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第二十五話 守衛傀儡

 大広間には、もう誰一人として残っていなかった。

 コウシンは辺りを見回し、全員がすでに避難したことを確認すると、ようやく安堵の息を吐いた。


「ああ――俺のシャンデリアが、こんなにボロボロになっちまった!」

「古いものがなくなれば、新しいものがやってくるって!」

 エイノはその傍らで、床に落ちた鉱石を拾い集めていた。


 鉄震が何かを言おうとした、その時だった。

 不意に何かを感じ取ったのか、鉄震表情を重くしながら大広間の周囲へと視線を巡らせた。


 ヴゥン――。

 次の瞬間、大広間を取り囲むように十本の黄金色の光柱が現れた。

 光柱はまっすぐ天井へと伸びていく。

 三人は同時に身構え、警戒態勢に入った。


 光がゆっくりと消えていく。

 やがて、光柱の中央に、人の背丈を優に超える十体の影が静かに立っていた。

 全身は黒鉄で造られ、その身体には黄金の紋様が幾重にも刻まれている。

 頭部は俯いたままで、その顔を窺うことはできない。


 彼らは三人には目もくれず、全員が同時に大扉へと向き直った。

 そして、一歩、また一歩と、大扉へ向かって歩き始めた。


「瞬鍛(シュンタン)! 武裝!」

 コウシンが真っ先に動いた。

 その手の中に一瞬で巨大な槌が形成される。

 彼女は木箱を踏み台にして高く跳び上がると、全身の力を込め、先頭にいる守衛傀儡めがけて振り下ろした。


 キィン――。

 火花が四方へと飛び散る。

 しかし、守衛傀儡はわずかに身体を揺らしただけで、歩みを止めることすらなかった。


 それはゆっくりと首を回した。

 顔には目などなく、ただ複雑な紋様が刻まれた魔法陣だけが浮かび、静かに黄色い光を放っている。

 次の瞬間――

 何の前触れもなく、コウシンへ向かって拳を振り抜いた。


 コウシンは両手で巨大な槌を強く握りしめ、正面から迎え撃った。

 ガキィン――!

 凄まじい衝撃に、コウシンは両足で地面を擦りながら、長い二本の跡を残して後退した。


「鉄域(テツイキ)!」

 鉄震が両の掌を打ち合わせる。

 瞬間、膨大な魔力が大広間を一気に駆け巡り、十体の守衛傀儡の動きが同時に止まった。


 全身を覆う黒鉄が、耳障りな音を立て始める。

 まるで見えない力によって、無理やりその場へ縫い止められているかのようだった。

 ――しかし、それもほんの一瞬のことだった。


 ガキッ――ガガッ――。

 傀儡たちの全身が激しく震え始める。

 先ほどまで押さえつけられていた関節が、一つ、また一つと動き出す。

 両腕を高く掲げると、身体に刻まれた黄金の紋様が次々と輝きを放った。


 次の瞬間――

 傀儡たちは力ずくで拘束を引きちぎり、掲げた両腕を地面へと叩きつけた。


「下がれ!」

 鉄震が低く叫ぶ。

 二人は同時に後方へ跳び退く。


 拳が地面へと叩きつけられた瞬間、大理石の床が砕け散り、無数の破片が四方へと飛び散った。

 守衛傀儡たちは一切の音を発することなく、再び歩みを進める。

 一歩、また一歩と、三人との距離を詰めていった。


(こいつらは戦っているんじゃない。まるで障害物を排除しているだけだ。目的は――百錬塔から出ること。)

