④大地は本当に農家?
(内容)大地は本当に農家なのか?
大地は自信満々に「よし、やってみべ!」と宣った。本領発揮である。何せ田畑で働く父の姿を見て育った。そこを遊び場にして育った。音楽よりも付き合いは長い。
大地は高校を出るなりトラクターの免許も取得し、畑を耕せるようになった。それからは耕作は大地の日課でもある。
撮影日当日も、トラクターで耕しているからと大河に伝え、まだ日も昇らぬうちから家を出たのであった。
大河は眠い目をこすりこすり、カメラを回しながらとぼとぼと畑へと歩いていく。
「俺も農家の次男坊ですけど、あんま畑の手伝いはしてねえです。ごめんなさい。春の田植えとか夏の梨の収穫とか、そういう特別に大変なのはもちろん手伝いますけど、普段うぢの田畑は父ちゃんと母ちゃん、大地でやってます」
すると、何やら遠くから叫びのようなものが聞こえ出す。
「あら(注:あれは)、大地が歌練習してる声です」
バサバサ、とシラサギが羽ばたいていくのが見える。
「大地はちなみに、まいんち発声練習しながら畑耕してます。周りに人もいねえし、シラサギはうっせえと思ったらちゃんと逃げてくからいいんだそうです」
大地が大河に気づいて手を振る。
「おお、来たか!」
そう言ってイヤホンを外した。
「畑の様子はどうですか?」
「まずまずだんべ!」
「そうですか。喉の調子はどうですか?」
「そっぢもまずまずだんべ! 今度の新曲練習してだ!」
「そうです。おどづい、朱里から新曲が出ました。しっかり練習してこねえど朱里に怒られるんで、みんな頑張って練習します。大地は農業もあっから農業やりながら練習をします」
「ほだ。よぐ『歌さどうやって練習しますか?』って聞かれっけど、まず準備するものは誰も人の来ねえ畑だべ」
「マイクとかでねえんですか?」
「違ぇ。畑で自然と一体になれば腹から声が出る。ほしたらシャウトでもグロウルでもなんでも歌えるようになる」そう言ってトラクターを端に停め、汗をふきふき大河の前に立つ。
「あと、今はまだ朝早いけどな、真夏の炎天下で畑耕しながら歌うのが一番効果的だべ」
「効果ってなんの?」
「ライブだべよ! ボーカルとしてライブ2時間やって最後まで全力で歌い切るには、普段から体鍛えなきゃしゃあんめ(注・仕方がないだろう)。だから炎天下で農作業やりながら歌練習すんだよ。おかげでライブでバテたことなんか一度もねえ」
「……だそうです。全然参考にならなくてごめんなさい」
「次は梨の剪定に行くべ!」
そう促され、大河は大地と共に隣の梨畑へと向かった。そこにルアンと朱里が合流する。
大地は楽し気に梨の木を一本一本検分していく。剪定及び剪定すべき木の見極め方には自信がある。
「こっだの誰が見んだべ……」腰をかがめるようにして、梨の枝にほとんど頭を掠りそうになりながらルアンが言った。
「イダさんが、MCで農家アピールしてんだから畑でも撮ってこいって言うんだもの」大河も半信半疑、ぐらいの体でカメラを回し続ける。
朱里はもうすでに畑の端で、梨を入れる箱を裏返しにしてちょこんと、座っている。足元に野良猫がやってきたので、それと遊んでいる。
「よしよし、まずこいつだな! ほれ、大河来い!」大地がしっかりとのこぎり、ハサミの準備をしてやってくる。大河がカメラを回す。
「まず準備するのは、こいつだべ。太い枝用にのこぎり。細い枝用にハサミ。あとは脚立。おっ切る木はなあ、古くて上向きになってるやづだ。こら日光通さねえからだいなやづだ。たとえばこういうの」
そう言って脚立に乗り、勢いよくのこぎりを使って木を切っていく。
「こういに太いやづは切った後、薬さ塗ってやんだ、こういうふうに」と言って大地は癒合剤を塗りたくった。「台風とかでおっちょれた場合もおんなじだ。人間で言ったら怪我したとおんなじだかんな。……これなんかは、先月の台風でおっちょれたけど、まだちゃんと治ってねえがら塗ってやる」
そう言ってまた癒合剤を塗った。
「こんでおしまい。気を付けることはだな、あんまり木が高くなりすぎねえよにバランス見て切るこど。あと、五年くれえ経った木は、梨生らせねえから切る。ほとんどは冬に切るが、夏に伸びすぎたら夏にも切る。気づいたら切る。そうしねえとお天道様入ってこねぐなる。そうすっと梨が育たねえ。えがく(注・でかく)なんねえ。あとは一本一本病気になってねえか、コブがついてねえか、そういうチェックもしなくちゃなんね」と、言って脚立から降り、片手で持つと木を見て回る。大河が慌てて後を追う。ルアンも物珍し気に続いた。朱里はあくびをしながら三人を目で追っている。
「おめは畑やんねのが?」ルアンが大河に問う。
「俺も夏の収穫ん時は手伝うけどな。大地は高校出てからはバンド以外はいづも畑さ出てっがら、大地の方がはるかに畑には詳しいべ」
「大したもんだべ」
「……大地、なんかカメラにしゃべくってくろよ」大河に請われ、うんと大地は頷く。
「ほだいな。一番忙しいのは収穫の夏だけど、実はそれ以外もやるこどはいっぱいあんだ。冬はこうして剪定だべ? ここでしみじみ(注・注意深く)切っておがねえと、日が入んねえだの実が小っちぇえだの、あどあど大変なこどになる。あと、いまちっとしたっけ(注・あと少ししたら)花粉くっつけで、実が生ったら袋かぶせで。食われねようにして。あとはここ一面ずーっと網さ張って、あどは、虫さ出ねえように消毒したり、草採ったり水やったりな。一年中手かけてやんねえど、うまい梨はできねえ」
「梨作るのは大変です」大河がまとめる。
「なんだか思ったよりも真面目な動画になったべ……」ルアンがもらす。
「でも今でこそ真面目にやってっけど、大地が幼稚園生だった頃は、ここで一日父ちゃんの仕事邪魔しながら蝉取りして虫かごぎゅうぎゅう詰めにして、母ちゃんによぐ怒られてたっぺ。あど、みみずさどっかから持ってきて、ここで梨畑の世話させるってのもよぐやって、これまた母ちゃんによぐ怒られてたっぺ」
「そういうガキでも立派な農家になりました」ルアンが締めた。
遠くで朱里は猫を膝に抱きながらうつらうつらを舟を漕いでいた。
コメント欄
ノルウェー
「Wait… he actually leaves before sunrise to work?」
(え、本当に日の出前から働いてるの?)
台湾
「I thought the farming was part of the band's image. Apparently not.」
(農家キャラは演出だと思ってた。本物だった。)
カナダ
「He's not pretending to be a farmer. He's a farmer who also tours the world with a metal band.」
(農家を演じているんじゃない。世界をツアーするメタルバンドのボーカルでもある農家なんだ。)
イギリス
「The birds are his first audience every morning.」
(毎朝最初のお客さんはシラサギなんだな。)
アメリカ
「Imagine hearing metal across the fields at 5 a.m.」
(朝5時に畑からメタルが聞こえてくるのを想像してみて。)
フランス
「The tractor is the backing band.」
(トラクターがバックバンドだ。)
ブラジル
「He's using farm work as endurance training. That's genius.」
(農作業を持久力トレーニングにしてるのか。すごい発想だ。)
マレーシア
「No gym membership.Just agriculture.」
(ジムはいらない。農業がある。)
中国
「He's explaining it with so much care.You can tell he loves this work.」
(本当に愛情を持って説明しているのが伝わる。)
インド
「I learned more about pear trees than I expected today.」
(今日は思った以上に梨について学んだ。)
ドイツ
「Of course he was that kid.」
(絶対そういう子どもだったと思った。)
カナダ
「Meanwhile…Syuri is doing absolutely nothing. 」
(その頃朱里は……何もしていない(笑)。)
ギリシア
「She found a cat within five minutes.As expected.」
(5分で猫を見つけてる。さすが。)
アメリカ
「Everyone else is working.She's living her best life.」
(みんな働いてるのに、彼女は最高の時間を過ごしてる。)
フランス
「Every group has that one person whose job is simply making the atmosphere calmer.」
(どんなグループにも、場の空気を和ませる役割の人がいる。)
チリ
「The cat clearly chose her.That's important work too.」
(猫が彼女を選んだんだから、それも大事な仕事だ。)
ベルギー
「This wasn't a video proving that Daichi is really a farmer. It showed that farming isn't a side job for him—it's part of who he is. The music and the farm don't compete with each other; they grow from the same dedication.」
(これは『大地は本当に農家です』という証明の動画じゃない。農業は彼の副業ではなく、彼自身の一部なんだと分かる動画だった。音楽と農業は別々ではなく、同じ真剣さから生まれている。)
ノルウェー
「Also… Syuri spent the entire video making sure one cat wasn't lonely. Every band needs balance.」
(それと……朱里は動画の間ずっと、一匹の猫が寂しくないようにしてた。バンドにはそういうバランスも必要だ。)




