第二十話 火山
「いったいどの家なんだ?」
カイロスは日記を手にしたまま、どれもよく似た家々を見渡し、困ったように頭をかいた。
「おじさんは『この道を行って、表札に“デック”って書いてある家』って言ってたけど……ここの表札、どれも煤で真っ黒じゃないか! これじゃ文字なんて読めないよ!」
カイロスの目には、どの表札も真っ黒な板にしか見えず、何が書かれているのかまったく判別できなかった。
「なんでコウシンがここに?」
「それはこっちの台詞だよ。どうして一人なの? もしかして迷子?」
コウシンは両手を腰に当て、くすっと笑った。
「君が迷子になることはあっても、俺が迷子になることはないよ。」
「それで、何を探してるの?」
その言葉を聞いて、カイロスはふと思いついた。
(そういえば、前代の大鍛將の息子なら、コウシンが知っててもおかしくないよな。)
「デックって人、知ってる?」
「デック? ほら、あの人だよ。」
コウシンはそう言って、少し離れた場所を指差した。
カイロスはコウシンの指差す方向へ視線を向けた。
そこには、一人の青年が太い丸太を一本、肩に担いで歩いていた。
上半身は裸で、鍛え上げられた筋肉が歩くたびに力強く躍動している。
カイロスはデックを見て、次に行き交う金族の人々へと目を向け、最後に無言でコウシンを見つめた。
「どうしたの?」
コウシンは自分へ向けられた視線に気づき、不思議そうに小首を傾げた。
「金族の人たちって、みんなすごくがっしりしてるんだなって。」
「そりゃそうだよ。鍛冶には力がいるんだから。」
「じゃあ、コウシンは――」
「うるさいっ!」
「デック!」
コウシンはその場で大きく手を振った。
「ちょっ、待っ――」
カイロスが止める間もなく、デックは二人に気づき、そのまま大股で歩いてきた。
……来てはくれた。
だが、その表情はお世辞にも穏やかとは言えない。
今にも拳が飛んできそうなほど、不機嫌そのものだった。
「……何だ。」
デックは苛立った様子でコウシンを見た。
(この人、何か月も百錬塔に顔を出さないくらい忙しいなら、大鍛將なんて辞めてくれよ。その席なら、俺が代わってやる。)
「この人、君に用があるって。」
コウシンはあっさりとカイロスを指差した。
「えっ、あの、その……俺は……」
突然話を振られたカイロスの頭は、一瞬で真っ白になる。
「その……あっ! 前からお名前は聞いてました! ぜひ知り合いになりたくて!」
その言葉を聞いたコウシンは、思わず目を丸くしてカイロスを見た。
(……この人、本当にバカなの?)
「今、何て言った!?」
がっしりとした体格のデックの目が、一気に輝いた。
次の瞬間、彼は一歩でカイロスの目の前まで詰め寄った。
「えっ?」
カイロスは驚いて反射的に一歩後ずさった。
さらに下がろうとした、その瞬間――
両腕をがしっと掴まれた。
「兄弟! 俺も知り合えて嬉しいぜ! 俺はデック! 現役の小鍛將だ! 兄弟、名前は?」
カイロスはぽかんと目の前のデックを見つめた。
こんなにも気さくで熱い性格だとは、まったく予想していなかった。
ついさっきまで、あんなに怖い顔をしていたというのに。
「お、俺はカイロス・焱! よろしく!」
相手の熱量につられるように、カイロスもすっかりいつもの調子を取り戻した。
燃え上がるような勢いの二人を前に、コウシンはそっと一歩後ろへ下がる。
(……変なのが二人。)
「その名前、金族の人間じゃないよな?」
デックは豪快に笑いながら、カイロスの肩に腕を回した。
「俺は炎族なんだ。」
「マジか!? じゃあ、火を吹けるのか!」
「……吹ける。」
「一回見せてくれよ!」
「無理。」
「なんでだよ!!」
カイロスは何事もなかったかのように視線を逸らしたが、ふと思い出したようにデックを見た。
「そういえばさ、さっきコウシンにすごく機嫌悪そうだったよね?」
その言葉を聞いたデックは、表情を引き締めた。
「それはな……。」
カイロスは思わず息をのんだ。
(まさか、とんでもない理由が飛び出すんじゃ……)
「――あいつは、俺の生涯のライバルだからだ!」
デックは両拳を固く握り締め、真剣な表情で言い切った。
「俺は十一歳で小鍛將になったんだ! 次の大鍛將は絶対に俺だって、誰もが思ってた! ……なのに! あいつが突然現れて、あっさり大鍛將になっちまったんだ!」
「ああ……なるほどね……。」
カイロスは何とも言えない表情を浮かべた。
(確か、金族も炎族と同じで、勝ったほうが後継者になれるんだよな?)
「じゃあ、コウシンに勝てばいいんじゃない?」
「そんなこと、俺だってしたいに決まってるだろ!」
「勝てないの?」
「ああぁぁぁ――!!」
コウシンは百錬塔の窓辺に立ち、眼下で頭を抱えて叫んでいるデックを眺めていた。
「……私の周りって、火山が多い気がする。」
「え? 火山、ですか?」
書類を机に置いた秘書は、不思議そうに首を傾げる。
(大鍛將様の周りに、火山なんてあったでしょうか……?)
「ううん、何でもない。ただ景色を見てただけ。」
実は最初はイベントに参加したくて、すでに書き終えていた物語を一生懸命翻訳していました。(っ °Д °;)っ
でも、どうやら間に合いそうにないので、これからはゆっくり翻訳していこうと思います。(/▽\)