 鉄震は素早く十体の守衛傀儡を見渡した。


 自分の実力なら、少なくとも四体を同時に足止めできる。

 だが、コウシンが足止めできるのは、多くても二体。

 そしてエイノは――一体を相手にすることすら難しいだろう。


 それ以上に不可解なのは、どれだけ攻撃を加えても、彼らの身体には傷一つつかないことだった。

 何度倒しても、まるで何事もなかったかのように再び立ち上がってくる。


 そのうちの一体が、地面を踏み砕く勢いでコウシンへと突進した。

 コウシンは迫り来る鉄拳を身体を横へ流してかわし、その勢いのまま身を低くする。

 巨大な槌を地面すれすれに振り抜き、傀儡の両脚を強烈に打ち払った。


 巨体が一瞬でバランスを崩し、そのまま地面へと激しく倒れ込む。

 衝撃で、足元の床石までもが粉々に砕け散った。

 しかし、コウシンが息を整える間もなく、背後から二体の守衛傀儡が再び迫ってきた。

 そして、倒れていた傀儡もまた、ゆっくりと立ち上がる。


 三体の傀儡が同時に拳を振り抜く。

 コウシンは咄嗟に身を翻し、その攻撃をかわした。

 三つの巨大な拳がほぼ同時に地面へと叩きつけられ、床に走った亀裂が蜘蛛の巣のように瞬く間に広がっていく。


 コウシンがようやく体勢を立て直した、その瞬間。

 三体の傀儡が再び距離を詰めてくる。

 そこには一切の躊躇もない。

 まるで疲労というものを知らない機械のように、同じ動作を何度も繰り返し続けていた。


 コウシンは歯を食いしばりながら巨大な槌を振るう。

 衝突するたびに手のひらへ鋭い痛みが走り、両腕も衝撃でじんじんと痺れていた。

 彼女は勢いよく後方へ跳び、距離を取る。

 そして両の掌を打ち合わせると、巨大な槌を消し去った。


「万雷奔騰(ばんらいほんとう)!」

 瞬間、荒れ狂う雷撃が掌から一直線に放たれ、目の前の三体の傀儡を一瞬で飲み込んだ。


 ドォン――。

 三体の傀儡が轟音とともに倒れ込む。

 だが、傀儡たちが倒れたその瞬間――

 残るすべての傀儡が、まるで示し合わせたかのように一斉に足を止めた。


 次の瞬間、彼らは一斉にコウシンへと振り向いた。

 三人の目にははっきりと見えた。

 傀儡たちの顔に浮かぶ魔法陣が、黄色から赤へと変わっていく。


 躊躇する暇など一切なかった。

 最も近くにいた傀儡が、凄まじい速度で一気に突進する。

 両拳を高々と振り上げ――

 コウシンめがけて、容赦なく叩き下ろした。


 コウシンの瞳孔が一瞬で収縮し、辛うじて身体を横へずらし、その一撃をかわした。

 だが、二体目の守衛傀儡がすでに彼女の背後へと迫っていた。

 重い鉄拳が背中へと叩き込まれ、コウシンの身体は一瞬で前方へと吹き飛ばされた。


「コウシン!」

 残りの傀儡たちも、すでにエイノの目の前まで迫っていた。

「木盾(モクジュン)!」

 翠緑色の盾が、瞬時にエイノの胸元に展開された。


 ドン――。

 鉄拳が盾へと激しく叩き込まれる。

 亀裂が瞬く間に四方へと走り、次の瞬間、盾は轟音とともに砕け散った。


 エイノが再び魔力を練り上げる間もなく、鉄拳が再び振り下ろされる。

 そのままエイノの身体を、容赦なく地面へと叩き伏せる。


 エイノは地面に伏したまま、呼吸を荒くしていた。

 力なく顔を上げると、そこで初めて傀儡の顔に浮かぶ魔法陣をはっきりと目にした。

(この魔法陣……どこかで見たことがあるような……?)


 その時、脳裏にあの本のことがふと浮かんだ。

(思い出した! 魔物図鑑で見たことがある! 人の手によって造られ、操られている魔物には、こういう魔法陣が使われていたはずだ。でも……どうやって解除するんだっけ?)


 一方その頃、先ほど倒れた傀儡はすでに立ち上がっていた。

 鉄震はその場から動かず、必死に防戦を続けている。

 今の彼は、かつてのように素早く手足を動かすことができない。

 同時に迫り来る攻撃を前に、ひたすら防ぐことしかできず、反撃に転じる余裕などまったくなかった。


 鉄震は腕を上げ、迫り来る重拳を受け止める。

 だが、次の一撃がすぐさま横から迫ってきた。


 鉄震は慌てて身体を捻り、拳を肩先ぎりぎりでかわす。

 その一瞬の隙を逃さず、反撃の一撃を叩き込んだ。


 傀儡は殴り飛ばされ、後方へと退く。

 しかし、その隙に別の二体がすでに迫っていた。

 凄まじい力に押され、鉄震は思わず後ずさる。

 ようやく足を止めた、その瞬間――

 目の前を再び黒い影が覆った。


 鉄震はすぐさま後退し、素早く大広間全体を見渡した。

 コウシンはすでにその場に倒れ、意識を失っている。

 エイノも、もはや立ち上がる力すら残っていない。


 そして自分は――

 十体もの傀儡に、完全に取り囲まれていた。


(こいつらの目的は、もう百錬塔から出ることじゃない。――俺たちを殺すことに変わったんだ……)

 鉄震の表情が次第に険しくなり、両拳を強く握り締めた。


 次の瞬間、十体の傀儡が一斉に拳を振り上げる。

 鉄震の瞳孔が大きく収縮した。

 そして、二十の鉄拳が振り下ろされようとした、その瞬間――


 ドォン――。

 真紅の炎が、突然鉄震を包み込んだ。

 灼熱の炎は瞬く間に周囲へと広がり、傀儡たちをまとめて押し退けた。


「おっちゃん! おっちゃん!」

 鉄震が勢いよく振り返る。

 そこには、瓦礫だらけになった大扉の前に、一人の人影が立っていた。

 その手には、今なお燃え続ける炎が宿っている。


 そしてその顔には、これでもかというほどはっきりと――

「早く褒めて! 早く褒めて!」

 と書いてあった。


 その後ろには、巨大な大剣を担いだデックが立っていた。

 冷静な表情のまま、彼はちらりと横へ視線を向ける。

(この子は……。)

 鉄震はデックが担いでいる巨大な大剣を見つめ、どこか呆れたような表情を浮かべた。


 魔力を失った者を除けば、ほとんどの者が魔力を使う中で、デックだけは違っていた。

 彼は自分自身の力に頼ることを好み、普段はほとんど魔力を使わない。

 いつも、あの巨大な大剣を手にしているのだった。


 しかも、彼はほとんどいつも上半身裸だった。

 自分の鍛えた身体を見せるのが、どうやら本人のちょっとしたこだわりらしい。


「さあ、行くぞ! お前たち! この鉄くずどもを片付けるぞ!」

 鉄震はニッと笑った。


 先ほどまでの険しい表情は、今ではわずかに和らいでいた。

 ――この二人がいるなら、もう心配はいらない。

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