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8/11

⑦砂沼マラソンに出場しよう

(内容)マラソン大会に出て体力増進に努める。


 その日は早朝から砂沼マラソン大会実施を知らせる花火が上がっていた。

 「よし、行ぐべ」と、タンクトップ姿で、朝も早くから気合十分に家を出たのは大地である。

 イベントは好きである。ましてや砂沼マラソンは子供時代から参加賞のお菓子目当てで何度も出ていた。ルアンもドラマーとして体力には自信がある方であるので、もしかすると上位を狙えるかもしれないとここ数日は毎日砂沼を走っていた程である。一方で、こういったことが一等苦手なのは大河である。

 イダからメールが来た時、「俺はカメラでおめらのごど撮るから、今回は……」そう言いかけた途端、

 「何言ってんで! ほっだらごど許されると思ってんのが、ごじゃっぺめ!」やたらやる気を出している大地に叱られる。

 「ほだ! おめはバンドのYouTubeを何だと思ってんだ! やる気がねえやづはいらねど!」ルアンもいつもならば、この企画がバンドのチャンネルなのかよと文句を言っていることも忘れ激昂する。要は自分の好きなものであれば良いのだ。

 ーー私はおじいちゃんと行くから

 朱里がそう打ち込んだスマホを見せた時、てっきり家族で参加するものと思いきや、当日、朱里はいつものワンピーススタイルで現れた。

 「おめ、なんでそっだら恰好してんだべ!」ルアンに追及されるも、

 ーー今日は応援

 そう言って大きな手作りうちわを三枚、手提げかばんから自慢げに取り出した。

 一枚目は「大地がんばって♡」、二枚目は「ルアンがんばって♡」、三枚目「大河がんばって♡」アイドルのコンサートにでも出てきそうな、フリル付きの派手なうちわである。

 ーー一生懸命作った

 「おめ、エントリーしてねがっだのが!」ルアンは地団太踏んだ。

 ーーでも来賓席にいるから

 「はあ? 来賓だあ?」

 ーーおじいちゃんと一緒に カメラももらうね

 朱里はそう言って大河からカメラを受け取るなり身を翻し、足取りも軽くさっさと公園に設置されたテントに向かっていく。

 「あいづ、筑波山も登らねでマラソンも走らねで、ったぐ、何考えてんだっぺ、バンドの一員だっつう自覚に欠けてるべ!」ルアンはそう言って鼻を鳴らす。「まあいいべ。俺は今日のためにまいんち練習励んできたかんな。準備万端だべ」

 「6kmかあ、走れっぺかなあ」不安そうな大河の背を叩き、

 「IN YOUR FACEの名に恥じねえ走りをすんだど!」と大地は活を入れた。

 

 「皆さんおはようございます。砂沼保存会の名誉会長を務めさせて頂いております、元代議士の鈴木万里と申します。本日は県外からも多くの方々にお集まりいただいていると伺っております。砂沼は筑波山を臨み、茨城百景の一つに数えられ、農林水産省が選定したため池百選にも選ばれた、下妻を代表する実に風光明媚なため池であります。本日は是非この美しい自然も楽しみながら完走を目指して全力を尽くして頂きたいと思います」

 公園に設置されたステージでは、朱里の祖父が大勢の選手を前に挨拶を行っている。

 「見でみろ、朱里、あすこにいんぞ」

 ステージ脇のテントを見ながら、ルアンが大地に耳打ちした。

 「まあいいべ。体育の授業でさえまどもに出だごどねえんだがら、砂沼一周も走れるわけあんめ。走ったどころで熱出してぶっ倒れんだから、まあ、応援してくれてた方が安心だべよ」

 「……たしかにな」

 その隣で背を丸めた大河がやたらため息をついている。

 そうこうしている内に朱里の祖父の挨拶も修了し、選手一同係員にスタート地点まで案内される。

 その脇で朱里が意気揚々と三枚のうちわを掲げつつ、子ども時代使っていたおもちゃのラッパをぷっぷーと吹いた。

 「行ってくっかんなー!」大地が朱里に両手を振る。

 「すーぐ帰ってくっかんなー!」ルアンも自信満々に手を振る。

 「……はあ、始まっちまう……」

 ピストルが鳴る。一斉に走り出した。

 大地とルアンは最初から全速力である。すぐに先頭集団に入り込んだ。

 朱里はすぐにうちわをしまい込むと、選手顔負けの凛々しい顔つきでテントの脇に準備しておいた電動自転車に跨った。

 ーーこれで次のポイントまで向かって大地とルアンを応援する。

 「朱里、応援行ぐのか」祖父に声を掛けられ、朱里はうん、と頷く。ペダルを勢いよく踏みこんだ。

 中央の橋を渡れば、次のポイントまではすぐである。

 朱里は自転車を立ち漕ぎして橋を渡り、次のポイントへと向かった。

 まだ選手は誰も通過していない。

 朱里は再びうちわを取り出し、遠くからやってくる選手を見据えた。金髪のルアンが見える。

 朱里は飛び上がってうちわを掲げ、らっぱをぷっぷ、ぷっぷ吹きまくる。

 ルアンが気づき、片手を上げる。その後ろには大地。ガッツポーズを見せる。しかし大河はいない。

 あっという間に二人は通過した。

 ーー大河は?

 選手が次々に通過していくものの大河は来ない。途中で棄権してしまったのだろうか。そう訝った瞬間、脚を縺れさせながら大河が走ってくる。

 ぷっぷー!

