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第二十七話 隊長

 十体の傀儡が、同時に攻撃を仕掛けた。


「来た!」

 カイロスが真っ先に迎え撃つ。

 真紅の炎が、瞬時にその腕へと纏わりついた。

 彼は拳を繰り出した。

 炎が猛獣のように、先頭の傀儡へと襲いかかった。


 ドォン――。

 炎が傀儡を正面から捉え、瞬く間にその巨体を飲み込んだ。

 カイロスは止まらない。

 四肢に炎を纏わせ、すぐさま傍らの傀儡へと蹴りを繰り出す。


 しかし、燃え盛る炎の中から――

 黒い影が勢いよく飛び出した。

 傀儡の全身には、なおも炎がまとわりついている。

 それでも動きは一切止まらず、鉄拳がなおもカイロスめがけて容赦なく振り抜かれた。


「うわっ!」

 カイロスは慌てて足を引き、身体を横へずらしてかわした。

 鉄拳が胸元を掠め、そのまま背後の壁へと激しく叩きつけられる。

 その瞬間、砕けた石片が四方へと飛び散った。


「こいつら、あまりにもおかしい。攻撃をまったく恐れてないのか? それに、身体には傷一つない。」

 デックは巨大な大剣を構え、エイノの前に立ちはだかった。

 鉄拳が正面から迫る。

 デックは両手で巨大な大剣を強く握り締め、勢いよく振り抜いた。


 キィン――。

 巨大な大剣が傀儡の身体へと激しく叩き込まれ、凄まじい勢いで傀儡を後方へと滑らせる。

 しかし、傀儡はすぐさま体勢を立て直した。


「その……! 先生、あなたは……あっ! 違う、ありがとうございます!」

 エイノは地面に伏したまま、必死に身体を翻し、目の前のデックを見上げた。

「どういたしまして。」

 デックはエイノを見下ろすと、すぐに巨大な大剣を肩に担ぎ直した。


 背後から重い足音が響く。

 デックは巨大な大剣を振り上げ、振り向きざまに斬りつけた。

 巨大な大剣と鉄拳が激しくぶつかり合い、火花が四方へと飛び散った。


「ノノちゃん~、どうすればいいか分かる?」

 カイロスが突然エイノの隣へと滑り込んでくる。

 エイノは一瞬、呆気に取られた。


 目の前の二人は、どちらも筋肉はあるが、頭を使って戦うタイプではない。

 今はただ、全力でエイノを守るしかなかった。

 なぜなら今この瞬間でさえ、鉄震までもが戦闘の合間に何度もエイノへと視線を向けていた。

 どうやら今、全員がエイノに希望を託しているらしい。


「僕……僕、ちょっと考えてみる。このタイプの傀儡は魔力を注ぎ込んで、逆に操るんだ。」

「逆に操る?」

 カイロスが目を瞬かせる。

「そう! こいつらの顔には、制御用の魔法陣がある。そこへ逆向きに魔力を流し込めば、元々の命令を書き換えられるんだ。」


「じゃあ、早く書き換えろ!」

 デックは迫り来る傀儡を再び撃退すると、振り返ってエイノを見る。

「僕が?」

 エイノは呆然と、自分を指差した。


「じゃなきゃ誰がやるんだ?」

 デックは不思議そうな顔をする。

 やり方を知っているのはエイノだけなのだから、他に誰がやるというのか。

(もしかして……僕の魔力がどれだけ少ないか、知らないのか?)


「デック、エイノは魔力が少ないんだ。もしかしたら、一体すら操れないかもしれない。」

「ああ……なるほどな……」

 デックは憐れむような目でエイノを見る。

(なんだか、捨て犬を見るような目をしてる……。そういえば、確か本にはもう一つ何か書いてあったはずだ。なんだっけ……?)


 鉄震は二人の騒ぎを気に留めることなく、傀儡たちの動きを観察していた。

 すべての傀儡の標的がデックとカイロスに向いていることに気づくと、静かに隅へと下がる。

 そしてしゃがみ込み、すべての傀儡の顔に浮かぶ魔法陣をじっくりと観察した。


(三重の構造になっている。中心が制御の核だろう。魔法陣を反転させるには、元々流れている魔力よりも多くの魔力を注ぎ込む必要がある。)

 そう考えた瞬間、彼はすぐにカイロスが倒した傀儡へと目を向けた。

 迷うことなく立ち上がり、傀儡のもとへと駆け寄る。

 傀儡が再び立ち上がろうとした、その瞬間――

 鉄震はその胸元を足で踏み押さえ、魔法陣へ手を当てた。


 ヴゥン――。

 瞬く間に、魔法陣の中心から黄金の光が灯る。

 光は紋様に沿って外側へと広がり、すぐに第二の輪へと到達した。

 やがて、魔法陣全体が完全に輝き始める。


(今だ!)

