↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/32

第二十二話 ルミア

 百錬塔へ足を踏み入れた瞬間、まず目に飛び込んできたのは、広々とした大広間だった。


 周囲には様々な鉱石や武器を収めた展示ケースが並んでいた。

 銀色の輝きを放つ長剣、重厚な戦斧、そして数々の希少な鉱石が、整然と陳列されている。

 多くの商人や旅人がその中を行き交い、武器を選ぶ者もいれば、展示台を囲んで熱心に話し合う者もいた。


 大広間の中央には、漆黒の展示台が一つ置かれており、エイノの目を引いた。

 展示台の上に置かれていたのは、ただ一振りの古びた武器だけだった。

 刃には無数のひびが入り、刀身には粗い鍛造の跡が残っている。

 周囲に並ぶ芸術品のような武器と比べると、それだけがひどく場違いに見えた。


「なんでこれ、こんなにボロボロなんだ?」

 コウシンは彼の視線の先を追うと、口元をわずかに緩めた。

「それ、私が作ったの。ボロボロだけど、正真正銘のS級魔武だよ。」

 その口調は淡々としていて、まるで何でもないことのようだった。


「S級? マジで?」

 驚いたのはエイノだけではなかった。

 エイラも思わず目を見開いた。

 どう見ても失敗作にしか見えない。まさか、それがS級魔武だとは思いもしなかった。


「確かにボロボロだけど、等級は見た目で決まるものじゃない。どれだけの魔力に耐えられるか、そして、どれだけの力を引き出せるかで決まるんだよ。」

 彼女は歩み寄ると、刀身に走る幾筋ものひび割れを指先でそっと撫でた。


「行こう。君たちに見せたいものは、上の階にあるから。」

 そう言って彼女は、円形の台座の前まで歩いていった。

 台座の中央には、複雑な転移魔法陣が刻まれていた。


「ほらほら、早く!」

 三人が台座の上に立つのを確認すると、コウシンは台座へ魔力を流し込み、転移魔法陣を起動させた。

 足元の魔法陣が眩い光を放ち、無数の光の紋様が術式に沿って勢いよく巡り、三人の姿を徐々に飲み込んでいった。


 やがて、その輝きが三人の姿をゆっくりと包み込み、三人はそのまま光の中へと飲み込まれていった。

 次の瞬間、三人の姿は大広間から一斉に消え去った。


 光が収まると、エイノはゆっくりと目を開けた。

 三人はすでに、広々とした部屋へと移動していた。


 部屋には余計な装飾が一切なく、中央には一脚の長机が置かれていた。

 壁際には本棚がずらりと並び、部屋全体を取り囲んでいた。


 どの棚にも様々な書籍がぎっしりと詰め込まれていた。

 ただ一つ、窓際に置かれた棚だけは例外だった。

 そこには本ではなく、色とりどりのキャンディが所狭しと並べられていた。


「ここは私の私室みたいなものだよ。ほら、これが君たちに見せたかったもの。」

 コウシンは本棚の前まで歩み寄ると、すっかり黄ばんだ本を一冊取り出し、机の上へ置いた。


 エイラとエイノは本のそばへ歩み寄った。

 コウシンはページをめくっていく。

 一ページ、また一ページとめくり、やがて――ある一ページで、コウシンの手が止まった。


「これは……」

 エイノは一目で気づいた。

 ページの中央に描かれていた紋様――それは、彼らがあの地下道で手に入れた星と、まったく同じものだった。


「戻ってから、百錬塔にある本を全部調べてみた。でも、見つかったのはこの一冊だけだった。」

「光明の神――ルミア。」

 エイラは本に記された文字を見つめ、ゆっくりと読み上げた。


「そう。私たちは幼い頃から光明の神を信仰するよう教えられてきたし、五族はその神から生まれたということも知っている。でも、よく考えてみて。――私たちは、光明の神についての物語を一度も聞いたことがないんだ。」


 ルミア――光明の神。

 伝説によれば、天地が未だ分かたれず、世界が混沌に包まれていた時代――

 彼女は自らの力を最初の曙光へと変え、闇を払い、大地全体を照らし出した。


 その後、自らの五枚の翼を五つの光へと変え、世に授け、すべての生命を守護した。

 そして最後の一枚の翼は、永遠の封印へと姿を変え、魔族を永遠に闇の中へと封じ込めた。


「人類の強欲が、彼女の怒りを買った……人類の強欲……」

 エイノは小さく呟く。

 その脳裏に、地下で目にしたあの古代文字の一節が再び浮かんだ。

 ――いったい、どんな強欲が彼女の怒りを買ったというのだろう?


「何のこと?」

 エイラは不思議そうにエイノを見つめた。

 エイラは、地下で起きた出来事について何も知らなかった。


「地底で見たんだ。そこには――『人類の強欲が、彼女の怒りを買った。だが、子よ、案ずる必要はない。五つ目の星が輝く時、神は再び帰還し、祝福を授ける』――って書いてあった。だいたい、そんな感じだったよ。」


 エイラは話を聞き終えると、再び本へと視線を落とした。

「五つ目の星……」


 何かを思いついたように、彼女は顔を上げ、真剣な眼差しで二人を見る。

「私たちがあの時話してたこと、覚えてる? 次の夜明けが来るまでに、星を各種族の誓いの台へ戻さなきゃいけなかった。――つまり、五つの種族にはそれぞれ一つずつ試練があって、その試練を突破することで星を手に入れられるってことじゃない?」


 コウシンは傍らの棚から袋入りのキャンディを取り出すと、慣れた手つきで一粒をエイノへ放り、もう一粒をエイラへ差し出した。

 そして自分も一粒口に入れると、椅子の背もたれに身体を預け、机の上の本へ視線を落とす。

「でも、問題が二つある。」


 そう言って、彼女は二本の指を立てた。

「一つ目。この本には、試練について何の説明もない。書かれているのは、神の力に関することだけ。」

 彼女は一本の指を下ろす。

「二つ目。私たちは、いったいどうやって試練へ入るの?」


 部屋は再び静寂に包まれた。

 その二つの問いに、三人とも答えを出すことはできなかった。


「まあ、いいか。」

 コウシンは本を閉じると、諦めたように苦笑した。

「どうせ、今の私たちには他に手がかりもないんだし。これから星を手に入れる機会があれば、そのうち答えも自然と見えてくるかもしれないよ。」


 エイノは頷いた。

 何しろ、ここまでの話はすべて、まだ彼らの推測に過ぎない。


 するとコウシンはふと俯き、手首のブレスレットへ目を向けた。

 水晶の中の赤い点が、忙しなく左へ右へと動き回っている。

 それを見たコウシンは、思わず吹き出した。


「ここで待ってようよ! カイロスは今も、あっちこっちを彷徨ってるみたいだから。自力で道を探すのを諦めたら、きっと百錬塔まで戻ってくるよ。」

「確かに。ここで一番目立つのは百錬塔だしね。」

 エイノも思わず苦笑した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。