 大河は朱里に気付き、顔を上げて苦し気に手を振った。

 朱里は「大河がんばって♡」うちわを見せつける。

 大河が通過するなり、朱里は再び電動自転車に跨り次のポイントへと急いだ。

 橋を戻って反対側へと出る。腰を上げ勢いよく自転車を漕ぐ。

 先頭集団がやってくる。まだルアンと大地が食らいついている。

 朱里はうちわを掲げ、ぷーぷっぷ、ぷーぷっぷ! 一生懸命らっぱを鳴らした。

 ルアンはいよいよラストスパートに向け、ちら、と見ただけでもう余裕はなさそうである。全力で腕を前後に降りながら小さく朱里を見て頷いただけで、あっという間に走り去っていく。

 朱里は今度は大河を待たずに、急いでゴール地点へと自転車を走らせた。

 「さあ、もうそろそろ先頭集団が戻ってきます。現在の一位は下妻高校駅伝部三年生の依田君です! 昨年インターハイ出場も果たしました! 素晴らしい走りです! 二位は下妻マラソンの会会長の佐多さん! その次に下妻工業高校三年のルアン君が追っています!」

 朱里はぴょんぴょん飛び跳ねながらうちわを掲げる。

 ゴールテープが切られる。

 ルアン三位。大地十二位。大河百八十四位、の結果であった。

 そして表彰式。

 表彰台に上ったルアンは胸に手を当て、神妙そうに銅メダルを受け取った。朱里も感動に目を潤ませながらカメラで追う。

 大河も「……ル、ルアンが、三位、に、なり、ました」息も絶え絶えに言葉を入れていく。「す、……凄いです。ルアンは、……せ、先週から、まいんち、練習、しで、ま、した。さ、すが、です」

 表彰式が終わるかと思った矢先、

 「今回は、応援特別賞も用意しました。応援特別賞は、各所に先回りをして、うちわとらっぱで一生懸命応援をしてくださった鈴木朱里さんです!」朱里ははっとなって口元を手で押さえてステージを見た。

 祖父が柔和な笑みを浮かべて、おいでおいでをしている。

 ーー本当に?

 うんうん、と頷く。

 朱里はカメラを大河に渡して、慌ててステージへと向かった。

 「応援特別賞って、おめ、完全にじいちゃんのコネだっぺ!」ルアンが騒ぐ。

 朱里は祖父から賞状を恭しく受け取った。

 「走りもしねえで、なんで賞状貰えんだっぺよ!」

 「まあ、いがべよ」大地がそう言ってほほ笑んだ。「おめはメダル、おれと大河も参加賞、朱里もなんだか貰えたら、みんな何か貰えていがっぺよ」

 最後にカメラの前で、ルアンは銅メダル、大地と大河は参加賞の名産品の和菓子「夜雨の里」、朱里は応援特別賞とやらの賞状を掲げて動画撮影を終えた。

 この動画もさすがにアップした当初はローカル過ぎて視聴回数は少なかったが、ヴァッケン出場以来、海外ファン中心に一気に視聴回数が増えていった。


コメント欄


スウェーデン

「Wait...They're actually entering a marathon?」

(え、本当にマラソン大会出るの?)


トルコ

「This channel has absolutely no idea what genre it belongs to anymore.」

(このチャンネル、自分が何ジャンルなのか完全に見失ってる。)


ドイツ

「Taiga immediately tried to become cameraman 」

(大河、真っ先に撮影係になろうとしてる(笑)。)


カナダ

「The most relatable member.」

(一番共感できる。)


アメリカ

「She spent more time making those fans than training.」

(彼女、練習する代わりにうちわ作ってたんだな。)


フランス

「Worth it.」

(その方がいい。)


台湾

「Wait...HER GRANDFATHER IS GIVING THE OPENING SPEECH??」

(待って、おじいさんが開会式で挨拶してるの!?)


マレーシア

「Every episode reveals another surprising fact about Akari's family.」

(毎回、朱里の家が思った以上にすごい。)


ドイツ

「Metal cardio is real.」

(メタルで鍛えた体力は本物だ。)


ベルギー

「She takes cheering VERY seriously.」

(彼女の応援だけは本気。)


イギリス

「THIRD PLACE?! I honestly wasn't expecting that.」

(3位!?本当に速かった。)


ベトナム

「Drummers are athletes.」

(ドラマーはアスリート。)


韓国

「The drummer trained one week and got a podium finish.」

(一週間練習しただけで表彰台。)


スイス

「The farmer cardio is unbelievable.」

(農家の体力おそるべし。)


フィリピン

「Turns out carrying vegetables is excellent training.」

(野菜運びは最高のトレーニングだった。)


フランス

「She won the support category.」

(応援部門優勝。)


ブラジル

「Ruan said what everyone was thinking.」

(ルアンが視聴者の気持ちを代弁した。)


グリーンランド

「Actually...She really DID cheer at multiple checkpoints. She earned it.」

(いや、本当に何か所も回って応援してたから、納得でもある。)


ポルトガル

「She worked harder than some runners.」

(応援のために走者以上に動き回っていた気がする。)


オーストリア

「Everyone won something. This is wholesome.」

(みんな何かしらもらえてる。いい締めだ。)


ギリシア

「This is such a small-town story. I love it.」

(地方の町らしい、温かい話だ。)


南アフリカ

「One member won a bronze medal. One finished through sheer determination. One proudly accepted local sweets. One somehow won an award for cheering with handmade fans and a toy trumpet. This may be the most IN YOUR FACE! video ever, and somehow it has almost nothing to do with metal.」

(ひとりは銅メダルを獲得し、ひとりは根性で完走し、ひとりは地元銘菓を誇らしげに掲げ、もうひとりは手作りうちわとおもちゃのラッパで応援して賞をもらった。これほど「IN YOUR FACE!」らしい動画なのに、メタル要素はほとんどない。)

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