第十七話 旅の夜
そうこう話しているうちに、一行は魔法師ギルドへと戻ってきた。
「とりあえず、ほかに受けられそうな依頼がないか見てみよう!」
「少し待ってください!」
一行が依頼掲示板へ向かおうとしたその時、背後から誰かが呼び止める声が響いた。
彼女は四人のもとまで駆け寄ると、肩で息をしながら、呼吸を整えた。
そして、姿勢を正し、丁寧に一礼した。
「こんにちは。受付を担当しております。失礼ですが、あなた方が『儲かり隊』の皆様でお間違いないでしょうか?」
「?」
エイノ、エイラ、コウシンの三人の頭上に、一斉に大きな疑問符が浮かんだ。
――『儲かり隊』?
(……何その、絶妙にダサい名前。)
三人は一斉にカイロスへと視線を向けた。
だが当の本人だけは、頭に疑問符を浮かべることもなく、どこ吹く風といった様子だ。
――なにしろ、その名前を付けた張本人なのだから。
カイロスは得意満面の笑みを浮かべると、勢いよく手を挙げた。
「あっ、はい! 僕たちです! どうしました?」
「初めまして、私はミナと申します。皆様をご指名の依頼が届いておりますが、お受けいただけますでしょうか?」
「指名依頼? どんな内容なんですか?」
ミナの顔に、どこか困ったような、何とも言えない笑みが浮かんだ。
「依頼内容は……本を一冊、指定された場所へ置いてくることです。」
「うん、それで?」
「えっと……依頼は、それだけです。」
「?」
「本当なんです。依頼書にも、それしか書かれていなくて……」
「受けません。」
「で、ですが、ご安心ください! 報酬は一〇〇〇魔晶です!」
「受けます。こういう依頼こそ、まさに良い依頼ですよね。」
カイロスはミナからその本を受け取ると、中を確認しようと、本を開きかけた。
「あっ!」
ミナは慌てて彼を制した。
「あの! 依頼内容に、『本を開いてはならない』と書かれているんです!」
「そっか、分かった!」
エイノは依頼書を受け取って目を通すと、ふと顔を上げて尋ねた。
「そういえば、依頼人はどなたなんですか?」
「それが……依頼人様は身元の公開を希望されておらず、申し訳ありません。」
「じゃあ、届け先はどこなの?」
コウシンが横から尋ねた。
「金族の南区にある鉄村です。到着されましたら、依頼人様が直接お会いになる予定です。」
「鉄村?」
「はい。」
「鉄村って、どんな村なんだ?」
エイノはコウシンへと視線を向けた。
「えっと……東西南北にそれぞれ銀村、銅村、鉄村、鋼村っていう四つの村があって、その中では鉄村が一番裕福かな。」
「一番裕福!? 最高じゃん!」
そう叫ぶなり、カイロスは勢いよくギルドを飛び出していく。
「ちょ、ちょっと待って! 今の君、完全に強盗へ向かう人みたいだから!」
エイノは慌ててその後を追いかけた。
四人はギルドを後にし、そのまま金族を目指して歩き始めた。
やがて夜の帳が下りる頃、一行は森の中に天幕を張り、一晩休むことにした。
エイノは切り株の傍らにしゃがみ込み、手にした赤根菜を細切りにしていく。
(これ、見た目は完全にニンジンなんだけど……それにしても、カイロスがあんなに大量の食材を持ち歩いてるなんて思わなかった。……というか、あの小さなバッグにどうやってあれだけの物が入ってるんだ?)
そう思ったエイノは、思わずカイロスへと視線を向けた。
するとカイロスは、まだバッグの中を探り続けていた。
いったい何の食材を探しているのか、本人にしか分からない。
「おっ! あった!」
カイロスの目がぱっと輝き、バッグの中から真っ白で傷ひとつない卵をいくつか取り出した。
「これは白鳥の卵だよ! あいつら、飛んでる最中に卵を産むことが多いから、海まで行かないと拾えないんだ!」
「あなたの情熱って、いつも変なところで発揮されるわよね。」
エイラはしばらく沈黙したあと、呆れたようにそう口にした。
カイロスは聞こえなかったふりをすると、くるりと背を向け、鍋を火にかける準備をした。
火を起こし、白油をひとかけら放り込む。
じゅわっと音を立てて油が溶け始めると、エイノが刻んでおいた赤根菜を鍋へ入れた。
カイロスは赤根菜を軽く炒めると、続けて白鳥の卵を三つ割り入れた。
ジュワァ――。
卵液が鍋へ流れ込む音とともに、食欲をそそる香ばしい香りが辺りへゆっくりと広がっていく。
「いい匂いだぁ!」
エイノは思わず鼻をひくつかせた。
「だろ!」
カイロスは得意げに胸を張った。
「へぇ~、これはちょっと意外だった。」
コウシンは少し離れた場所で棒付きキャンディを舐めながら、感心したように呟いた。
「何が意外なんだよ!」
四人は焚き火を囲むように腰を下ろした。
夜風が梢を優しく揺らし、炎は揺らめきながら、それぞれの顔を温かく照らしていた。
エイノは皿を抱えながら、隣にいる三人へと視線を向けた。
これまで経験してきた出来事のすべてが、どこか現実味を帯びていないような気がしてならなかった。
(食材がなくて薄焼きパンばかり食べてたからな……。これも、ニンジンの卵炒めみたいな味がする。昔、母さんもよくニンジンの卵炒めを作ってくれたっけ。)
懐かしいその味わいが、長く胸の奥にしまい込まれていた記憶を、静かに呼び覚ました。
(そうだ……母さん。今、どうしてるんだろう。俺が突然いなくなって、きっと心配してるよな……)
そこまで考えたところで、不意にシアナの姿が脳裏をよぎる。
(あいつも……今、どうしてるんだろう……)




