<三十>
間もなく1話がエンディングになりそうです。
シィンはフィリアを抱きあげると、カイト達の方に近寄ってきた。
「…何故、フィリアを殺したの!」
ケイトが震える声で怒りを叩きつけた。
「未だ、死んでないし、手当をすれば十分助かる。」
と、シィンは小刀を慎重に抜きながら、素っ気ない声で答える。
「急所は外したし、内蔵も傷ついていないはずだ。」
その答えにカイトは、
「つまり、内蔵の隙間を狙って刺した、ということか?」
と、半ばあきれながら確認した。
「それより、とりあえず手当てしましょう。グレン、頼みます。」
シャリーの声に、グレンが神聖魔法で治療を始める。それを見てケイトも慌てて手伝い始めた。
あの激しい戦闘の中で、盾にされ振り回されていたフィリアの急所を外して刺す、それを狙ってやった、というシィンの技量に、カイトは内心舌を巻いていた。
ファーサイトに眼で問いかける。
(お前ならできるか?)
無言で首を横に振るファーサイト。
おそらく「風追い人」の誰にもシィンの真似はできないだろう。
そして、あの方法しかフィリアを助けることができなかった。そのことも、2人は理解していた。
あの不死者達を相手に無傷でフィリアを助ける、そんなことはドラゴンに素手で挑んで勝利するよりも無謀なことだ。
実際にその場で不死者を見た2人の正確な状況分析だった。
「何にせよ、とりあえずは生き延びたな。」
そう言うとカイトはその場に座り込んだ。
グレンとケイトは神聖魔法と魔法薬を併用して治療に当たっていた。
シャリーはフィリアの手当をグレンとケイトに任せ、シィンの所に歩み寄った。
「いくつかお訊きしたいのですが、いいですか?」
「…かまわない。」
シィンはカイト、ファーサイドとともに床に座り込んでいた。
さすがに疲れた様子だったが、それでも会話する程度の気力はあるらしい。
シャリーも座り込んで(もちろんカイトの横に)シィンに先程の推測の確認を始めた。
「シィンさんは呪いをかけられてますよね…。」
「ああ。」
シィンと会話する中で確かめられたのは、シャリーの推測が一部に間違いがあるものの、おおむね合っていたことだった。
間違いはただ一点。シャリーは、シィンの親しい人物が目の前で死んだとき、身体能力が「上昇する」と考えていたのだが、実際は「親しい人物が目の前で死ぬまで、能力を制限される」というものだった。
この2つは似ているようで大きく違う点がある。「能力の上昇」の場合は、自分の限界を超えた力を振るうことになる。当然、制限時間が過ぎれば身体は酷使され、使い物にならなくなる。
しかし、「能力の制限」の場合は元々自分が扱える力になるだけ。制限時間が終わっても身体には影響はない。
(そのあたりに、彼らの実験の狙いがありそうですね。)
シャリーはそのような思いを抱いた。しかし、あまりにも不確かなので、とりあえず、その思いを口にすることはなかった。
フィリアは、治療が終わっても気を失ったままだった。
薬と魔法の効果で傷は跡一つ残らず治っている。主に精神的な消耗から来るものだ、というのがグレンの診断だった。
とりあえず、治療の終わったグレンとケイトも交え、改めて今後のことを話し合うこととなった。
その際にシィンからは、カイト達にエルフの里までのフィリアの護衛と、アルフォード達の遺髪、さらにアルフォードに託された水晶を里の長に届けることが依頼された。
「アル達も里に帰りたいだろう。」
そうシィンは言ってカイト達に託した。水晶にはアルフォードからのメッセージが記録されているらしい。エルフの里に伝わる魔道具だということだった。
報酬としてシィンが使っていた魔剣が渡された。かなりの威力の業物だったが、
「これでは届かなかったからな。」
の一言と一緒に渡された。
シィン自身は里には戻らない。
仕方がなかったとはいえ、両親、そしてアルフォード達をその手で殺めたのだ。戻れるはずもなかったし、戻るつもりもなかった。
「俺は奴らを追う。」
それがシィンの今後の目的だった。
「俺たちも情報を集めよう。」
カイト達もシィンに協力することとした。
正直、不死者に対する恐怖はある。相対した時には、何一つ手を出すことすらできなかった。このまま関わらない、という選択をしても誰も責めないであろう。
しかし。
目の前であれだけの事をされたのだ。正直、このままですますつもりはなかった。
自分達自身をもっと鍛え、不死者達に挑む。
それは「風追い人」の今後に関わる重大な決断だった。
そしてそれを後悔する者も、ここにはいなかった。
※魔法薬は魔力を込めながら作成される薬で、通常の薬品の数倍から数十倍の効果がある。(もちろん値段も)
※魔力を帯びた「魔剣」は製造法が困難なため、その値段は非常に高い。どんな安いものでも5万リン以上はする。(一般人の月収の50倍)魔力を帯びているため、不死者にも効果がある。
※シィンがカイト達に渡したのは「言霊の水晶」と呼ばれる魔道具。光と風の精霊の力を利用し、5ピンほどの音声付の映像を残すことができる。記録・再生するためには作成時に決められたキーワードが必要。基本的にエルフの里以外で見ることはできない稀少品。(精霊魔法による特殊付与魔術で作成されるので、エルフ以外に作成できない。)
後2話ぐらいで1話終了になりそうです。
次は幕間の話になるかな?




