第二十二話 ルミア
百錬塔へ足を踏み入れた瞬間、まず目に飛び込んできたのは、広々とした大広間だった。
周囲には様々な鉱石や武器を収めた展示ケースが並んでいた。
銀色の輝きを放つ長剣、重厚な戦斧、そして数々の希少な鉱石が、整然と陳列されている。
多くの商人や旅人がその中を行き交い、武器を選ぶ者もいれば、展示台を囲んで熱心に話し合う者もいた。
大広間の中央には、漆黒の展示台が一つ置かれており、エイノの目を引いた。
展示台の上に置かれていたのは、ただ一振りの古びた武器だけだった。
刃には無数のひびが入り、刀身には粗い鍛造の跡が残っている。
周囲に並ぶ芸術品のような武器と比べると、それだけがひどく場違いに見えた。
「なんでこれ、こんなにボロボロなんだ?」
コウシンは彼の視線の先を追うと、口元をわずかに緩めた。
「それ、私が作ったの。ボロボロだけど、正真正銘のS級魔武だよ。」
その口調は淡々としていて、まるで何でもないことのようだった。
「S級? マジで?」
驚いたのはエイノだけではなかった。
エイラも思わず目を見開いた。
どう見ても失敗作にしか見えない。まさか、それがS級魔武だとは思いもしなかった。
「確かにボロボロだけど、等級は見た目で決まるものじゃない。どれだけの魔力に耐えられるか、そして、どれだけの力を引き出せるかで決まるんだよ。」
彼女は歩み寄ると、刀身に走る幾筋ものひび割れを指先でそっと撫でた。
「行こう。君たちに見せたいものは、上の階にあるから。」
そう言って彼女は、円形の台座の前まで歩いていった。
台座の中央には、複雑な転移魔法陣が刻まれていた。
「ほらほら、早く!」
三人が台座の上に立つのを確認すると、コウシンは台座へ魔力を流し込み、転移魔法陣を起動させた。
足元の魔法陣が眩い光を放ち、無数の光の紋様が術式に沿って勢いよく巡り、三人の姿を徐々に飲み込んでいった。
やがて、その輝きが三人の姿をゆっくりと包み込み、三人はそのまま光の中へと飲み込まれていった。
次の瞬間、三人の姿は大広間から一斉に消え去った。
光が収まると、エイノはゆっくりと目を開けた。
三人はすでに、広々とした部屋へと移動していた。
部屋には余計な装飾が一切なく、中央には一脚の長机が置かれていた。
壁際には本棚がずらりと並び、部屋全体を取り囲んでいた。
どの棚にも様々な書籍がぎっしりと詰め込まれていた。
ただ一つ、窓際に置かれた棚だけは例外だった。
そこには本ではなく、色とりどりのキャンディが所狭しと並べられていた。
「ここは私の私室みたいなものだよ。ほら、これが君たちに見せたかったもの。」
コウシンは本棚の前まで歩み寄ると、すっかり黄ばんだ本を一冊取り出し、机の上へ置いた。
エイラとエイノは本のそばへ歩み寄った。
コウシンはページをめくっていく。
一ページ、また一ページとめくり、やがて――ある一ページで、コウシンの手が止まった。
「これは……」
エイノは一目で気づいた。
ページの中央に描かれていた紋様――それは、彼らがあの地下道で手に入れた星と、まったく同じものだった。
「戻ってから、百錬塔にある本を全部調べてみた。でも、見つかったのはこの一冊だけだった。」
「光明の神――ルミア。」
エイラは本に記された文字を見つめ、ゆっくりと読み上げた。
「そう。私たちは幼い頃から光明の神を信仰するよう教えられてきたし、五族はその神から生まれたということも知っている。でも、よく考えてみて。――私たちは、光明の神についての物語を一度も聞いたことがないんだ。」
ルミア――光明の神。
伝説によれば、天地が未だ分かたれず、世界が混沌に包まれていた時代――
彼女は自らの力を最初の曙光へと変え、闇を払い、大地全体を照らし出した。
その後、自らの五枚の翼を五つの光へと変え、世に授け、すべての生命を守護した。
そして最後の一枚の翼は、永遠の封印へと姿を変え、魔族を永遠に闇の中へと封じ込めた。
「人類の強欲が、彼女の怒りを買った……人類の強欲……」
エイノは小さく呟く。
その脳裏に、地下で目にしたあの古代文字の一節が再び浮かんだ。
――いったい、どんな強欲が彼女の怒りを買ったというのだろう?
「何のこと?」
エイラは不思議そうにエイノを見つめた。
エイラは、地下で起きた出来事について何も知らなかった。
「地底で見たんだ。そこには――『人類の強欲が、彼女の怒りを買った。だが、子よ、案ずる必要はない。五つ目の星が輝く時、神は再び帰還し、祝福を授ける』――って書いてあった。だいたい、そんな感じだったよ。」
エイラは話を聞き終えると、再び本へと視線を落とした。
「五つ目の星……」
何かを思いついたように、彼女は顔を上げ、真剣な眼差しで二人を見る。
「私たちがあの時話してたこと、覚えてる? 次の夜明けが来るまでに、星を各種族の誓いの台へ戻さなきゃいけなかった。――つまり、五つの種族にはそれぞれ一つずつ試練があって、その試練を突破することで星を手に入れられるってことじゃない?」
コウシンは傍らの棚から袋入りのキャンディを取り出すと、慣れた手つきで一粒をエイノへ放り、もう一粒をエイラへ差し出した。
そして自分も一粒口に入れると、椅子の背もたれに身体を預け、机の上の本へ視線を落とす。
「でも、問題が二つある。」
そう言って、彼女は二本の指を立てた。
「一つ目。この本には、試練について何の説明もない。書かれているのは、神の力に関することだけ。」
彼女は一本の指を下ろす。
「二つ目。私たちは、いったいどうやって試練へ入るの?」
部屋は再び静寂に包まれた。
その二つの問いに、三人とも答えを出すことはできなかった。
「まあ、いいか。」
コウシンは本を閉じると、諦めたように苦笑した。
「どうせ、今の私たちには他に手がかりもないんだし。これから星を手に入れる機会があれば、そのうち答えも自然と見えてくるかもしれないよ。」
エイノは頷いた。
何しろ、ここまでの話はすべて、まだ彼らの推測に過ぎない。
するとコウシンはふと俯き、手首のブレスレットへ目を向けた。
水晶の中の赤い点が、忙しなく左へ右へと動き回っている。
それを見たコウシンは、思わず吹き出した。
「ここで待ってようよ! カイロスは今も、あっちこっちを彷徨ってるみたいだから。自力で道を探すのを諦めたら、きっと百錬塔まで戻ってくるよ。」
「確かに。ここで一番目立つのは百錬塔だしね。」
エイノも思わず苦笑した。




