戻らない身体を無理矢理動かす。
がくがくと身体を震わせながらも、シィンはその場に立ち上がった。
-すでに「効果」が現れているようだな。-
=なかなか優秀な「触媒」だ。=
「貴…様等、アイシャを…返せ!」
-我に勝てたら、連れ帰るが良い。-
その言葉に、シィンは迷わず魔法を唱えようとする。
=慌てるでない。=
その声に再び身体が動かなくなるシィン。
-今の状態では闘う意味がない。体調を戻してからだ。-
その「声」と共に何処か別の場所に転移させられるシィン。
その場に、別の訪問者があったのはそれから2、3ピン後だった。
「此処かっ!」
「確かに此処に1級魔導士の反応がありました!」
その場に現れたのはグランディア王国の騎士団の1隊だった。
「貴様等がシィン殿を攫ったのか!」
そう言って、隊長が2つの影に詰問する。
-それがどうした?-
「シィン殿は王国のために貴重な人材だ、返してもらうぞ!」
=ふむ、面倒だから消さずにいた魔力追跡紋を辿ってきたか。=
「その通りだ!貴様等に逃げ場はない。」
-違うだろう。逃げ場がないのはお前達だ。-
その「声」の主が彼らを赫い瞳で見つめたとたん、全員がその場に凍り付いた様に動きが止まった。
そのうちの一人にゆっくりと近づいていく影。
-邪魔をされても困る。-
そうして隊長の首筋に影は牙を突き立てた。
僅か3ビ。
その間に隊長の顔は3種類の表情を見せた。
苦悶。喪失。そして快楽。
たった3ビの間に騎士団隊長だったものは「別の物」へと変貌を遂げた。
「不、不死者!?」
金縛りにあったまま、誰かが声を上げる。
元隊長が元仲間に近づく。
1ピン後には、その場に生者は居なくなっていた。
-王都で仲間を増やせ。-
そう命ぜられ、その場を立ち去る元騎士団一行。
その背中に影から次の声がかかる。
-明日の朝、朝日を浴びるがよい。-
グランディア王国王都エル=グランディア。
この日、王都にいたのは王、王妃から平民の赤子までを合わせて29万4894人。
その内で次の日の夜を迎えた者、0人。
歴史書には「一夜にして滅びた」と記されることになる。
その街には生者は存在せず、ただ灰が舞い散るのみだったと。
※ビは時間の単位。1日は20ジアン6ピン。(1ジアンが約1.5時間)
1ジアンが100ピン(1ピンが約50秒弱)
1ピンは50ビ。(1ビが約1秒)
はしたの6ピンは、昼と夜が役割を交代するために必要とされる時間といわれている。
といわけで、まだ続く…。




