<三十一>
闘い終わって…。
「ところで…」
ケイトが若干、険のある目で(フィリアを刺したことについてまだ腹を立てていた)シィンを見ながら言い出した。
「フィリアのことはどうするの?」
返答次第では許さない、という雰囲気がありありだった。
「どうするとは?」
「だから、フィリアは貴方のことがっ…」
その言葉をシィンは右手を挙げて遮った。
「お前達に話していないことがある。」
「…何よ?」
「俺にはもう一つ、呪いがかかっている。」
暗い目をしたまま、言葉を続けるシィン。思わず無言になり、話を聞くカイト達。
そして、今日最大の驚きを味わう。
シィンは今までに不死者達と300年以上闘っているのだという。といっても「現在」のシィンは18才。不老不死というわけでもない。
シィンは「転生」を続けている、というのだ。死ぬと次の生が始まる。
「まあ、不死者に殺されて、また闘って、の繰り返しだったよ。」
淡々と告げるシィンの今までの歩みを想い、カイト達は言葉を無くした。
今回と同じようなことを幾たびと無く繰り返してきた、そう告げているのだ。
今まで、どれほどの親しい人の血でその手を染めてきたのか。
「俺が…一番最初に殺したのは…恋人だったよ。」
そういってシィンは語るのを止めた。
ケイトはその言葉に込められている意味を覚った。自分の問いに対する答えなのだと。
フィリアとは共にいられない。いれば、殺すことになるから。
嫌いなわけじゃない、好きだから、離れるのだと。
「その呪いは…解けるのですか?」
シャリーが擦れ声で訊ねる。
「方法は二つ。」
あっさりシィンが答える。
「一つ目は復讐を諦めること。そうすれば死ねる。」
シィン以外にも何人か実験材料にされた者達はいるらしい。
シィン自身、一、二度同じ境遇の者に出会っている。
しかし、前回の生の時には不死者達が、シィンを含めて後2人だと告げたという。
「残りは全て復讐を諦めた」と。
「そしておそらく、今は俺一人だ。」
なぜなら、今までとは違い、今回は闘いの場で人質をとるような真似をしたこと、そしてシィンを殺さずに去ったこと。それはシィン唯一人が残ったからだろうと。
「もう一つは?」
「二つめは奴らを滅ぼすこと。単純だろう?」
確かに単純だった。復讐を諦めるか、復讐を成し遂げるか。二つに一つ。
(…残酷な呪いです。)
シャリーはそう考え、身震いした。
自分の愛しい人間、家族、親しい仲間を殺された復讐を諦めるか。
とてつもなく強大な相手を滅ぼすか。
前者なら、諦めてしまう自分自身を呪いながら死ぬことになるだろう。
後者なら、自分の手を愛しい者の血で濡らし続けることになるだろう。
それでもシィンはここにいる。
その精神の強靱さは瞠目に値した。
シィンが立ち上がった。
「もう、行くよ。」
そう言うとカイト達に背を向け、出口に向かう。
「アズルの『風の止まり木亭』だ。其処に連絡をくれ。」
その背中にカイトが声をかける。
シィンは、振り返らず片手をあげて答えると、そのまま去っていった。
「フィリアが目を覚ましたら、俺たちも行くぞ。」
カイトが仲間達に声をかける。
(フィリアに何て言おうかしら…。)
ケイトはそれを悩みながらも、うなずいた。
とにかく、生き延びたのだ。ならば、前に進むための一歩を踏み出さねばならない。
たとえ、それがどんなに辛い道だとしても。
ケイトには、シィンの背中がそう言っていたように思えた。
戦闘も、戦闘の後も難しい…。




