第三十話 星海
一行はゆっくりと安魂墓所を後にした。
夜の帳はすでに大地を覆っている。
竹林を抜けようとしたところで、コウシンがふと足を止め、振り返った。
古びた石門は、今も静かに竹林の中に佇んでいた。
彼女はその石門をじっと見つめると、やがて手を上げ、そっと振った。
それからようやく皆の後を追った。
背後に残されたすべては、再び静寂へと沈んでいく。
まるで、初めから誰一人として訪れていなかったかのように。
一行はそのまま百鍊塔へ戻り、コウシンの私室で一晩を過ごした。
翌朝早く、皆は再び旅路へと出発し、中央神殿へ向かった。
ちょうど昼時ということもあり、市場はいつも以上の賑わいを見せていた。各族の商人たちが荷物を載せた荷車を押しながら、人々の間を行き交っている。
「なあ、聞いたか? 今年の星海族の周年祭、予定より早く始まったらしいぞ!」
「マジか? まだ一ヶ月も先だったんじゃないのか?」
「星湖女皇がこの後、別の計画があるから前倒しになったらしい。もう多くの他族の人たちが、早めに向かってるみたいだぜ。」
エイノの足がわずかに止まり、声の聞こえてきた方へ振り返る。
「周年祭?」
「そういえば、みんなは星海族の周年祭に行ったことあるのか?」
カイロスがふと口を開いた。
エイラはカイロスを一瞥した。
彼が口を開いた理由など、考えるまでもなく分かる。
賑やかで楽しそうな場所と聞けば、きっとどこにでも彼の姿があるのだ。
「行きたいなら行けばいい。どうせ私たちはまだ依頼を受けてないんだから。」
エイラが淡々と口を開く。
「マジで? じゃあ星海族に行こうぜ! 普段は星海族って他族には一切開放されてないんだろ? 周年祭の時だけ他族にも開放されるし、今しか星海族で受けられない依頼もあるんだ! もう依頼も選んだからな! 行こうぜ、行こうぜ!」
その時、エイノが突然横から顔を出した。
「エイラ、僕にクッキー一袋借りがあるの、忘れないでね。」
エイラは怪訝そうに彼を見る。
「僕たちが初めて光明市場に来た時、約束したじゃん。」
「私、あれって約束したことになるの?」
「とにかく、僕は知らないよ。姉さんは僕に一袋借りがあるんだから。」
「……」
四人は光明市場を離れ、南へ向かって歩き続けた。
星海は世界の最南端に位置している。
他の四族とは異なり、その国土のほとんどが海中にあり、海上に築かれた一つの入口だけが存在していた。
普段、星海族は国境を完全に封鎖し、他族の者が立ち入ることを禁じている。
一年に一度の周年祭の時だけ、外部へと開放されるのだ。
道中では、各族、各地から集まった冒険者たちが、皆同じ方向へ向かって歩いている姿が見られた。
巨大な盾を背負った者もいれば、荷車を押す商人もいる。
中には歩きながらラッパを吹いている者までいて、まるで一行がそのままパレードになったかのようだった。
「そういえば、カイロス。結局、どんな依頼を選んだの?」
コウシンは鞄の中を漁って棒付きキャンディを探しながら、何気なく尋ねた。
「すっげぇ面白そうなやつだ。」
「は?」
コウシンの動きがぴたりと止まる。
彼の言う「面白い」が、ろくなものではないことは間違いなかった。
「へへっ! ほら、見てみろよ!」
そう言いながら、彼は懐から一枚の依頼書を取り出し、得意げに三人の目の前へ掲げた。
「はぐれた契約魔獣の捜索を手伝う。報酬はなんと一千魔晶! 金族の商人からの依頼だ。」
「どうしてはぐれたの? それに、ここで?」
エイノは少し不思議そうに尋ねた。
「依頼人は一年前に周年祭へ参加したんだけど、人混みの中ではぐれてしまったらしい。そのまま見つからないうちに祭りが終わって、国境も再び封鎖されたから、仕方なくここを離れるしかなかったんだって。」
「この依頼、いいじゃん。魔獣を探すだけなんだろ?」
コウシンはそう言いながら、手元では懸命にキャンディの包み紙を剥がしていた。
「でも、よく考えたら、捜索範囲が書かれてないよね?」
エイノはそう言いながら、コウシンの手から自然にキャンディを受け取り、手際よく包み紙を剥がしてから、彼女へ返した。
「……」
二人は同時に黙り込んだ。
どうやら、二人ともそのことをまったく考えていなかったようだ。
「つまりカイロス、お前は依頼の内容をまったく読まずに、任務と報酬だけ見たってこと?」
エイノは思わずカイロスを見る。
「読んだって! ちゃんと任務と報酬は見たぞ!」
カイロスは悪びれる様子もなく、堂々と言い返す。
「それで?」
三人が同時に口を揃える。
「それだけだけど?」
カイロスは両手を広げた。
「まあ、魔獣を探す依頼を選んでくれてよかったよ。もし護衛依頼だったら、誰を護衛するのかすら分からなかっただろうね。」
カイロスは乾いた笑いを二度ほど漏らすと、黙って依頼書をしまった。