 鉄震は目を鋭く細め、渾身の魔力を一気に注ぎ込んだ。


 ドン――。

 傀儡の身体が激しく震え、関節が軋み、鈍い衝突音を響かせる。

 震えながら両腕を高く掲げ、最後の抵抗を見せた。


 ドォン――。

 足元の傀儡が一瞬にしてバラバラに砕け、部品が辺り一面に散らばった。

 鉄震は足元に散らばった部品へと視線を落とす。

「成功した。」


「成功した……のか?」

 カイロスの疑問の声が響き、鉄震はそこで初めて顔を上げた。

 見ると、すべての傀儡が先ほどまで繰り出していた攻撃を、空中で強引に止めていた。


 次の瞬間――

 九体の傀儡が同時にゆっくりと顔を上げ、揃って鉄震へと振り向く。

 その顔に浮かぶ赤い光の魔法陣が、ゆっくりと回転し始めた。


 三人とも動かなかった。

 ただ、固唾を呑みながら傀儡たちを見つめている。

 そしてエイノも、この瞬間になってふと何かを思い出した。

(そうだ! 確か、一組の傀儡の中には隊長が一体だけいて、隊長を倒せば全員が一緒に機能を停止する。そうじゃなければ、全員が暴走する……。でも……どうやって隊長を見分けるんだ?)


 彼らが考えを巡らせている、その最中――

 九体の傀儡が同時に動き出し、鉄震へと襲いかかった。

「おっちゃん!」

 カイロスがすぐに異変を察知し、慌てて鉄震のもとへ駆け出す。

 鉄震も瞬時に反応し、すぐさま横へと身を躱した。


 しかし、傀儡たちの攻撃速度はあまりにも速かった。

 ドン――。

 そのうちの一発が鉄震の腰をかすめ、彼は思わず数歩よろめきながら後退した。


 デックはすぐさま巨大な大剣を掲げ、鉄震の前に立ちはだかった。

 カイロスも慌てて駆け寄り、最も近くにいた傀儡を蹴り飛ばす。

「どうなってんだ! なんで急に暴れ出したんだ?」

 そう言いながら、カイロスは傀儡の顔を掴み、魔法陣へ魔力を注ぎ込もうとした、その時――


「待って――!」

 エイノが慌てて声を上げる。

 彼はふらつきながらも身体を起こすと、急いで三人のもとへ駆け寄った。


「まずは防護盾(ボウゴジュン)で耐えて! 僕に少し見せて!」

 エイノは息を切らしながら、何度も拳を振り上げる九体の傀儡を睨みつける。

「今、こいつら全員の標的は、鉄震さんのはずだ!」


 カイロスとデックは互いに顔を見合わせた。

 二人ともエイノが何をしようとしているのか分からない。

 それでも今は、彼を完全に信じるしかなかった。


「炎盾(エンジュン)!」

「金盾(キンジュン)!」

 赤と黄色の二枚の盾が、三人の前に展開される。

 九体の傀儡が一斉に盾へと攻撃を加え、表面に細かな亀裂が浮かび上がっていく。

「早く!」


 エイノは三人の後ろに立ち、次々と魔法陣へ視線を走らせる。

(いったい誰なんだ? 見た目は完全に同じだ。でも、必ず一体だけ違うはずだ。どいつだ?)

 傀儡たちが再び拳を振り下ろす。

 防護盾に走る亀裂が、次第に大きく広がっていった。


(あれ?)

 エイノはふと、あることに気づいた。

 傀儡たちは攻撃する前、拳を振り上げたまま一瞬だけ動きを止め、それから重々しく振り下ろしている。


 最初は、力を溜めているのだと思っていた。

 だが、こうして注意深く観察してみると、毎回止まっている時間が違う。

 短い時は一、二秒ほど。

 長い時には、五秒にも及んだ。


 力を溜めているというより――

 まるで、誰かを待っているようだった。

(いったい、誰を待っているんだ?)

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