表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/11

①筑波山に登ろう

【1】筑波山登山編

 (内容)メンバーで筑波山を登る番組。体力作りにも良い。


 大河は一応、このヘンテコな提案を大地、ルアン、朱里に見せた。

 「なんだべ、こら」大地は目を丸くする。「筑波山登れっつうのが? 俺らバンドだど?」大地が至極まっとうなことを言う。

 「俺らが筑波山に登っていぐのを撮ればいいのが? 遠足みてえだな」ルアンが言う。「まあ、足腰鍛えるっつうのは、ドラマーにとっていいことに違いねえべ」満足そうに頷く。

 その隣で朱里が顔を顰めていたが、結局何も言い出さないので、とりあえずやってみようということになった。

 そして週末。

 天候にも恵まれてしまい、四人はまず朱里の家に集まってから筑波山へ向かうことになった。

 「おめ、なんだべ、その恰好は!」

 大地が玄関から出て来た朱里をそう糾弾したのも無理はない。いつものワンピース。そして白いレースのついた日傘。

 ーーだいじょうぶ

 スマホに打って見せる。

 「何が大丈夫なんだべ!」

 「登山を何だと思ってんで? 筑波山舐めてっと怪我すっど!」ルアンも激昂する。

 しかし、とりあえず大河はイダに言われた通りに撮影を開始する。

 「朱里が、登山の恰好を間違えてしまったようです……」弁明の言を入れておく。朱里はお構いなしに、カメラ越しにひらり、とワンピースの裾をひるがえした。

 そして何はともあれバスに揺られ、とりあえず筑波山の麓に到着した。

 そそくさ、と朱里が珍しくも先頭を切って向かった先は、ロープウェイ乗り場である。

 「おめ、何考えてんだべ?」ルアンが頓狂な声を上げた。

 「登山だど、登山! ロープウェイ山でねえど!」

 聞く耳持たず、朱里はチケットを購入する。そしてスマホに何やら打ち込む。

 ーー先に行ってるから がんばってね

 見せつけると、そのまま一人ロープウェイに乗り込んだ。


 「やむを得ねえ」大地が苦虫を嚙み潰したような顔で言う。「そもそも、体育の授業でさえまどもにやっだごとねえ朱里が、山に登れるわけねえ」

 大河も頷く。

 「ちゃんと来ただけマシだべ」

 先ほどまで怒っていたルアンはしかし、小学校時代遠足でやってきた筑波山神社だの温泉だのを見ると自ずと気分も上がり、両手を上げて深呼吸を繰り返し、「まあ、俺らだけでも行ってんべ」と山道を歩き出した。

 「普段は砂沼だかんな、たまには山もいいもんだべ」そう言いながらさすがにルアンは力強く登っていく。

 「こっだな山道、結局朱里がいたら俺らが順番におぶって登る羽目になっから、ロープウェイで行ってくれでいがったべよ」大河がそう言って笑った。

 「んだな。まあ、山頂でゆっくりしでだらいがっぺ」

 石段を登っている内はまだ雑談に花を咲かせられた。しかし登頂に近づくにつれ、道も段差が大きくなる。岩場が多くなる。

 三人は汗だくになりながら、時には手を使いながらよじ登っていく。

 「あいづ、……今頃山頂で悠長にのんべんだらりとしてんだっぺな……」ルアンが眉間に皴を寄せながら文句を垂れる。

 「なーにが日傘だべ。お天道様怖くて山登れるかってんだ」大地も恨みつらみを口にしながら、よじ登る。

 大河もひいひい言いながら二人の後をついていく。


 その頃朱里は筑波山頂の土産物屋を覗いていた。

 ガマの油が名産品ということもあり、たくさんのカエルグッズが置いてある。

 ーーパパとママに買って帰ろう。

 そう思い、小さなカエルキーホルダーを手に取る。

 それから可愛らしいカエルをあしらった手ぬぐいもある。これはおじいちゃんに。

 おばあちゃんにはこっちのカエルのブローチがいい。キラキラしていて可愛い。私のも買おうかな。

 そんなことを思いながら、

 ーーまだ、みんな来ないなあ。何してるのかなあ。

 などと思っていた。


 買い物を終え、ベンチに座ってつくば市の街並みを見下ろしながら、朱里はソフトクリームをなめていた。

 そこにようやく疲弊極まった、汗まみれの三人が到達する。

 朱里はここだよ、と軽く手を振った。

 「……おめ……、何を悠長に」タオルを首に巻いたルアンが恨みがましい眼差しを向ける。「俺らがどんだけ苦労したことか……」

 「……ついに、ついに」大河がカメラに向かって必死に語る。「山頂に辿り着きました。先に朱里がアイス食ってます。美味しそうです」そこまで言って、はあと息を吐いてしゃがみ込む。

 「おお、いい眺めだべ!」大地は汗を拭きながら爽やかに背を伸ばした。「つくば市丸見えだっぺ。下妻も見えっぺか?」

 朱里は立ち上がると一人一人にチケットを手渡した。

 「つくばうどん大盛り」

 ーー先に食券買っておいた 食べよう

 そう打ち込んだスマホを見せる。

 「気が利くでねえが!」ルアンが朱里の背中をばしん! と叩いて讃嘆する。食い物を呈せば大抵のことは許してしまうのがルアンである。

 ーーここの名物だって おいしいって

 朱里も柔和な笑みを浮かべて答える。

 「つ、次に、みんなでうどん食いに行きます」大河が息も切れ切れにカメラに語る。


 『いただきます』

 大地、大河、ルアンは早速うどんを啜りながら、さらに出てくる汗を拭う。

 「こっだいな(注:こんな)映像さ観で誰が楽しいんだべか」ルアンがカメラを睨みながら訝る。

 「ほだいな。筑波山さ登ってうどん食って、朱里が涼しい顔してるだけの映像だべ」

 「まあ、イダさんYouTubeさ上げろつってっから、編集して上げてみっぺ」

 さすがにこのローカルすぎる動画はすぐには多くの視聴回数は得られなかったが、なぜか突然主に海外からのアクセスで視聴されるようになったのがヴァッケン出場後のことであった。

 海外勢の反応。


ドイツ

「待て待て待て。Wackenであんな凶悪なライブをした連中が、次の動画では山登りしてるぞ?」


フィンランド

「ドラマーがずっと文句を言いながら登ってるの最高。」


スウェーデン

「メタルバンドのVlogかと思ったら、ただの遠足だった。」


アメリカ

「The girl taking the ropeway is the smartest person in the band. 」

(ロープウェイに乗った女の子がこのバンドで一番賢い。)


イギリス

「He keeps saying ‘We’re a band!’

That’s exactly what I’m thinking.」

(『俺らバンドだど!』って何回も言ってるけど、それ俺も思った。)


フランス

「I laughed for five minutes when she bought a ropeway ticket without hesitation.」

(迷いなくロープウェイのチケットを買うところで5分笑った。)


ブラジル

「She isn’t lazy. She’s efficient.」

(彼女は怠け者じゃない。効率的なんだ。)


ヴァッケン出場前の素朴な姿がなぜかウケたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